第一章 3 「アルナイト?」
クルルエリが聞き耳を立てて、店の入り口に到着した男たちのほうへと視線を向けた。
「いまアルクビューズを手に持って、この店で狼藉を働いたという者がおったという知らせを聞いてな、立てこもって客を脅しかけたようであるから、わざわざここに参った。して、その狼藉者はどこだ?」
客の視線が一点に集まる。気品がありそうに見えてもはや気品のかけらもない男が、ちくしょうと嘆く。
「俺様を捕縛でもしてみよ、我々一族が国王に駆け寄って、お前らの首が全員飛ぶぞ。職と命を失うという意味合いでな」
「残念ながら、あなたの家族がもうこれ以上の放蕩を許してはいないと知らせが入ってます。捕縛はしないまでも、邸宅に帰っていただきましょうか」
「ちくしょう……」
貴族にらしからぬ汚い言葉を放って、二人の自警団員に両手を搦め取られる。
「アルクビューズはボロボロ、これは相当勇気のある者が阻止したと見えるな、その者は自警団員の職が相応しいかもしれぬ」
「まことにそうじゃな、少なくとも報償は与えたいところであるぞ。して、その者はどこにいるか存じないか?」
すると、クルルエリが歩み出る。
「おや、まさかと思うが、そこのお嬢様が倒したとでも?」
「いいえ、私は手を貸しただけですわ」
「ほほう、では二人でこの狼藉者の落ちぶれを倒したというわけか、して、もう一人は……?」
「はい、それは……」
クルルエリが見回すと、アルフィールと名乗っていた男性の姿はどこにもなかった。
「あれ、どこへ行ってしまわれたのかしら」
クルルエリはこの店のマスターに目を移す。
「え? ああ、あの大活躍した男か? さっき裏口はないかと聞いて、それを教えたらここから去っていったよ。お代はお嬢ちゃん持ちだとか言ってたから……いいかなと思ってな」
「あら、そうなのです?」
訝しげな顔を見せ、そしてクルルエリに自警団員の一人がせわしなく独り言つのを聞く。
「それにしても、今日はまことに多忙じゃな。厄介者の貴族が狼藉を働くやら、流刑民アルナイトが脱走してまだ捕まっておらぬ。あやつが海で溺れ死んでいれば何事もなく幸いなのじゃが。はぁ……おかげで町中の自警団が神経を磨り減らしておる有様じゃ」
「アルナイト?」
さっきまで「アル」と親しみを込めて呼んだあの人と何か関係があるのだろうかと、クルルエリはしばし考える。




