第21話
ーー俺が拠点へ帰った昼頃ラグアナ湖より南西にある小湖では
昼の森に鉄の音が響く。ハァ、ハァと短息をし、明らかに疲れきっている団員達。これは、ドールの率いる総勢約170人のアストルの森調査団である。
半数以上の調査団員はすでにかなりの疲労を抱え、歩くのがやっとの事だ。これは、別に団長であるドールが無能だからでは無い。これは、絶え間なく来る魔獣の襲撃のためだ。団長であるドールは、偵察隊を結成しルート確保の為の魔獣の討伐をさせたが、当然討伐できる数には限りがあり、焼け石に水。移動中の魔獣との遭遇、襲撃は避けられず、昼夜共に常に周囲への警戒を強いられた。その結果、交代制で見張りを行っていてたとしても、団員達の疲労は溜まる一方であったためだ。
「団長、偵察隊の情報によれば、あと少しで小湖に着くそうです」
「ああ、分かっている」
副団長であるオースルの助言を聞き、足取りを早くして歩く。永遠と続くようだった木々が、徐々に減っていく。少し進むと木々は途中で途切れ、そこに小湖が現れた。
「……やっと着いたな」
取り敢えずまずは、安全確認をしなければ。
目を凝らし周囲を見回すーー。だが、幸い魔獣の姿はない。
「……目視で確認できる限りは魔獣の姿は無いか」
よし。それなら、団員達にこの事を伝へて、少し安心させてやるとするか。
「団員達、第一目標地点に着いたぞ!」
「……」
普通なら雄叫びが聞こえてくる物だが、あったのは沈黙。誰も雄叫びなどを上げなかった。いや、あげる余裕が無かったと言うべきだろう。皆疲労のせいで雄叫びをあげる体力など残っていない為だ。多くのものは大きく息をつき、ほっとした様子で地べたに座り込み、一部のものは安心からか、そのまま限界が来て倒れている。
「一応軽く確認はしたが、辿り着いたからといって安全な訳では無いのだが……。まあ、しょうがないか。団員達には、少々過酷な移動だったのだろう」
「そうですね。それにしても団長。移動中に例の魔獣に遭遇せずに済んで幸いでしたね」
「ああ、本当にな。もしも俺達が想定していたような魔獣と遭遇していたら、隊は乱れ調査団の壊滅は免れなかっただろう」
「ええ、本当に……。まあでも、少し魔獣との遭遇と襲撃が多くて大変でしたがね」
「ああ確かにな。ひょっとしたら強力な魔獣が出たのではなく、行方不明の2名も魔獣が多く身動きが取れない状況なだけなのかもしれないな。まあ、どの道助けに行かなければならない事には変わりないが」
本当にそうだとしたら、三日前の心配は杞憂だったのかも知れないな。
っと、ドールは淡い期待を抱いた。
「よし、オースル。そろそろ動けそうなものに周囲の安全確認と、キャンプをする準備をさせろ。それと、回復魔法が使えるものに、傷を負ったものへ回復魔法を掛けるように指示を出しておいてくれ」
「了解しました団長。ですが団長は?」
「俺はこのまま、動ける団員達と共に周囲の安全確認に移る。その指示を出し終わったら、お前はこのまま補給の為の拠点設置の指揮を取っていてくれ。ここには、あと何日か留まることになるからな」
「了解です。それでは」
命令を受けたオースルは、駆け足で団員達の元へ向かっていった。
「あいつも疲れているだろうに……。全く良い部下をもったものだ。ーーさてと、部下にばかり仕事を任せていないで、俺もさっさと行かなくてはな」
こうして、ドールは小湖の安全確認へと向かった。
ーー時間が経過し夜の帳が下りた頃、一つのテント内
「さて、それでは今日の反省と今後の方針について話そう」
俺達がいるここは、作戦などを考えるテントだ。そして今まさに今日の反省をし、今後の方針を考えている所だった。
「それではまず反省からだ。オースル、お前はこれまでの森の様子を見てどう感じた?」
「は、私はこの森を来るのが初めてなので大した事は分からないのですが、いくら魔獣の宝庫だと言っても、少々魔獣との遭遇と襲撃が多かったように感じました。ですが、後半は襲撃の回数が少し落ち着いたため、たまたまだったのかもしれませんが」
「いや、確かに俺も実際少し多かったように感じた。この森の事前調査の結果と報告から考えても、この移動中は、少し魔獣との遭遇が多かったように俺も感じた。」
「……そうだ、オースル。できればで良いんだが、一応移動中に遭遇した魔獣の種類を教えてくれないか」
「はい……。確か、ホワイトマウスにダイアウルフ、スネークにボアー。あとは、ビッグボアーにタイガーキャットとビッグスパイダーだったはずです」
今まで襲って来たのは全てランクC以下。ランクBの魔獣が出なくて幸いだったな。数が少ないとは言え、この森にはランクBの魔獣が存在する。もしも、ランクBの魔獣まで居たら死者が出ていたところだった。
……。いや、待て。あれだけの数の魔獣がいて、何度も襲撃されたのにランクBの魔獣は一体もいなかっただと。少し不自然じゃないか。あれだけの襲撃回数ならランクBだって1匹くらいいてもおかしくはない。むしろ回数的に考えれば遭遇する確率の方が高いだろう。それなのに、一匹とも遭遇していない。おかしくないか?
それにもっと不自然なのはオースルが言っていた、中心部に近くにつれ襲撃回数が減り、外側に近い方が魔物の数が多かったという事だ。一般的に森の奥へ行くにつれ魔獣の数は増える。普通は外側の方が魔獣が多いなんてありえない。
「では何故? 餌の問題か? それとも縄張り争いが……」
小声で考えを口に出し、頭の中の靄を晴らすよう考える。ーー考える内、一つの可能性が頭に浮かんだ。
「待てよ。まさか……」
逃げてきたのか。自分より遥か上の強者から。逃げて来たのは最大でCランク。という事は、相手は最初の予想通り最低でもBランク以上。
「団長、何か分かったのですか?」
「ああ。信じたくは無かったのだが、やはり最初の俺達の見立て通り、付近に少なからずランクBもしくはAがいる可能性が高い。……いや、いると考えていい」
「本当ですか。ではやはり……」
「ああ。行方不明の二人は、やられたと考えていい」
思わず、自分もオースルも息を呑む。そして改めて知る。その存在がすぐ近くにいるという事実を。
「これは、早急に対策を立てなくては」
「まずは、明朝斥候として偵察隊を二人一組で小湖及びラグアナ湖周辺に放つ。これは、冒険者で言うと少なくともCランク以上の実力の持ち主だけにしろ。斥候が戻り次第、討伐隊を編成し討伐へ向かう。回避しない理由としては、すぐ近くにいる場合、逃げると余計に危険を伴うからな。中心部への進入はこの魔獣討伐後に行う」
「分かりました。では、私は早速偵察隊の件の準備に移ります。それでは」
オースルは軽く一礼をし、テントから退出した。
投稿遅れてすみません!!




