第二話 運命の邂逅
二作品同時連載予定と言ったな。あれは嘘だ。(もう一方の作品は後日第一話をアップします)
目が覚めると、そこは草原だった。一本の道が西から東へ続く以外、視界を遮るものは何もない。地平線って久しぶりに見た気がするなぁ…
僕はとりあえず東に行くことにした。理由は単純だ。遠くに東へ向かって進む馬車が一つ見えたからである。それはつまり、東に街があるということでしょ?僕はその馬車の後をつけていくことにした。距離は大分あるが、馬車のスピードはそう速くない。じきに追い付けるだろう。馬車の主と話して色々と情報を引き出せると良いな…。
あ、ちなみに魔法の使い方とかはなんとか把握できました。ここんところも神様に尋ねようと思っていたのに、尋ねる間もなく転生しちゃったから不安だったのだが、どうやら大丈夫そうだ。目が覚めてしばらくしたら自ずとだんだんわかってきたのである。それは、わかってきた、というより思い出した、という方が適切そうな感覚だった。意識がはっきりしてくるとともに、魔法の使い方も理解できたのである。とはいえ、攻撃魔法にも色々な種類があったり、詠唱の仕方にも高速詠唱だの二重詠唱だの色々な方法があったりして、さすがに複雑すぎて完全には理解しきれていない。まぁそのうち使いながら慣れていくだろう。
そんなことを考えながら歩いているうちに、大分距離は縮まってきた。どうやらあの馬車は客室がなく、御者台と荷台しかないつくりのようだ。だとすると、乗っているのは商人だろうか。
「しかしアレだよな。こういう商人の馬車ってのは盗賊に襲われるのが異世界あるあるってもんだよな笑」
何の気なしに独り言ちる僕。この後起こる一件から僕が得た教訓は、むやみにフラグを建てるなってことだ。
「そこの馬車!とまれ!」
突然あたりに怒声が響き渡った。それと同時に、道の両脇の茂みから人影が現れる。全部で十数人といったところか。とっさに茂みに身を隠した。まだ僕には気づいていないようだ。
「マグラス行き商人の馬車だな?今すぐ有り金と積み荷をすべて置いて馬車から降りろ!」
「お願いします、見逃してください!これを盗られたら明日から食べていけません…」
馬車の主らしい男性が御者台を降りながら懇願した
「うるせぇ、知ったことか!明日の食い扶持と今日の命、どっちが大事だ?ああ?」
こうもあからさまだと察せざるを得ない。これは野盗だ。間違いない。言霊って本当にあるんだな…
しかしそんなことを悠長に考えていられるほど、事態は緩くないようだった。既に馬車の荷台から多くの荷物が運び出されようとしている。盗賊たちが馬車の荷台の戸を開けたその時だった。馬車の荷台から、一人の少女が飛び出してきたのである。
「ああああ!」
「ちょっ、なんだこいつ!」
少女は叫びながら盗賊の一人にとびかかった。しかし、体格差は歴然。すぐに投げ飛ばされてしまった。
「くそったれ!この女調子に乗りやがって、ぶっ殺してやる!」
うずくまる少女。その瞳には涙が浮かんでいる。そんな少女に向かって、とびかかられた盗賊が歩み寄り、手にした剣を振りかざした。
「死ねえええええ」
盗賊の声が響く。しかしその言葉とは裏腹に、少女が死ぬことはなかった。理由は単純だ。僕が助けたからである。盗賊の剣は、僕が魔法で作り出した光の壁に遮られ、その切っ先が少女に届くことはなかった。
「なんだこれは!」
「狼藉はそこまでにしてくれないか」
この馬車に無くなってもらっては困るのだ。街に行けなくなっちゃうじゃないか。それに神様にもらったこの能力、試してみるにはちょうどいい相手だ。そして何より…
「女の子を泣かせといて、タダで済むと思うなよ!」
考えるより先に言葉が出ていた。僕の言葉を聞いた盗賊たちは一瞬面くらったような反応をしていたが、すぐに大笑いを始めた。
「はーっはっはっは。こいつぁあ傑作だ。どこの正義の味方気取りだよおめえは!伝説の勇者でもあるめえし、この人数に一人で、しかも丸腰で勝てる気か?」
そういいながらリーダー格と思しき男が近づいてきた。男は僕と一メートルくらいの距離になった瞬間立ちどまり、下から僕の顔を覗き込むようにしながら、真顔で、マジトーンで、言い放った。
「どうやら多少は魔法が使えるみてぇだが、その程度でイキってんじゃねぇよ。大人の喧嘩に手を出すのはやめときな、坊主。殺すぞ。」
なるほど、相手も歴戦の盗賊。凄みを利かせるのも上手い。けれど、そんな程度僕には些細なことだった。これしきでひるむわけがない。僕は殺意を込めて睨み返した。
「…!」
きっとそれを感じ取ったのだろう、盗賊のボスは一瞬驚いたような表情をした後、さっきまでとは目の色が変わった。どうやら僕の実力の高さを感じ取ったようだ。剣を構え、警戒を緩めることなく、僕との間合いをじりじり詰めてくる。そして。
「うおおおおおおおお」
