第一章 1(中) 「決闘に巻き込まれアルナイトは」
「おい使用人、その剣の先が震えているぞ、まるで生まれたての子鹿の小脚のように、むろんお前の両脚もいままさにそうなっているがな」
「ひ、ひぃいい」
かようにひるんだところの隙を、横薙ぎ一閃相手は叩く、レイピアが悲しい音で鳴る、まるで空気を読まない奏で。
力が抜けたか手が痺れたか、レイピア持つ手が震える使用人。
そこを機会とばかりに肉薄、力の限りに剣を振るい、使用人が手にしたレイピア、虚空を飛び越えてアルナイトの足下に落ちる。
「お、お助けを、あんた様、お嬢様、私は命が惜しいんです、もう嫌です、嫌だ!」
そう相手と令嬢に告げてから、人混みが左右に開き、使用人がばたばたと逃げ去っていく。
アルナイトはそれを見ていられず、ついそのレイピアの剣を握りしめ、このいけすかない貴族に対して目を向けた。その視線に相手も気づいたらしく、にやりと卑しい笑みを浮かべる。
「今度は、庭師が相手か? 庭師にはレイピアよりも剪定バサミがお似合いだぞ」
アルナイトを別の使用人と勘違いしたか、今度は彼と対峙してしまう。
ここで「いや違います」と言いたいところだが、そう言ってしまえば、この令嬢が妾になるか、彼女が平謝りして一生恥をさらして生きていくだろうことは彼の目にも見えていた。国を脱出したいところではあったが、放ってもおけはしなかった。あのとき、きれいな顔を殴られて生き恥をさらされた同じ流刑民の彼女のことを思うと、アルナイトは胸が痛くなった。
「剪定バサミ? そうだな、できればそれでお前の首をちょん切りたいところだな。もっとも俺は殺しはしないが」
「ほう、じゃあお前にとってはこのレイピアで戦うデビュー戦だな、俺様が特別に手ほどきをしてやるから、心の底から喜べ」
たぶん、この騒ぎを自警団が聞きつけているはずだから、そう時間は取れない。速攻でこいつを仕留めないといけない。
「じゃあ、教えていただきましょうか、お師匠さんよ」
「レイピアは騎士道に通ず。すべてに通ずは騎士道なり」
右手にレイピアを持つ刺突しようとする構え。
「騎士道に反するはよこしまな心、すなわち心臓はすぐさま貫くべし」
文語を交わし、やにさがる。刹那相手は距離感縮め、心臓目がけるレイピアの先だ。
だが。
貫き通した先にあったのは、彼の身体の残影であり、そこに心臓はない。
巧みに避けた後にアルナイトは、刺突の剣を横構えして打ちつけ、金切り声をあげるレイピアとレイピア。
「よくぞ見切ったな」
「ご教授感謝だ、お師匠さん。なるほど、騎士道も落ちたものだ」
「なんだと」
「女性を守らず、妾の対象と見るところから、もはや女性を守るべき考えはすでに時代遅れか。さすが騎士道は新しい考えに限る」
「お前……」
レイピア押し上げ、アルナイト。そのまま後ろに退く相手。双方、油断も隙もない。そこをすかさず刺突した。狙うは相手の首根っこでありレイピアの刃先が吸い込まれていく。
危険が脳裏を掠める刹那。そんな時間さえも与えぬ暇。相手は背後に跳躍する。
靴底擦らせ不器用に着地。瞬間、黒きマントがはらりと。砕けた金のカフスボタンのかけらを散らして黒衣の上に落ちる。
「ほほ、運が悪かったな、もう少しで倒せたものを」
「くく、運が良かったな、もう少しで死んでいたところだったぜ」
「無駄口を叩くな!」
叩くレイピア、弾かるレイピア。そして、襲い来る相手、後ずさるアルナイト。だが。
「うおっと」
アルナイトはそこで無様にも、後方に転倒し手を路面に着ける。
「死ねぇ!」
詰め寄る相手に、猛進する刺突する剣。だがその刹那、アルナイトの一蹴でスネを打たれ、相手も転倒した。
「うわっ」
突き立てるままの、アルナイトのレイピア。臍にレイピアの先端に向かう。はらわたを貫いて、勝負は結審するかに見えた。
相手は物凄い形相で目を瞑った。




