第十四話 祭式の風聞
毎月偶数週は更新します
奇数週は進捗次第です
まったり更新になりますがどうかお付き合いください
引き続き、王宮の一室。既に朝食は食べ終わり、食後の紅茶をすすっている。それもちょうど飲み終わろうかという時、再びドアをノックする音が響いた。
「何用だ」
王様が答える。
「私でございます、陛下」
「入れ」
ドアが開き、一人の男が入ってきた。その男は、今朝食堂に行ったときに僕らに王様の部屋に行くよう指示してくれた人物だった。執事、あるいは側近的な何かなんだろうか。
「失礼します。朝食はお済みになられましたでしょうか?そろそろ執務の時間が押してしまいますゆえ…」
「うむ。わかった。すぐに執務室に向かおう。この者たちを部屋に案内してやれ。あと、例のものを」
「かしこまりました」
そういうと、王様は僕らの方に振り返って
「ささ、重い話ばかりで疲れさせてしまったな。部屋でゆっくり休むと良い」
といった。なんか体よく追っ払われた気もするが、実際ちょっと疲れたし、朝食も食べ終わってるしちょうど良い頃合いという奴だろう。僕は席を立った。それに続いてリーアも席を立つ。
「勇者サトシ様、先ほどは名乗りもせずにここへ来るよう申し上げてしまい大変失礼しました。すこし枢機院との間で早急に処理せねばならぬ事案があったものですから…。わたくし、王宮の執事長を務めさせていただいておりますアナスタシオと申します。どうかお見知りおきを」
ぴしっとした身なりの男性が自己紹介する。先ほどはモブだと思ってあまり注視してなかったが、よく見るととてもダンディな男だ。つまりダンディ・ナスオ。
「ああ、よろしく。ところで、例のものというのは…」
「神威の鎧です。すでにサトシ様たちの部屋に届けるよう手配しております」
仕事が早い。できる大人って感じだ。
「サトシ様たちは、南の聖域に向かわれるのですか?」
「そのつもりだけど」
「でしたらちょうど良い。南の聖域の手前に村があるのですが、そこでちょうど祭りが行われる時期なのです。小さな農村ですが、その祭りは大国有数の歴史を持つ有名なものなんですよ。この数日お疲れのことでしょうし、ここらで一息リフレッシュしてはいかがでしょう?」
急に予期せぬ話を振られてびっくり。宮廷魔導士長の件といい、今日は藪からスティックな展開の目白押しだぜ。
「良い…良いですね!行きましょう、サトシ様!」
リーアは目をキラキラさせて僕を見つめている。そ、そんな祭り好きだったのか…。
けどまぁ確かにここに来て以来気が休まらなかったし、そういうイベントがあっても良いころ合いかもしれない。女子とお祭り…なんて甘美な響き…。
「お昼に出発すれば夜までには着くでしょう。馬車を手配しますか?」
「ありがとう、頼むよ」
「では準備ができ次第また声をおかけしますので、それまではお部屋でお待ちください」
ナスオがそういうちょうどそのタイミングで、僕らの部屋についた。ドアの前に兵士が数人立っており、大きな包みを乗せた台車を囲んでいる。お、もしかしてあれは…?
「あ、アナスタシオ様!それと勇者サトシ様も!」
兵士の一人が僕たちに気付き、声をかけてきた。ナスオがそれに答える。
「それが神威の鎧ですね?」
「はい、その通りです!」
兵士はそういうと、それを包んでいた布を暴いた。そこにあったのは神々しく荘厳なオーラを放つ一領の鎧、まさしくレジェンド装備がその一つ、神威の鎧だった。僕はこの世界の防具には何の知見も有していないが―もしかしたらだからこそかもしれない―伝説の勇者たる僕にはそれがレジェンド装備だと直感的に理解できたのである。
しかし、毎度このレジェンド装備ってやつには圧倒される。ただの防具のくせにこうもビシビシとオーラ出してくるんだからよ…
そう思いながら僕は一歩ずつ近づき、じっと手をのばし、鎧を手に取った。考える前にわかる。今この瞬間、僕はこの秘宝を我が物としたのだ。それはつまり、南の聖域に入る資格を手に入れたということでもあるらしかった。
「無事受け渡したということでよろしいですね?では、また後程に」
そういうと、ナスオは兵士たちを引き連れて足早に去って行ってしまった。なんだかいろいろと急展開過ぎてちょっと追いつけてない感じもあるが、とりあえずひと段落というところだろうか。イベントが目白押しでちょっと疲れたが、幸いしばらくは時間があるようだ。出発の準備もあるし余裕綽々と言う訳にもいかないが、部屋で一息つくとしよう。
「お祭り楽しみですね、サトシ様!」
リーアが満面の笑みで僕に声をかける。ああそうだな、と返事をしながら僕らは自室へと戻った。
ちなみに王様の名前はサルモン11世です
英雄王サルモン一世と被るのであえて固有名詞は出していません