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【コミカライズ配信中】康太の異世界ごはん  作者: 6k7g/中野在太
閑章 給地のひとびと

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「うふ」-2

 というわけで、無産階級がふたり、足高さんの家に。


「おい。おっさん。足高のおっさん。来たぞ」

「おじゃましますー」


 讃歌さんよりも、更に格子が取れた戸を引いて。

 ほとんどなにもない客間に、足をふみいれる。


「な、なんだおめえ、いきなりおめえ、人の家におめえ!」


 土間から足高さんが飛び出してきた。


「声かけたろ」

「だからっておめえ、昼日中におめえ!」


 ん?

 足高さん、なんか口のまわりについてるぞ。


「……足高さん、たまご食べてました?」


 どう見てもゆで卵の黄身だったので、指摘してみたら。


「あ、あああ? な、なんだおめえ、だしぬけにおめえ!」


 こっちが呆気にとられるぐらい、べらぼうに狼狽する足高さん。

 なんだ、密猟仲間だったのか。


「く、食ったさ! 食って悪いのかよおめえ!」

「いえ、悪くはないですけど。僕もちょいちょい、領主林でいただいてますから」


 というと、足高さんは、口をぱかっとあけた。


「りょ、領主林で……? いくら白神だからっておめえ、そりゃおめえ、やっていいことといけねえことがあるだろおめえ!」


 ものすごい剣幕でどなられた。


「え? でも足高さんだって……」

「お、おれはおめえ、違うからなおめえ! そんなおそれおおいことがおめえ、そうそうできてたまるかってんだ!」

「ああ、そういうことな」


 言うなり、悠太君がすたすたと歩き出し。


「あっ待ておめえ! 人の家に勝手におめえ!」


 足高さんの制止もむなしく、土間へと直行し。


「おっさんも相当じゃねえか」


 めんどりを一羽抱えて、皮肉をとばしながら、もどってきた。


「ああっ、楓流かえる! なにしやがるんだおめえ!」

「はーなるほど。そういうことだったのかあ」

「こういうことだったな」

「か、楓流う!」


 足高さんの、意外な側面があきらかになった。

 まさかまさかの、給地で養鶏。


「楓流……」


 悠太君に抱かれながら、妙におつにすました感じのめんどりを、思わず見つめてしまう。


「よかったな白神。これでいつでも卵が手に入るぞ」


 邪悪な笑みを浮かべる悠太君。

 一方の足高さんは、ぐったりと打ちひしがれている。

 どうしてだろう、足高さんって、ぐったりと打ちひしがれている姿が、すごくにあう。


「足高さんから、卵をうばいに来たわけじゃないですよ。

 ちょっとお願いがありまして」

「ああ? 白神がおめえ、おれにお願いなんておめえ、どういう風の吹き回しだおめえ」

「讃歌さん、腰いためちゃったでしょう? それで、腰痛に効いて、しかもお手軽なごはんを作ろうかなって思ってるんです」

「榛美のことはどうなったんだ」

「讃歌さんも、あんな調子じゃ妙案が浮かばないからね」


 悠太君は、本日二度目のためいきをついた。

 『ああいえばこういう』勝負で僕に勝とうなんて、おごりが過ぎるというものだよ、少年。


「そんなわけで、足高さん、ここは一つ、投網の腕を見せちゃもらえませんか?」

「おっさん、投網は得意だろ」

「お、おお……得意っておめえ、そりゃおめえ、網を打たせりゃ給地じゃおれが一番だけどよ」


 あ、まんざらでもなさそうな顔だ。


「ご指導いただければ幸いに存じます」


 頭を下げると、足高さんは、やけにせすじを伸ばした。


「おれの教え方はおめえ、なまぬるいもんじゃねえからなおめえ」


 なんだこのたのもしさ。

 足高さんから、かつてないほどの威厳を感じるぞ。


「いよっし、待ってろおめえ。今すぐ網を打ってやらあ」


 堂々とした足取りで土間に向かい、戻ってきた足高さんは、肩に投網をかついでいた。

 古代ローマの剣闘士に、こういうタイプの人いた気がする。


「行くぜおめえ。ついてきやがれ」


 奴隷戦争のときのスパルタカスみたいな勢いで、足高さんは歩き出した。


 雨期とあって、川幅は護岸ぎりぎりまで増水している。

 流れもはやく、水は少々にごり気味。

 しかし足高さんは、臆することなく、川に膝まではいっていった。