そう叫びながら切りかかってくる。こいつらの敗因は一つ。なまじっか強かったことだろう。
僕の実力を見抜ける強さをもちながら。
僕との実力差を見抜く強さは持っていなかった。
「ファイア」
僕がそう唱えると、ボスの体は炎に包まれた。
「ぐあああああ」
苦痛に満ちた叫び声が辺りに響く。確かこの呪文は炎系の最下級のものだったはずだが、こんなに効くものなのか。これは楽勝かもしれないな。僕がそう思っていると、
「アクア!」
ボスが叫んだ。宙に水が現れ、その身を焼く炎が鎮火していく。
「呪文を使えるのが自分だけだと思うなよ!」
お。今のを耐えるのか。なかなかやるじゃないか。
「野郎ども、行くぞ!こいつをフクロにしちまえ!」
そう叫ぶと、手下の盗賊たち共々一斉に切りかかってきた。
「やれやれ…」
あきれて声が出てしまった。どうやらまだ彼我の力の差が分かっていないらしい。まぁちょうどいい。頭は残念でも体だけは丈夫なようだ。魔法攻撃の実験台にでもしてやろう。
「フレア」
炎系の最上級魔法を唱える。
次の瞬間。視界をまばゆい光が包んだかと思うと、爆炎が天高く立ち上った。あたり一面が激しい大爆発に包まれる。
「これが最上級魔法の威力か…」
最上級の称号は伊達じゃない。これをまともに食らって生きていられる人間など居ないだろう。先の盗賊連中も消し炭さえ残っていないはずだ。
本来なら、ね。
実際には誰一人死人は出なかった。当たり前だ。僕が助けたんだから。
というか正直、フレアがこれほどの威力を持っているとは思わなかった。調子よくぶっ放したはいいが、これでは助けようとしたはずの商人や少女まで灰にしてしまう。なので僕は呪文を唱える瞬間に、できるだけ威力を下げて打ったのだ。それだけじゃない。それだけならば消し炭がぎりぎり残る程度にしかならないはずだ。
「し、信じられません!」
少女の声が響いた。どうやらその声は僕に向けられているようだ。
「フレアの威力が尋常じゃないことや、放つ直前に威力調節を行うこと、もうなにもかも規格外ですが…」
あ、やっぱフレアの威力高すぎるのね。これもチートの力か…。少女が感動したように続けた。
「フレアを打つと同時に私たち全員にシールドとアクアのバリアを張ってくださるなんて…!」
そうなのだ。このままでは少女と商人まで焼き尽くしてしまうと恐れた僕はとっさにバリアでみんなを保護した。いわゆる二重詠唱というやつだ。いや、この場合三重詠唱かな。バリアを張り終わる前にフレアを打っちゃうんじゃないかと思ってひやひやしたけど、間に合ってよかった。魔力の調整も今はおぼつかないが、じきに慣れるだろう。盗賊たちはそのまま消し炭にしても良かった気もするが、まぁいかに悪人とは言えど人を殺すのは後味が悪い。それに、こんだけ力の差を見せつければもう歯向かってはこないだろう。事実、盗賊たちは全員茫然自失といった感じでポケーっとしてしまっている。刺激が強すぎたか…
「常識外れのとんでもない魔導能力を持っていながら、悪人の命も助けるやさしさ…。ああ…この人なら…」
もっと何か言いたそうな少女の言葉を、盗賊たちの声が切り裂いた。あ、やっと復活したのね。
「ッチ!覚えてやがれ!」
リーダーがそう吐き捨てると、盗賊たちは一目散に逃げていった。その声は恐怖に満ちていた。まぁあれだけこっぴどくやればしばらくはおとなしくしているだろう。追いかけるのも手間だ。危機は去ったし、これで良しとしよう。そう思いながら振り向くと、トンッと軽い衝撃が走った。かの少女が僕に抱き着いてきたのである。生まれてこのかたこれほど女子と接近したことがない僕的には異常事態だ。えーと、えーと、何か言わなきゃ、色々と柔らかいなぁとかそんなことしか思いつかない…。
「ありがとう…」
少女の言葉で僕は現実に戻った。
「助かりました」
どうやら少女は心の底から感謝しているようだった。
「いやぁ、本当に助かりました。何とお礼をしたらいいやら…私はこの馬車の主で、商人をやっております。王都マグラスへ向かう途中盗賊に襲われ、あなたがいなければどうなっていたことか。」
馬車の主も早口で感謝の言葉を伝えてきた。やはり読み通り商人だったか。
「いえいえ、自分にできることをしただけです。」
「しかし、私たちはあなたに救われました。何かお礼をしたいのですが…」
こういう展開なら好都合だ。街まで送って行ってもらおう。
「では、王都まで送って行ってもらえませんか。荷台に乗せてくれればそれで充分ですから…」
「なんのそれしき、お安い御用です!」
商人はそういうと、僕を荷台に乗せてくれた(少女も一緒だ。)そして、すぐに出発した。 計 画 通 り。これで難なく街にたどり着くことができる。ここまでは僕の読み通りだ。
尻切れトンボ感がありますが切りどころが分からなかったのでとりあえずここまで