第一章 4(前) 「クルルエリ、アルナイトに付き添って」
街並みがめまぐるしく流れていく視界でアルナイトは走り抜けてゆく。いまどこにいるのか皆目見当もつかない。やはり逃げている途中で余計なことに首をつっこむものではない、アルナイトは酷く後悔した。狼狽していたといってもいい。
走ったり飛んだりしながら、ところどころにある障害物を軽く越える。
しかし、そこで小さな人影と鉢合わせする。跳躍するに間に合わず仕方なく靴底を磨り減らして立ち止まる。
クルルエリだ。
「どこへ行かれるつもりですの? 狼藉者を倒した勇者様」
「どこでもいいだろう、ちょっと放浪をしていただけだぜ。俺は方向音痴なんだ」
「そうですか」
「それより、どうして俺のいまいる場所がわかったんだ」
「私、この街の地理には詳しいのですわ。裏口を出ると丁字路、一方は行き止まり、もう一方はこちらに辿り着くことを私は存じておりましたの。そんなに方向音痴であれば、私がご案内しますわ」
「そうか、それはそれは凄いことだな。ぜひ道案内のお願いをしたいところだ」
もちろん、本当に道案内してもらうわけにはいかないが。
そうやって誤魔化し誤魔化しながら、アルナイトは逃げたいと逸る気持ちを抑えながら、次に選ぶべき行動を思案していた。
「ところでアルナイトさん」
「なんだ?」
その返事を聞いて、クルルエリがにやっとした。
その笑みの意味を知ってアルナイトは「あっ」と言って悔やんだ。
「やはり、アルナイトという名でしたか、どうも変だと思っておりましたわ」
「この……」
「さて、私に『考え』がありますの、それは」
と言いかけたところで、向かう角の陰で「近くにいるはずだぞ、ようく探せ!」とやかましい声が聞こえてきた。おそらく自警団だ。
「路地裏へ移動してもいいか? クルル、お前と一緒に」
「構いませんわ」
ネズミしか通りそうにない汚い路地を通り、行き止まりのところでアルナイトはクルルエリと話をした。
「『考え』ってなんだ?」
「悪い話ではありませんのよ、私と取引しませんこと?」
「目的はなんだ。金か? 金が欲しいのか? 俺を捕まえれば賞金のたぐいがもらえるはずだ、それが欲しいんだな?」
「見くびらないでくださいませ。私、そのようなものを宛てにせずとも、お金なら使い切れないほど有り余ってますわ」
「じゃあ、名声か、俺を捕まえて名声を手に入れるんだな?」
「いりません。そのようなもの、得られずとも、我が家は名誉ある一家ですのよ」
「じゃあ、何が目的なんだ」
「ようやく単刀直入に言えますわね、はっきりと申し上げます」
次の言葉を不愉快な動悸を抱えながら待った。
「私、アルと旅をしたいと思いますの」
…………。
「へ?」
「あなたはこのまま逃亡生活を送るのでしょう? 私はその逃亡の旅についていきたいのです」
「そんなことをして何の得が」
「さっきのような場面に出くわしたいんですの」
「決闘とか狼藉とか……何の得が」
「私の……武器」
クルルエリはお腹の中から、何本か武器を取り出した。カタナ、ショーテル、ジャマダハルとさきほど話題に挙げた武器がすべて出てくる。
「お前、何か不思議な力を持っているようだな」
「私の力が宝の持ち腐れになってしまうことが一番私には悔しいのですわ、そして先ほどその図星を突いた相手がいたんですの」
「まさか、さっきの男か」
「そうです。お前の力は宝の持ち腐れ、そんなことを言って私を侮蔑したのですよ」
「なるほど」
「私、あのような気品の一切のない方が大嫌いなのです。……でも、あなたには私がお渡しした武器を使って、戦っていただけたら、私はとても幸せなのです。使われた武器もさぞかしその喜びようを何にも例えることはできませんわ。その様子を見たいのですわ。お願いです、私をあなたの旅に連れていってくださいませ」
「邪険に扱うようで悪いが、お前と付き合うメリットはない」
「ありますわ」
そう言いながら、彼女は武器をしまい込んだ後、もう一度腹の中を探ってダガーを取り出した。
「持ってくださって」
「あ、ああ」
路地の裏から出たところで、右方向の三叉路から自警団が出てくる。
「アルナイトだな」
「ああ」
「大人しく捕まれ」




