集団登校
六月下旬の曇り空の下、女子高生のUさん(仮名)は日直当番で朝一番に校門をくぐった。
遠くに住むUさん最寄りのバス停からは、通勤通学の時間以外、バスが極端に少ない。
そのため、仕方なく早い路線を利用したのだ。
だが、いくらなんでも早すぎた。
グラウンドで朝練する運動部員の姿すら、まだどこにも見えやしない。
どんより曇ったお天気模様とはいえ、朝なのでもうそれほど暗くはない。
それでも、生徒達で活気のある昼間とはまるで違い、人気のない学校はなんともいえない不気味な雰囲気を漂わせていた。
でも、校門も玄関も開いているし、用務員さんや先生は来ているはず。
そう考えながら、生徒用玄関へと歩くUさんの顔にぽつりと当たるものがあった。
雨だ。
空を見上げると、大粒の雨が次々と降ってくる。
カバンを頭の上にのせて、まだ距離のある玄関まで走るUさん。
張り出した玄関前の屋根の下に入ると同時に、雨が激しく勢いを増した。
バケツをひっくり返したような雨って、こういうのをいうのかな。
一息ついたUさんは振り返って、しばらく外の雨を眺めていた。
あまりの豪雨のカーテンに、景色が霞んでしまってほとんど見えない。
ぶつかった雨粒が跳ねて、まるで地面が沸騰しているかのようだ。
ばしゃばしゃばしゃ。
その激しい雨の中を、誰かが走っている。
部活の子たちかな?
玄関に向かってくる足音は一人や二人のものではなかった。
朝練に来た運動部員たちが、タッチの差で運悪く雨に当たってしまったんだろう。
そう思って、Uさんは外に背を向けて、生徒用玄関に入った。
びたびたびたびたびた!
そのUさんを左右に避けて、何人もの裸足の足音だけが学校に駆け込んだという。
「ええ、まあ、それだけの話なんですけどね」
いまはOLをしているUさんは、明るい喫茶店であっけらかんとそう言った。
「でも、それってかなり気持ち悪いじゃないですか?」
もうとっくにおっさんの私だが、もしも同じ状況に出くわしでもしたら、チビってしまうかもしれない。
「いやー、すぐに職員室に駆け込んだんですけど、ぜんっぜん先生には信じてもらえないし、もう散々でしたよ」
ちょっと気になったことがあったので私は聞いてみた。
「ところで、Uさん」
「なんですか?」
「在学中に、赤いものの話、なにか聞いたことありませんか?」
「……? なんです、それ?」
実はUさんも『集団下校』の舞台となった同じ女子高の出身である。
ただし、Uさんが入学したのは『集団下校』のFさんが卒業してから五年後。
現在は生徒の減少で男女共学となり、学校名も変わってしまったが、多少の改築をされたあと校舎はそのまま使われているという。
もしかすると、人間ではない「なにか」が、いまでも学校に通っているのかもしれない。