第一話 転生の勇者
序章なので短めです
二作並行して連載する予定なので、更新が遅れるかもしれませんがお許しください。
第一話 転生の勇者
サメに襲われて死ぬ確率は雷に打たれて死ぬ確率よりも遥かに低い、という話を聞いたことがあるだろうか。有名な話ではあるのだが、実際データの上でもそうらしい。この話にはたいてい次のような文章が続く。「だから、サメに食べられて死ぬ心配はほとんどないんだよ」と。だが待ってほしい。それはつまり、雷に打たれて死ぬ確率は、サメに襲われて死ぬ確率よりも遥かに高いということ意味しているにすぎないのではないか。つまり、落雷で死ぬなんてよくあることなのではないか。
さて、開始早々数行にわたってとりとめもないことを話し続けてきたが、ようするに僕が言いたいのは死にたくないということである。だって、よくあることだとでも思わなきゃやってられないでしょ、こんなの。たまたま雷に打たれて死ぬなんてさ、あんまりだよ。どうかしてるよ。
ここまで考えて僕の意識は途絶えた。あーあ、雷注意報が出てるのに傘さして帰るんじゃなかったなぁ…。
目が覚めた。白。あたり一面が白だ。最初は病院にいるのかと思ったが、すぐに違うとわかった。ここは天国だ。僕は直感でそう理解した。すると僕はやっぱり、あの時の落雷で死んだのか…
「目が覚めたかね、斧崎サトシ君。」
急に僕を呼ぶ声が聞こえた。振り返ると、白髪の老人が立っていた。
「あ、あの、あなたは一体…」
そう問いかけてから野暮な質問であることに気付いた。このシチュエーションなら答えは決まってるじゃないか。
「わしは神様じゃよ」
ほらね、と僕は思った。しかし、次の一言は正直予想外だった。
「いやぁ、手違いで死なせてしまって実にすまなかった。」
…え?手違い?
「ギリギリ生き延びさせるつもりだったんじゃが、ちょいと調整を間違えてしまってなぁ…。君を殺すつもりではなかったんじゃ。」
正直いまいちピンとこないが、要するに僕は神様の手違いで死んでしまったらしい。神様ってミスとかするんだ、意外。
「そこでだ、君を別の世界に転生させようと思っている。もちろんタダでとは言わない。体力も魔力もすべて世界最高水準にするつもりだ。」
「ええ、わかりました。そういうことなら。」
「ず、ずいぶんあっさり受け入れるのう…。普通はもっと驚いたり騒いだりするものなんじゃが…」
そんなもんなのか。まぁ、たしかにふつうはそうかもしれないな。いきなり殺されて、いきなり天国。そこで強くしてやる、辛い世界へGO!とか言われても納得しろという方が無理な話かもしれない。というか、僕自身納得しているわけではない。けれど
「だって、僕はもう死んでしまったのでしょう?ならとやかく言っても仕方ありません。過ぎたことを必要以上に気にするのではなく、未来に目を向けるのが建設的というものです。それに、神様だって僕に特別の恩義を図ってくれるみたいですし…。むしろ受け入れない理由がないのでは?」
これは間違いなく本心だ。
「達観しとるのお…。いや、人間ができているというべきか。こんな人格者を死なせてしまったのかと思うと、余計に心苦しいわい…」
「そんな神様、気にしないでください。」
どうせ現世にいても…という感じはあった。なら、異世界で一花咲かせるのが男のロマンというものではないだろうか。
「その謙虚な姿勢、実に素晴らしい!並び立つ者がいないくらいの強者にしようと思っておったが、それくらいでは気がおさまらん!ここはひとつ、誰も真似しえない唯一無二の究極の能力を授けよう。」
お、キタコレ。これ勝つる!
「神様、その能力というのはどうい…」
しかし、僕の質問が神様に届くことはなかった。タイムリミットが来たからである。
「おお、もう転生する時間のようじゃ。おぬしの素質があれば、どんな困難も難なく乗り越えられるじゃろう。じゃ、素敵な異世界ライフを~」
その言葉を最後まで聞いたか否か。それくらいのタイミングで僕の意識はブラックアウトし、深い無意識の底へと沈んでいった。