「いいかおめえ、網ってなぁおめえ、こう、丸く咲かせんのが肝要だからなおめえ」


 ぐぐっと腰をひねり、力をためる足高さん。


「うじゃらぁあ!」


 へんな叫び声を放ち、腰のひねりを解放しながら、逆袈裟切って網投げ放つ。


「おお!」


 ちょっと興奮して、声をあげた。


 ぐるぐるに巻き取られていた網が、空中でばさっと開く。

 それがまた、きれいな円形。

 丸く咲かせる、の言葉にふさわしく、これはまるで、梅雨空に網の打ち上げ花火だ。


 着水した網は、外周にぶら下げられたおもりの力で、すいすいっと沈んでいく。

 鉄の輪っかをすべらせ、網をすぼめさせる。


「えあいああ!」


 力いっぱい、網をひきあげる。


「どうだよおめえ!」


 足高さんがぐいっとつきだした、網の中。

 鮎が二尾に、手長えびがわんさか。


「すごっ!」


 やるなあ、足高さん。

 これは思わぬ収穫になったぞ。


「カルシウムに、キチン質……うん、いいね。これならいけそうだ」

「おめえ、またうめえもん作るってのかよおめえ」

「ええ、作っちゃいますよ。足高さんも、ぜひ召し上がってください」

「そ、そりゃおめえ! あ、ま、まあ、その、おめえ、おれが採ったもんだ、おれが食うなんてのはおめえ、当たり前のことでおめえ」


 ごにょごにょと、尻すぼまりに強がる足高さん。

 さあて、作っちゃいましょうか、腰痛改善ごはん。



 そんなこんなで、ここは讃歌さんの家の台所。


「なんだか、新鮮なかんじです」


 台所をきょろきょろ見回すのは、榛美さんだ。

 甘いもの中毒の禁断症状があまりに気の毒だったので、気をまぎらわせようとつれてきた。


「つくりは全く変わらないんだね」


 建て売り住宅ぐらい、榛美さん家とまったく同じ普請だ。

 仕事がしやすくてたすかる。


「榛美さん、かまどをおねがい」

「はーい!」


 鮎を三枚におろし、薄切りにした身を、氷でしめる。

 あまった頭と中骨は、鍋に放り込んで、弱火で煮立たせよう。


「鮎でだしをひくのか?」


 悠太君も、さんざん僕に引きずり回されたせいか、だいぶ心得てきている。


「うん、だし酢をつくろうと思ってね」


 汁が琥珀色になったら、葛布でこす。

 あゆのだし汁がひけた。

 どれ、榛美さんのはんびらきの口に、ちょっと流し込んでみましょう。


「ふわああ! あふ、あふ! すご、これ、す、すごいです! あっさりだけど、この、香りが、もうなんか!」

「どれどれ……うん、すいかの香りだ」


 生の鮎だしなんてはじめて引くけど、これはおもしろい。

 うまみはそれほど強くないけれど、この、はなやかなのに主張しすぎない香りは、なんにでも使えそうだ。

 ブイヨンっぽく、香味野菜と一緒に煮立たせた方がいいかもだけど。


 だしのあら熱が取れたら、ここにお酢と水あめ、塩を少々加えて、だし酢のできあがり。


「あああ、水あめ……」


 魂がひきさかれているような表情で、榛美さんがうめく。

 ここで同情して、水あめを与えてしまうわけにはいかない。

 断固とした態度でのぞまなければ。

 なんならこっちは、水あめホリック・アノニマスみたいな互助組織をつくる覚悟だってあるぞ。


 余談はともかく。

 だしのかたわら湯がいていたうち豆は、水気とあら熱をとり、だし酢の中に、ばちゃばちゃっと投げ込む。


 鉄の平鍋で、とき卵をさっと炒める。

 こちらもあら熱をとって、だし酢の中にいれよう。

 味がなじめば、うち豆と卵の酢のものができあがり。


 手長エビは、いつものようにじゅわっと素揚げで。

 氷でしめた鮎は、細く切って鮎味噌をそえた、あらいで。


「おまたせしました」


 腰痛改善レシピ三点、できあがり。

 蒸留酒のカップも三つ用意して、と。


「……俺の分はねえのか」


 一人だけ横たわったまま、かなしそうにうめく讃歌さん。

 お酒のカップを持っているのは、僕と足高さんと榛美さんだけ。


「腰がいてえのに酒飲むバカがいるかよ」

「だよなあ」


 讃歌さんは悠太君の悪態に、しょんぼりうなずいた。


「ま、治るまでの辛抱だ。今日はメシだけいただくぜ。

 目先の希望がありゃあ、なんだって耐えられるってなもんさ」


 粋だ。


「ありがとうございます。それじゃあ、どうぞ杯をもちあげて」



 かんぱい!


 さあ、たべよう、のもう!



