第29話
ドラゴニックリザード、直訳するとドラゴンのような蜥蜴。
名前からして、こいつに進化すれば目標のドラゴンに一歩近づく事ができそうだ。が……、こいつの事も全然わからないし、他にも選択肢はあるこの状況で、安易に決めてしまっては地雷を踏みかねない。というわけで、一応全部再鑑定していこう。
意識をウィンドウの3つの選択肢に注目し、再鑑定。
俺の発声と同時に、新たに三つのウィンドウが表示される。
「名称 ラージアクアスネーク 危険度C
解説
スネーク種の一種であり、スネーク種の上位種の一つ。もともと亜種であるアクアスネークが、進化した姿で全長約10m。通常の上位種とは違い、水属性を得意とし遠距離、近距離ともに莫大な強さをほこる。近距離戦のみしかできない同じスネーク種の上位種であるラージスネークの、完全なる上位互換。また、通常種は魔力値が高くないのに対し、亜種となり属性を持つことによってMP、魔力値がともに高くなった。
進化条件
・アクアスネークのレベルが20である事」
「名称 ポイズンスネーク 危険度 C
解説
スネーク種の一種であり、スネーク種の上位種の一つ。ラージ型の上位種とは違い、全長は元のサイズと変わらず凡そ3m。名前通り毒を強化したスネーク。もともと毒がなかなかに強いスネークの毒強化版ということもあり、毒が体に入れば例えBランクの魔獣であっても一撃で倒してしまう。その上、隠密スキルも強化される為、奇襲攻撃に特化した魔獣である。外見的特徴は鱗に不吉な模様が浮かんでいることで、見かけたら逃げろというのが冒険者の鉄則。
進化条件
・現ランクで最大レベルである事。
・スネーク種がDランク以内で二度目の進化を迎える」
「名称 地を駆ける翼無き竜 亜種 危険度C
解説
名前に竜と入っているが、魔生物学上はリザード種である。全長は約4~5m。四足歩行で大型のリザード種の中ではとても身軽。多くの竜種と違い、空を飛べない代わりに、最高時速は60kmに達する。また、通常種の他に数種類の亜種がいる。これは進化前の魔獣によって決まり、竜種への進化先に大きく影響する。竜種の眷属である爬虫類型の魔獣が竜種に進化するための、一般的な道である。竜への成長段階とも言われ、冒険者ギルドでは、ドラゴニックリザードが発見された場合には高ランクの冒険者に招集をかけ討伐させるほど。
進化条件
・Dランク以下であり、現ランクで最大レベルである事。
・竜の眷属である爬虫類型の魔獣が進化の時までに、自らの手で竜種を殺し、その竜種の血肉を喰らう」
……うん、ドラゴニックリザードに決定だな、これは。ラージスネークもポイズンスネークも確かに魅力的だが、ドラゴニックリザードには見劣りする。解説からはドラゴニックリザードの能力が分からず少々不安もあるが、竜種への道と言われてしまっては、選ばないわけにはいかない。俺の目標は、ドラゴン――つまりは竜種になる事。そしてこの選択によって、目標へあと一歩のところまで近づけるのだから。
……よし! それじゃあ地を駆ける翼無き竜に進化!
その言葉の発声と同時に、ウィンドウのドラゴニックリザードの文字が青白く光り、ウィンドウの進化画面が消滅する。が、体に何の変化もない。
あれ? ここで疑問に思い、一度自分の記憶を振り返る。……ああ、そういえばすぐに何かがあるってわけじゃなかったな。だったらもう寝よう。流石に疲れて、さっさと寝ないときつい……。
こうして俺は眠りについた。
――同時刻、話はアストルの森中心部へと移る
パチパチパチと焚き火の音が響き渡る。周囲は一部を除き岩の壁。湿気が強くじめじめしている。外は暗く、焚き火の光がほんのわずかな範囲を照らしている。焚き火のそばには一人の男が座っていて、その周りでは数人の男が横たわっていた。
俺の名はドール・ガラスティン。このアストルの森調査団で団長をしていて現在は、中心部へ突入し任務遂行中だ。そしてここは、アストルの森中心部、その洞窟の一つ。数日前この森の中心部へ突入した俺達は現在、古代樹のすぐ近くに位置する、洞窟にて休息をとっていた。ほか突入メンバーたちは一人を除いて、就眠中だ。よく耳を澄ますと、「ぐがぁ、ぐがぁ」と、いびきも聞こえてくる。時間制で二人ずつ見張りを配置していて、現在は俺が見張り。
「はぁ……。今日も疲れたな。アストルの森の中心部。まさかここまでとはな」
目を閉じると、ここ数日の記憶が呼び覚まされる。確か、最初に森に入って見かけたのはAランクの魔獣だった。ごつごつとした、巨体を持ち、すさまじい威圧感を放っていた。こんな魔獣が放たれたのなら、小国ならば間違いなく滅びるだろうと思えるほど。魔獣を発見した俺達は迅速に決断し、隠れ身を潜めるという行動をとることにした。もちろん、勝ち目がないそう考えたからだ。
早く去ってくれと願いながら身を潜め、その魔獣を監視していた。そして、恐怖する俺達を嘲笑うかのように、それは唐突に起こった。俺達が避ける選択をし、監視していた魔獣が一瞬でバラバラの肉塊と化したのである、次に来た魔獣によって。俺達は、その光景を見て笑う事しかできなかった。その時、俺達は確信した。ここは、人が来て良い場所ではなかったのだと。
その後も、魔獣への恐怖へあったが俺達は古代樹を目指して進んだ。魔獣を見つけては、隠れ、俺達は多くの魔獣と、いろんな光景を見た。そして、進むにつれ知っていった、この森がどんな場所なのかと、どうすれば生き残れるのかを。
また更に森を進み、ようやく俺達はここまでたどり着いた。思えばよくここまで生きてこれたなと思う。いくら優秀な人材のみで構成した突撃メンバーでも、あんな魔獣がゴロゴロいるのだから普通に考えて無理だ。本当に幸運だった……。
「……おっと、いかんな。ぼーとしていては。俺の見張り次第で皆の命がかかっているのだ。集中しなくては」
集中、集中、集中、集中。そう唱えて、五感の感覚をとがらせる。
集中した、数分後、ガサッという音を立てて、入り口から一人の少女が洞窟へ入ってきた。一瞬警戒し、おもわず立ち上がったが、その姿を見てほっとして再び座る。
「なんだ、スークリティー殿か。魔獣ではないかと思い、驚きましたよ」
「それは、申し訳ない」
「それで、偵察の成果は?」
彼女は、少し険しい表情をし頭を横にふった。
「流石に魔獣が多かったから、偵察ができなかったわ」
「そうか……。まあいい、スクリティー殿も疲れただろう。見張りは俺がやっておくから休むといい」
「ありがとう。お言葉に甘えさせてもらうわ」
そういって彼女は、毛布とともに横たわり、眠りについた。それを確認した、ドールは
「待っていて下さい陛下。任務を完了し、すぐに陛下の元へ賢者の果実を持ち帰って見せます」
と、つぶやいた。




