第四十七話
ゴォオオオオオ……シュオオオオ……ゴン! ゴン! ゴン!
世界樹めいて複雑に張り巡らされたパイプ群が蠕動する様は、まるで生物の体内のような生々しさを備えていた。
プワーオ! プワーオ! プワーオ!
ブンブンブンブンブン……
どこかでアラートが誤作動し、館内照明が真っ赤な警告灯に切り替わる。
「ドクター・カーディガン。私ね、思うのよ。あなたと知り合わなければ、私も普通のセレブでいられたんじゃないか、って」
「面白い冗談だ。君はビバリーヒルズにある邸宅のプールサイドで、東洋人のボーイにレモンを絞ったサケでも振る舞われたかったのかね?」
「少なくとも、パイプから盛れ出す高圧蒸気に、冷凍食品のスチーム・ベジタブルズみたいな扱いを受けたりはしなかったはずよ」
ドクター・カーディガンはメアリーの言葉に応えず、ただ肩をすくめた。
二人はパイプ群の間に渡されたキャットウォークを、中腰になった独特の歩法で進んでいる。
双方ともに、目だしの布で顔を覆い、鎖帷子の上にぴったりとした木綿の服を着ている。
ドクター・カーディガンの故郷にその名を知られるアサシン集団、忍者の伝統的装いだった。
タイトな忍者衣装に包まれたメアリーのバストが警告灯に映える。
「ねえ、本当にこんなところに遺跡が存在するの? あなたの故郷のカワサキにある工場そっくりじゃない」
「私の過去のことには触れないでもらおうか、メアリー」
「ああ、ごめんなさい。私ったらいつもこう」
「構わないよ。ハンミョウドクのような君の刺激が、私にいつも緊張感をもたらしてくれる……そら、飛ぶぞ、メアリー!」
手甲からワイヤーアンカーを射出したドクター・カーディガンの体が、美しい半円を描いて着地したのは、無数のパイプが接続された一つの真球だった。
「これは……」
遅れて着地したメアリーが、真球の美しさに息を呑む。
照り返しによって、タイトな忍者衣装に包まれたメアリーのバストが警告灯に映える。
「これこそ、四十七話……『面接』と呼ばれたセクションさ。大きな改稿と削除禁止の規約によって厳重に封印され、二度と現世に姿を現すことはない……」
「OMG!」
メアリーは跳び上がらんばかりに驚愕し、これまで通り過ぎてきたパイプ群を見回した。
「私たちの通り過ぎてきたこの全てが、厳重封印装置だったのね」
「そう。セクションを一つ封印するというのは、こういうことなのさ」
「その結果が、こんなにも美しい真球だなんて……アイロニーを感じずにはいられないわ」
「隠すことで、美は引き立つ。ちょうどその忍者衣装が、君の美しさにミステリアスな一筆を加えているようにね」
「ドクター・カーディガン……」
二人は寄り添い、かつて『面接』だったパイプ群を忍者歩法で進む。
そして、忍者衣装に包まれたメアリーのバストは、警告灯に映えていた。
~メメント・四十七話~おわり