「ああ、えび、えびおいしい……えびおいしいです康太さん!」


 さくさくぱりぱりの皮、ぷりぷりの身、そして塩っけ。

 やっぱりテナガは素揚げが一番だなあ。


「エビの殻をつくるキチン質は、グルコサミンの宝庫ですからね。

 簡単に採れるし、揚げるだけでつくれます。なたね油には必須脂肪酸が含まれているから、体をつくってくれますよ」

「たしかに、後ろから見てりゃあ、そんなに難しいこともしてねえんだな。俺でもできる気がしてきたよ」

「なたね油、よかったらお分けしますよ」

「おお、そりゃありがてえ。助かるよ、白神様」


 讃歌さんは上機嫌で、えびをさくさく食べはじめた。

 よしよし、鍋の失点は、完全に取りかえしたぞ。


「う、うめえ! おめえこれ、この鮎、おれが採った鮎じゃねえか! それがこんなにうめえのかよ!」

「ええ、そうですよ。足高さんのおかげです。鮎は他の魚よりもカルシウムがたっぷりですからね。腰痛にはぴったりですよ」

「こ、これがまたおめえ……酒に合うの合わねえのっておめえ!」


 皮ごと細切りにした鮎の身は、しゃくしゃくっとした歯触りがたのしい。

 鮎味噌のほろにがさ、噛むたびに咲く、水とすいかのにおい。

 いやあ、これがお酒と合わないわけ……


「ああ、そうだ、あれ試してみよっと」

「康太さん?」


 カップを手に土間にもどり、ちょっと残っていた鮎だしを、蒸留酒にそそぎ入れる。


「うえっ、正気かよ」


 悠太君が顔をしかめた。


「こういう飲み方、僕の世界にあってね。焼津割っていったっけなあ」


 焼酎をかつおだしで割るのが、静岡県は焼津市名物、焼津割だ。

 試したことはあるけど、じんわりとしたうまみが感じられて、あてもそこそこに、ゆっくり楽しみたい味になる。

 生魚の、それも鮎でひいただしなんて、ちょっとチャレンジ精神が過ぎるとは、自分でもおもうけれど。


「おおっ」


 ひとくちなめて、意外な出会いにおどろく。

 鮎だしのはなやかな香り、控えめなうまみ。

 これが、蒸留酒の邪魔にならず、むしろわずかな甘みを引き立てるようで、心地いい。

 うまみとアルコールの余韻が、しずかに口の中に残るのも好印象だ。


「おいしいんですか?」

「榛美さんものんでみる?」

「はい!」


 榛美さん、杯をかたむけ、のどを鳴らして。


「えへへ……」


 ふんにゃりと、ほほえんだ。


「ね、おいしいよね、これ」

「はい。なんていうか、ぽわーってなります」


 うーん、お酒とあてがおいしくて、なべて世はこともなし。

 すばらしい心地だ。

 いつものことだけど、もう当初の目的がなんだったのか、はんぶん忘れている。


「ほおお……豆のこれ、うめえもんだなあ」


 讃歌さんが、うち豆と卵の酢の物をほめてくれた。


「豆がくみっとした食感で、卵がふわふわだから、苦もなく食えちまう」

「この、鮎のおだしの香りも、すごくいいですねえ……お酒すすんじゃいます」


 焼津割りならぬ蹈鞴割りをごくごく飲む榛美さん。

 あいかわらず、いい飲みっぷりだ。


「豆のビタミンB1は血行をよくしてくれます。それにお酢は、カルシウムの吸収をたすけてくれますからね。腰痛にはうってつけです」

「なにより、うめえんだ。それが一番ありがてえよ。ここに酒がありゃあ、もう言うことなしだけどな」

