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第22話

 ーーそして明の日の朝早くテント内


 一つのテントに数十人の冒険者、傭兵、ドールの部下が集められていた。腰には短剣。服は黒や茶を主な色としたレザーアーマーのような物を着込んでいる者が多い。言わずとも分かると思うが、この者たちは冒険者のランクで言うとCランク以上の隠密に隠密に長けた者である。


「こんな朝早くだがよく集まってくれた。そしていきなりで悪いんだが、お前達にはこれからとある任務をやってもらいたい」


 動揺している者はいない。まあ、集められる前にある程度の事は聞いているはずなので、当たり前と言えば当たり前の話だ。ちなみに話をしきっているのは、もちろん調査団の団長ドールである。


「感のいい者ならもう気づいているかも知れないが、このキャンプ付近に強力な魔獣が出現した。まだ情報が乏しくどのような魔獣なのか、また何処にいるのかも特定できてはいないが、少なくともランクはB以上と考えている」


 静かだったキャンプ内が、一気に騒めく。大半が「嘘だろ」や「情報が乏しいのなら何とも言えないだろ」と言う不満の声だ。恐らく魔獣の情報は聞いていなかったのだろう。いくらその道のエキスパートと言っても、Bランク以上の魔獣の偵察依頼など受ける事はまず無い。そもそも、Bランクの魔獣とは街の危機を危惧されるような魔獣の事で、そんな魔獣が頻繁に発生する訳も無いのだ。もっとも、今いる森は大陸でも有数の危険地帯なので沢山いたとしてもおかしくない。


「おっほん、そして任務の内容だが、これは大きく分けて二つ。一つ目は、このキャンプ付近及び、ラグアナ湖周辺の強力な魔獣の偵察。相手はランクB以上の強力な魔獣だ、欲を言えばある程度実力は知りたいが、遭遇した場合は極力戦闘を避け、監視に移り情報を集めろ。そして、もう一つは現在行方不明になっている偵察隊だった二名の捜索と救出だ」


 まず第一の目的は偵察、討伐では無いという事を良く理解してほしい。これ以上の犠牲者は出したく無い……。


「前もって聞いていると思うが、今回の偵察は二人一組で行ってもらう。一人で行う事に慣れているとは思うのだが、受け入れてくれ」


 異論を上げる声はいない。相手のランクの高さから考えれば、一人では危険だという事が一目で分かるからだ。


「よし。では次に、ペアの編成だがーー」


 と、ペアの編成と各ペアの偵察する位置などが説明され偵察隊の会議は終わった。そして、間も無く偵察隊のメンバー達は偵察へと出立した。



 ーーそれから一週間後の夜、一つのテント内



 団長であるドールは椅子に座り、森の地図を見ながら頭を抱えていた。


「偵察隊だったレイスの遺体。ラグアナ湖周辺の謎の戦闘跡と各地で見られた大きな物を引き摺った(引きずった)様な跡。ここ一週間で偵察隊から集まった情報は三つか」


 遺体付近の木々に斬られた様な跡が残っていた事から、レイスはタイガーキャットかその上位の魔獣にやられたと考えるのが妥当だろう。だとすると、


「もう一人もそいつらにやられたのか?」

 いや、それを決めるにはまだ早い。それに、戦闘跡と引き摺った跡というのも気になる。獣系統の魔獣が多いここでは普通に考えればそんな跡は残らないはずだ。ということは、中心部の魔獣が西側へ侵入して来たという事になる。その事を考えれば、跡の持ち主にやられた可能性も考えられるか。

 はあ……。一週間偵察隊を送り調査しているのに相手の正体は分からず、あと一人の行方も相変らず分からずか。

 と、大きな溜め息を零し、再び思案を巡らせる。


「団長、失礼します」


 入って来たのは副団長のオースル。もっとも、このテント内に入ってくるのは、ほとんどがドールとオースルのみなのだが。


「なんだ」


「団長、先程偵察隊が戻り報告を受けたのですが……新たに引き摺った跡の様なものを見つけたのですが、今日もやはりその跡の主を見つける事はできず、行方不明のもう一人の方も発見できなかった。と」


「そうか、行方が分からなくなってもう約10日か」


 あまり考えたくはないが、彼はもう生きてはいないだろう。それらしい跡も残っていないが……。ラグアナ湖付近の戦闘後は、もう一人の偵察場所とは湖一つ挟んで反対側でこれもおそらく彼のものではないだろうしな。では、彼の遺体は何処へ行った? 捕食されたのなら痕跡くらい残っているはずだが。うーむ。もしかして中央部へ再び戻ったということか? うーむ。


「団長考え中の所悪いのですがもう一つ報告するべき点が」


「かまわん。なんだ?」


「はい。そろそろ非常食の干し肉などが底を着きそうで、これ以上ここにあまり長居は……」


「そうか……」


 この状況で食糧難か。冒険者達や平民は魔獣の肉を食べるらしいから、ある程度は魔獣の肉で何日かは滞在できると思うが、数日で貴族出身のもの達などが限界になるだろう。そうなった場合撤退は免れない。当然だ、そのもの達だけ後方へ送る訳にはいかないからな。それなら、魔獣の不安があるが調査団の任務を遂行した方がいいか。


「よし、オースル。食料の方は、魔獣を狩り冒険者の指示の元調理し、魔獣の肉を食って生活することにしよう」


「魔獣の肉をですか⁉」


 分かりにくいが、なんとなく嫌そうだ。やはり貴族出身の者には魔獣の肉を食べるのに嫌悪感があるようだ。


「ああ、貴族だったお前達には少し辛いとは思うが、平民は普通に討伐した魔獣の肉を食べているそうだからな」


「わ、分かりました」


「それともう一つ、当初中央部へ突入する予定だったもの達を明日の朝集めてくれ」


「なぜです?」


「俺たちは、近いうちに中央部へ突入し調査団の任務を遂行する!」


「なぜ急に? 食糧難は先ほどの案で解決できるのであれば、任務を急ぐ必要は無いのでは?」


「ごもっともな質問だ。理由は二つ。一つは先程の案では、ただの一時しのぎにしかならないからだ。先程のお前の反応を見る限り、貴族出身の奴らには流石に厳しいだろう。次に、このままここで偵察隊を放っているだけでは、事態は進展しないと思ったからだ。ここ一週間毎日、キャンプ付近の森の西側へ偵察隊を放っていても、跡の主である魔獣を発見すらできなかった。このことから考えて、俺はすでに中央部へその魔獣が戻っていると考えているからだ」


「すみません我々を気遣って頂いて」


「いいさ、別に。この事は調査団全体に関係があることだからな」


「ありがとうございます。では、私は明日の準備があるのでこれで失礼します」


「ああ、後は任せたぞ」


 オースルがテントから出て行った後、ドールは突入の陣形を案を練り始めた。

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