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【コミカライズ配信中】康太の異世界ごはん  作者: 6k7g/中野在太
第二章 本物の料理

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初夏のきのこ狩り

 それで、三人して台所に。

 落ち着いてくれた悠太君が、説明をはじめる。


 まずは榛美さんが持っていた、人を叩くのにちょうどいい長さの棒で、土間に絵を描いていく。


「あのな。まず、なんていうか、一皿に色々入ってる料理だったんだ」


 うん?


「なんか細長くて、噛んだらぷりっとするもんがたくさん入ってた」


 なんか、想定とだいぶちがうぞ。


「もしかして、麺類だったの?」

「ああ……言われてみれば、あれが麺だったのかもしれねえな」

「食べたことないの?」

「ないだろ」


 ないのか。


 そういえば榛美さん、米を蒸してから搗いてモチにしている。

 つまり、この辺りは採れた穀物を形そのままで加熱してから食べる、粒食りゅうしょく文化圏ということだ。

 麺は、挽いて粉にした穀類でつくるから、粉食ふんしょく文化の産物。


 それはともかく、なるほど、ぱっと見ただけで『違う』と断じたのは、そういう理由か。

 よくよく考えてみれば、悠太君にとってチーズは、一年前にいちどっきり、おまけに失意のどん底の中で食べたもの。

 ふだんからチーズをつまみにセブンイレブンのワインをあけている僕とは、だいぶチーズ観がちがうに決まっている。

 ああまできっぱり言い切れるのだから、よっぽど見た目がちがったんだろうと推測できてしかるべきだったか。

 


「黄色っぽい麺で、白い、とろっとした汁に浸かってた」

「どんな味だった?」

「どんなって……説明しようがねえな。ただ、オマエの作ったあの鍋に、少し似てた」

「だからユウはあんなにびっくりしたんですね」

「止めろ、ほじくりかえすな。思い出したくもねえ」


 好きな女の子を泣かせちゃうのは辛いよねえ。


「他になにか具は?」

「なんていうか、なんつったらいいんだろうなあ。

 鶏の卵と、蜂の巣をまぜたみてえな形の、ぐにゃっとした食感のもんが乗ってたな。味はあんまりしなかった」

「うーむ……なんだろ、それ。ぐにゃっとしてたって?」

「いつもの鍋に入ってるキノコに似てる感じはあったな」


 ふむふむ、キノコっぽい、謎のなにかが乗っている、と。

 おぼろげにだけど、見えてきたぞ。


「あとは、上に、木が虫に食われたときの屑みたいなもんが乗ってた。その木屑が、しょっぱくて、変な臭いだけど、美味かったんだ」

「どんな色だった?」

「色って……白っぽかったかな。ぐちゃぐちゃに混ぜて食っちまったんだ、細かいことは覚えてねえよ」

「他になにか思い出せることってある?」

「一年前にいっぺん食ったっきりのもんだぜ? なんでもかんでも思い出せるかよ」

「そっか、そうだね。ありがとう」


 さて、情報は出揃った。

 ここから先に必要なのは、安楽椅子探偵のごとき思考の飛躍だ。


 黄色っぽい麺、白くてとろっとした、旨味の強い汁、謎のキノコ、おがくず。

 推理から導き出される答えは――


「クリームパスタかな……?」


 黄色っぽい麺は、デュラム種みたいな小麦を挽いて作ったパスタとする。

 小麦粉といえば白いイメージがあるかもしれないけれど、デュラム種みたいにふくまれる灰分ミネラルが多いと、黄色っぽくなる。

 国産小麦だと、『キタノカオリ』なんかがわかりやすく黄色い。

 かんすいを使った可能性もあるけど、小麦を麺にしているという点で変わりはない。


 白くて旨味が強く、とろっとした汁。

 ホワイトソースをキノコの戻し汁でのばしたもの、というのはどうだろう。

 豆乳味噌鍋と味が似ていた、という点、とろっとしていた、という点に説明がつく。

 クリームパスタにキノコはつきものだし。


 で、ソースとパスタをからめたところに、削ったハードチーズを散らしてコクを出しているのだろう。


 悠太君は、ざっと説明を聞いたか、なんとなく他のお客さんの会話を盗み聞きしたか、たぶん後者だな。


 以上、妥当かどうかはともかく、推論は成り立った。


 あとはどう作るかであり、そして、それがいちばんの問題だ。

 クリームパスタに必要なものを、ちょっと並べてみよう。


 パスタの材料


粗挽セモリナにしたデュラム小麦、水


 ホワイトソースの材料


小麦粉、牛乳、バター、ブイヨン(ないしコンソメ)