「これを食べていれば、すぐ元気になりますよ」

「そうさせてもらうぜ。ありがとなあ、白神様」

「僕が楽しくてやったことですから」


 感謝されてしまうと、やっぱり照れる。


「いっつもこんな感じだからな、こいつ。でも……オマエ、少し変わったよな」


 悠太君が、いきなり妙なことをいいだした。


「え? そう?」

「ああ。前までだったら、親父の家に上がり込んでまで、メシ作ったりはしなかったろ」

「そうですね。康太さん、ちょっと変わりました。どうしてですか?」


 そして榛美さんの、この直球。


「なんでって言われると、色々あるとは思うけど……」


 お酒をすすりながら、今までのことを、しみじみ、振り返ってみる。

 あ、僕けっこう酔ってますねこれ。

 こないだ、いいだけ恥をかいたときのこと、話したくて仕方なくなってますねこれ。


「最近だと、あれかなあ。榛美さんにお化粧品を贈ったときの」

「お化粧? 榛美ちゃん、そんなもんもらってたのか」

「はい、そうなんですよ! 康太さん、わたしのことすごくほめてくれたんですからね! でも、その前の康太さんがわたしみたいになってて、かわいかったんです!」


 いろいろなことをどばっと早口で言われた讃歌さんは、まゆをひそめた。


「ぜんぜん要領を得ねえ。なんの話だ。悠太、わかるか」


 榛美さんなれしている悠太君はといえば、肩をすくめて。


「わかるわけねえだろ」


 この通り、実に冴えた反応。



「ね! 康太さんがかわいかったんですよね!」


 榛美さん、僕の膝に手をおいて、ずいっと迫ってきた。

 近いよ榛美さん。

 お酒のにおいがするよ榛美さん。


「かっこよく渡そうと思ったんだけど、思いの外、わたわたしちゃってさ。

 女性に化粧品を贈るなんて、はじめてのことだったし」

「そうなんですよ! 康太さんがかわいかったんです!」

「白神が、わたわたしてたって? すげえ面白いじゃねえか。なんでオレ居合わせなかったんだろ」

「ね! 康太さんかわいかったんですもんね!」

「榛美ちゃん、お酒それぐらいにしときな」

「えー? まだのめますよ! ねえ康太さん!」


 会話がぐちゃぐちゃになってきて、着地点を見失いはじめたその時。


「おめえ……そりゃおめえ、ほんとの話かよ?」


 だまってお酒を飲んでいた足高さんが、だしぬけに口をひらいた。


「ほんとの話ですよ。それで、いいだけ恥をかいたんで、もう、いいかなって。あれこれ考えすぎるのはやめて、楽しくやろうって決めたんです」

「そ、そこじゃねえ! おめえ、そこじゃねえよおめえ! そ、その、けっ、えけっ、えけっ」

「……えけっ?」


 がばーっと立ち上がる足高さん。


「け、化粧ってえのを贈ればおめえ、懸想している女をかつげるのかっておめえ、聞いてんだよおめえ!」


 それはもう、芯からの叫びだった。

 足高さんの抱えている気持ちや切なさ、意中の女性を思って過ごした眠れぬ長い夜、その他もろもろ、すべてがつまった叫びだった。


 色々と、言いたいことはあった。

 かついでないし。

 ていうか足高さん、想い人がいたんだ。

 ていうか足高さん、所帯を持ってなかったんだ。

 ていうか足高さん、その急な勢いはなんだ。


