第18話
俺の攻撃による痛みで暴れまわるワイバーンだったが、俺が約20mの距離を取る約2分間に態勢を立て直したようだった。
最下位ながらも流石は竜。俺の全力であるスキル#水の槍__アクアスピア__#と毒牙を食らってなお立っていられるとはな……こいつは今まで会ってきた魔獣の中で間違いなく一番の強敵だろう。その為、例え相手の翼が無くなり飛べなくなったとしても油断はできない。それに、追い詰められた者ほど何をするか分からず、最も危険な存在である事はアニメでも良く語られている。特にそのことをあのワイバーンのあの怒り狂った表情が物語っている。
……が、いくら油断せず慎重にと言っても、流石に今度はこちらから攻撃を仕掛ける、いや敢えてと言うべきか。先程のスキルによる攻撃と試し撃ちなどなどにより、 150あるMPの約半分しか残っていない。この状況で相手と長い撃ち合いになればレベル差的に考えてもこっちが先にMPが無くなるのが明白である。できれば、頭を狙って早めにけりを付けたいが……。
ワイバーンは俺のスキルの威力を理解したのか、ボロボロになった翼で頭を覆い頭部を守る姿勢を取っている。自慢の水の槍でも翼と頭を完全に撃ち抜くには少し厳しいだろうがーーこれが事実かどうか確かめない訳にはいかない。
残りのMPの半分を使う容量。大きさは12.7×9mm弾サイズ。サークルもきっちり頭に合わせてーー。
スキル『水の槍』連続発射!!
無数の弾が一直線にワイバーンの頭へと向かっていく。弾速凡そ860m/s、連射速度毎秒4000発。到底目視では捉える事などできない。この約20mを進むのに約0.02秒しか掛からず回避は不可能な上、終わる事のない弾丸の雨が飛んでくる。相手からしたらまさに地獄だろう。水の槍の真髄とも言えるであろうこの使い方に、敢えて命名するとすればーー「水弾式機関銃」。
っと、そろそろ俺のMPが1/4くらいになるか。さて……、ワイバーンさんはどうなってるかな。あんなに調子乗って命名までしてたが、元々は頭まで貫通するかどうかの実験みたいなもので、あまり期待はしていないんだけど。
……うーむ、さっきのスキル撃った時の影響で砂埃が舞ってあんまり良く見えないな。動いては無いように見えるけど。
そもそも蛇は視力が良い訳では無い。特に、前世と比べると明らかに視力が低い。代わりに蛇にはピット器官と呼ばれる赤外線感知器官みたいなのがあるらしいけど。……まあ、そんなはどうでも良いだろう。これだと流石に不安だし、聞き耳スキルも使って確認しておくか。
スキル『聞き耳』。
聞き耳スキルを使ってワイバーンの方向に耳を澄ますと荒い息遣いが聞こえた。
この息遣いはワイバーン。って事は流石にまだ生きてるのか。ここで死んでてくれれば有り難かったんだけど……そんなに簡単にはいかないか。恐らくワイバーンも虫の息だろうし、確実に死んだのを確認するために接近して仕留めよう。実は死んでなくて、逃げられたりしたら堪ったもんじゃないしな。
そうと決まったら、さっさと行動するか。さっきと同じで全力疾走だ。
あと約10m。1分ほど進んだ時だった。視界のワイバーンの口元が一瞬赤く光った様に見えた時、俺の体にピーンと何かが体を通った様な感覚が、体の中に走った。
ここにいたらヤバい! そう直感し、俺は大きく体を左に避ける。
その瞬間、炎の玉の様なものが俺の横をギリギリのところですれ違った。燃え盛る炎の玉は俺を通り過ぎ、少し先の岩にぶつかり消滅した。直撃した、岩は凹み少し溶けている様だった。
危な! 今のワイバーンの攻撃か! 炎ブレスか?
ブレスとはちょっと違う様に見えたけど。危機察知のスキルが反応してくれたおかげで助かった。直撃したら、流石に死んでただろうな。なんか岩少し溶けてるし。さっさと近ずいて止めを刺さなきゃな。威嚇射撃へ使えるほどMPも余ってないし。
ワイバーンへ向け再び進み出す。残り3m。出せるだけ、全力で進む時再びワイバーンの口元が赤く光った。
ヤバい⁉ また、あれを撃ってくる気だ。
もう一回、回避を……って、くそ! 距離が短くてする暇がない。仕方ない、できればMPを使いたくなかったけどもう一回、
スキル『水の槍』大サイズ!
サイズがさっきより小さいが、MPが少ないから仕方ない。
スキルによって生成された水玉が再び体を包み込む。
ーーそしてスキル『高速水泳』! で右方向へ跳躍!
またしても間一髪の所で炎の玉が通り過ぎた。が、炎の玉は俺のスキルで生成した水玉へ直撃し、水玉は粉々に砕け散った。
回避からカウンターを狙いたかったが粉々になったせいで撃て無い! ……まあしょうがない。本命はこっちだ。
スキル『水の槍』今できる最大のサイズで発射!!
俺の声に応え、俺の後方に弾丸状のアルミ缶サイズの水玉が生成され、飛んでいく。
ワイバーンの側面からの攻撃。炎の玉を撃つ為に頭部は守られていない。これならいけるはずだ。
行っけええ!!
俺の残りMPのほとんど全てをつぎ込んだ、水の槍は、ワイバーンの頭部に直撃し、見事にワイバーンの頭部を貫通した。そして頭に風穴があいたワイバーンは、地面にばたりと倒れ込んだ。
……やったのか。不安になりもう一度しっかりとワイバーンの方をみる。動く気配はない。ただの屍のようだ。そして、死んだ事を自分に告げるように体にレベルアップの衝撃が走った。
やった、やった! 俺はワイバーンに勝ったんだ!
ちなみに、この時残っていたMPは僅かに2だけだった。




