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ゆるやかな自殺  作者: 朝野欠月@文フリ東京11/22(日)
「そうだ、京都に行こう」
5/9

京都駅

 新幹線の改札を抜けると、そこは大きな駅ビルだった。

人通りが多く広い通路、その向かい側にはカフェやら土産物店やらコンビニやらが、ずらっと並んでいる。京都駅はAの予想以上に近代的で、「一体いつから、自分の頭は更新されていないのだろう」とAは思った。

 Aがぼんやり描いてた「京都駅」はもっと小さいイメージだった。わざとらしく古い木造建築に見せる観光用の駅……は流石にないだろうと考えていたが、地元の中規模駅ぐらいだと、何故か思っていたのだ。

 頼りにしていた「中学生の記憶」は、もうここで崩れ去った。どうしようも、ない。何もない。

 歴史のある観光都市であると同時に、東京、大阪と並ぶ大都市なのだから、規模もそれと同じと考えるのが普通であったはずだ。そんな当たり前のことを、Aはすっかり忘れていた。

 

Aは大学時代、通学の乗り換えで東京駅を使っていた。とはいえ、路線から路線へと移動するだけにしか「使って」いなかったので、実際、東京駅がどのような場所かはよく知らない。

 Aが知っているのは自分が使う路線のエスカレーター周辺の様子だけだ。あとは、とにかく人が多いこと、朝夕はいつもエスカレーターがぎゅうぎゅうに混んでいたこと。それ以外は、何も知らない。Aにとっての東京駅の記憶はそれだけだ。

 あそこがどんな場所で、どんな店があって、どれだけ広かったのか、何も知らないまま大学生活は終わった。寄り道は一度もしたことがなかった。


 ここにいる人の殆どが自分と同じ観光客だと、Aがわかったのは、大きなスーツケースや小さなキャリーバッグを転がしていたからだ。日本最大の観光地、京都という土地柄、地元の人間より観光客の方が多い。

 とりあえず、旅館のチェックインまでまだ時間があるので、大きな荷物をどこかに置いて、少し観光に行こう。Aはコインロッカーを探した。

 コインロッカーを使うことも、駅弁を買って食べること同様に初めてだった。特に、使う必要がなく生きてきたのだから。

 通学途中の駅で、エスカレーターに乗りながら、タイルのように敷き詰められて佇んでいるそれを見て、使い方や使う機会を想像してみたぐらいだ。あとは、一時期ニュースになった「コインロッカーベイビー」の印象が、何故か強く残っていた。

 旅行の下調べをしていると、ガイドブックでもネットでも「駅に着いたら、荷物はコインロッカーに預けて」という文をよく見かけた。なるほど、本来の使い方はこうやって使うんだな。お金を掛けてロッカーを使うと聞くと「荷物は自分で持っていれば良いだけでは?」と、使う場面を想像できなかったが、今なら必要性がよく分かる。それを真似してみたかった。

 広い広い駅構内で、看板の矢印に従ってコインロッカーを探していく。京都駅の駅ビルは近未来的なデザインだった。吹き抜けの高い天井に、周りには銀色のエスカレーターがあちこち交差している。Aは、「SFに出てくる宇宙船都市みたいだ」と見上げた。

 コインロッカーを探すことは些か難儀した。と、いうのも見つけたはいいが、どこも満杯だったのだ。Aは「慣れない……と言うか、初めての旅なのだから仕方ない」と自分に言い聞かせた。

 三か所目のロッカーでようやく空きを見つけた。到着した改札から大分離れた場所のコインロッカーに荷物を落ち着け、斜め掛けの小さなバッグのみにする。

 有名なお寺や神社は明日以降にして、今日は京都タワーに行こうと決めていた。今までの行動通り、Aは旅慣れていない。その上何かと要領が悪い。それはA自身でもよく自覚していたので、計画は余裕があるように立てていた。

 しかし、コースや予定をしっかり考えている訳ではなかった。考えてはみたのだが、見たことのない土地を廻る自分の姿を想像することは、Aにとって非常に困難だった。なので、大まかに「ここに行きたい」という場所をチェックしていただけだった。

「要領が悪いのだから、そこはもっとしっかりコースや目安の時刻を決めればよかったのに」Aは自分に向かってそう言った。

 確か中学のときは、事前に班で自由行動時の計画を立てる時間がLHRのときにあったっけ。少しずつ少しずつ、一歩踏み出す度に、記憶に近づいている気がした。

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