 だけど僕たちは、言葉を失い、足高さんを見上げていた。

 涙にぬれ、鼻水までたらした、その姿。

 そのみっともなさに、崇高なものすら感じていた。

 そこに言葉はいらず、足高さんの表情は、すべてを物語っていた。


「うわあ……」


 榛美さんだけは、「うわあ……」の顔をしていたし、あまつさえ口に出していたけれど。


「……足高は、女を知らねえんだ」

「そう、なんですね」

「そんな気の毒な話があるかよ……」


 足高さんの魂の叫びに心までゆさぶられ、思わず、しみじみとしてしまう。

 そうか、この村の人口抑制策は、こんなところで、悲劇を生んでいたんだな。


「懸想している女はいるんだが、どうしても、かつぐ勇気がねえってんだよ」


 あ、ちがった。

 いや、そういう実例もあるんだろうけど、この場合にはあてはまらなかった。


「かつぐなんざ、難しいもんじゃねえ。村の連中に根回しして、てめえを担ぐと女に言う。それで終わりさ」

「だっておめえ、そんな簡単におめえ、できてたまるかってんだよおめえ!」


 足高さんの言葉は、なんて力強いんだ。

 そう、そうだよ。

 そう簡単にできてたまるかってんだよおめえ。

 なんかこうおめえ、色々あるんだよ人生にはおめえ。

 自分のぼんくらでおめえ、恋人に捨てられておめえ、臆病になったりとかするんだよおめえ。


「足高さん!」


 僕もおもわず、立ち上がっていた。


「お手伝いしますよ足高さん! 化粧品の作り方は、お教えします!」

「ほ、本当かよおめえ! 白神おめえ、お、おめえってやつは……ちくしょう、涙が出てきやがる!」

「やりましょう! 足高さんならできますよ! チェンジユアセルフ足高さん! スタンダーップ!」


 足高さんの手を取って、高くかかげる。


「う、うおおお! や、やる、やるぞおめえ、おれはやるからなあ!」

「いい加減にしろ」


 いきなり後ろからけりとばされて、僕と足高さんは、もろともにひっくり返った。


「いたたた……え、なんで? なんでなの悠太君」

「それ聞く?」

「だって今いいところだったし……」


 悠太君は、本日何度めになるか分からない、ためいきをついた。


「オマエがおっさんのかつぎをどうこうするって話は、別に止めねえよ。でもそれ今やる?」

「あっ」


 そうだった。

 当初の目的が、かんぺきに吹っ飛んでいた。

 ここまで脱線したの、もしかして、はじめてじゃないかな。


 ちらりと榛美さんに目をやれば、案の定というかなんというか、すやすやねむっている。


「ごめん悠太君」

「別にいいけどさ……オマエって、案外そういうやつだったんだな」


 そんなことを言う悠太君の表情は、どうしてだか、優しげだ。


「どうしたの、急に」

「なんでもねえ」


 そっぽをむかれた。

 何がいいたいんだい悠太君。


「俺も少し驚いたよ。白神様は、なんだって知ってて、いつだって冷静で……だけど、色んなことをがまんしてるみてえに見えたからな」

「見抜かれますね。がまんするの、止めてみたんです」


 と、苦笑い。

 どっちがいいのかは、正直、よくわからないけどね。

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