 ハードチーズ


 乳、レンネット(ウシとかヤギの第四胃からとれる、乳を固めるための物質)、塩、半年以上の熟成期間



 何が足りないかというより、何がこの村にあるのか探す方がはやい。

 答えは塩と水。

 つまり、なにもかも足りないというわけだ。


「榛美さん、ここに小麦ってある?」

「小麦……ううん、山向こうで売っているのを見かけたことはありますけど」

「だよねえ」


 粒食文化と小麦は相性が悪い。

 小麦の内部は粉状になっていて、もろい上に食感が粉っぽくておいしくないからだ。

 よって、挽いてから加工することになる。


「そうなると、グルテンフリーパスタか……作ったことはないけど、変わりそばの応用で……ホワイトソースも、あれで代用して……」

「おい、白神、もういいよ。入れ込むなよ。くだらねえだろ、ガキの戯言だろ」

「あのね、悠太君」

「なんだよ」

「さっきの僕を見たでしょ」

「お、おう」

「くだらなかろうとガキの戯言だろうと、いまさら引っ込みがつくと思う?」

「…………オマエ、分かってやってたのかよ」


 悠太君は絶句した。


「悪いけど、僕は君をだまらせるまで止まれない」

「うぇっ? は? お、おい……」

「もういっかい言うよ。

 君の前に、美味しいクリームパスタを一皿サーブするまで、僕は止まれない」

「い、いや、だから」

「もういっかい言うよ。君に」

「わかった! わかったよ! わかったから!」


 悠太君がどなった。

 ねばり勝ちだ。


「分かった! 好きにしろ! 気が済むまで勝手にやってろ!」

「よし、それじゃあさっそく行こうか」

「は、はあ? うわ、なっ!?」


 悠太君の腕を掴んで、さっそうと歩き出す。


「お、おい、榛美、こいつやべえぞ、た、助けてくれ!」

「康太さん、いつ戻ってきますか?」

「わからない」

「康太さんの分のごはん、いちおう作っておきますね」

「ありがとう、榛美さん。チーズは食べといていいからね」

「ほんとですか!? わああ、うれしいです!」

「それじゃあ、いってきます」

「いってらっしゃい!」


 榛美さんに笑顔で見送られ、僕たちはクリームパスタを求める冒険に旅立った。



「だっ、こ、は、はなせって! ひっぱんな!」

「ああ、ごめん」

「ったく、なんなんだよ……どこ連れてこうってんだよ?」

「手伝ってほしいことがあってね。あっちの里山で、そこそこ人手が入ってるところに案内してもらいたいんだ」


 棚田とためいけあたりを指差す。


「は? なんでだよ。ていうか榛美でいいだろ、それなら」

「榛美さんには仕事がある。君は無職。どっちの方がひきずりまわすのに好都合だとおもう?」

「うっぐっ……」


 ぐうの音もでない悠太君と、かたを並べてあるきだした。

 ためいけのまわりに大きくひろがる里山をてくてく進む。

 ツバキやイヌマキ、スジダイやコナラらしき木々が斜面にもりもりおいしげり、初夏のひざしをたっぷり浴びている。


「うーん、バラ科の木の周りによく生えるっていうけど、サクラはないよなあ」


 ソメイヨシノなんぞこの世界には望むべくもなく。


「何探してんだよ」

「アミガサタケだけど……わかる?」

「なに? なんだそりゃ?」

「正直、僕も本で読んだことしかないからなあ」

「だから、なんなんだよそれ」

「キノコだよ。ちょっと遅いかもしれないけど、春に生えてくるんだ」


 アミガサタケ。

 蜂の巣と卵を足したようなかたちのキノコといえば、こいつでまちがいないだろう。

 春先に発生するこのキノコ、見た目はちょっとものすごいのだけど、フランスでは、モリーユと呼ばれるれっきとした高級食材。

 乾燥したものが125g\16700で売られているのをみたことがある。

 そのくせ、わりとどこにでも生えているらしい。

 SNSのまとめを眺めていたら、近所の公園での採取記録があってびっくりしたことも。


 どうも、腐植土がそこまでふかふかにつもっているわけではない、かつ、バラ科の木の根元を好むらしい。

 実際に採取したとはないので、あてずっぽうにうろつきまわるしかないのだけど。


「それか?」


 とかいってたらいきなり悠太君が、なんでもないツバキの根元をゆびさした。

 落ち葉の隙間からちょこんと顔をだす、ぶきみな傘。

 全体的に黒っぽくて、ロケットみたいにシャープなかたちをしているので、たぶんトガリアミガサタケだろう。


「ああ、たぶんこれだと思う」

「なんだそりゃ。わかんねえでここまで来たのかよ」

「だから、本で読んだことしかないんだって。キノコはほら、素人が手を出すと死ぬから」


 毒キノコのコピペを見るたび、キノコ採りには手を出すまいという気持ちになるよね。

 とくにドクツルタケなんて、あんなもんそこらへんに生えてたら、まよわずてんぷらにすると思う。


 そんな素人でもかんたんに見分けをつけられるのがアミガサタケだ。

 もうどう見てもアミガサタケのかたちをしているし、キノコ狩りにはオフシーズンの春先にか生えてこない。


「やるじゃん」

「うるせえよ」


 ほめたらしかられた。


「こんなもん、春になりゃどこにでも生えてるぜ。ありがたがるようなもんかよ」


 悠太君はアミガサタケを無造作にむしった。


「どこにでも生えるけど、栽培するのがむずかしいんだ。だから高級食材になる」

「ふうん……この村に、そんなもんが」


 顔の前にアミガサタケをもってきて、くるくる回しながら、悠太君は鼻をならす。


「二十本ばかしあつめたら、いちど戻ろう」

「ああ」


 というわけで、初夏のきのこ狩り。

 ああ、狩猟採集ってたのしいなあ。

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