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【コミカライズ配信中】康太の異世界ごはん  作者: 6k7g/中野在太
第六章 黄金色の秋

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ふわふわがんばれ、康太さん

「おう! おめえ明日はおめえ……かつぎじゃねえかおめえ!」


 ふらふらしながらも、腹から力づよく声を出す足高さん。

 これは相当よっぱらっているなあ。


「そうみたいですね」


 ああ、かつぎが終わったら、お祭りもおひらきなのかな?

 カップルの数次第で、時間が伸びちぢみするのかもしれない。


「おめえ、おれは、おめえよお! 明日はかつぎだってのによお!」


 うわ、なんか泣きはじめちゃったぞ。


「あ、そっか、そうですよね。次の次の秋まで……」


 いろいろあって、好きあった同士くっついた、足高さんと湖葉さん。

 だけど、給地の婚姻儀礼であるかつぎは、定員いっぱい。

 ブライダルは再来年の秋までおあずけだ。

 気の毒には思うけど、風習は風習だからなあ。


「おれはおめえ、情けなくて情けなくておめえ……湖葉もおめえ、おれに気をつかっておめえ……」


 ああもう、そんな風にへたりこんで泣かれると、なにかしてあげたくなってしまうじゃないか。


「こっそりお祝いしましょうか」

「へえ?」


 足高さん、顔をあげて、きょとんとしている。


「僕のいた世界で、かつぎのときによく食べられているものを作りますよ。それでどうですか?」


 提案してみるも、足高さんはおよび腰だ。


「あ、い、いやおめえ、でもよお、おめえ、康太おめえ、お祭りだってのにおめえ」

「お祭りだってのに浮かない顔をしているのは、足高さんじゃないですか。おいしいものをつくりますから、笑顔でいてください」


 だめおしに、「ね?」とほほえんでみれば。


「こ、康太、康太おめえ、おめえってやつはおめえよお……!」


 足高さんは、僕の両肩を力いっぱいつかんで、そのまま、生まれたばかりみたいな勢いで号泣した。


「んふふ! 康太さんはやっぱり、康太さんですね」

「榛美さん、てつだってくれる?」

「もちろんです!」

「よし、それじゃあさっそくはじめようか」

「はーい!」

「えっ? お、おめえ、今からおめえ……?」


 号泣から、一直線にぎょっとする足高さん。


「足高さん。康太さんが好きなようにすると、どうなるか知ってますか?」


 榛美さん、ひとさし指をぴんと立て、我がことのように自信たっぷりな口調。


「あ、いや、だからっておめえ、今からってのはおめえ」


 とまあ、足高さんは力いっぱい動揺しているけれど、榛美さんはものともせずに、


「最後にはおいしいんですよ。ね、康太さん!」


 むりやり最後まで言い切った。


「議論の余地なくその通りだよ、榛美さん。さあ、ついにあれとあれを使う時が来たぞ!」


 いやあ、おまつりだなあって気持ちになってきたねえ!


 さてさて、榛美さん家に戻りまして。

 鍋に水を張ったら、そこに入れますは、黒いお豆。

 といっても、いつもの黒豆よりも、だいぶ粒がちいさい。


「あ、それ、なんでしたっけ、や、や、やのつくお豆ですね!」

「ヤブツルアズキだね」


 いわゆる小豆の原種とされる、ヤブツルアズキ。

 葛乃さんと菜摘みに出たとき、見つけたもの。

 いよいよこいつの出番だ。


 まずはぐらぐらに沸騰させて、十分ほどしたら、湯を捨てる。

 渋切りといって、小豆にふくまれるタンニンを減らす作業だ。

 水を換えたら、小一時間ほど、豆がおどらないぐらいの火で、ことこと煮てあげる。

 やわらかくなったらお湯を捨て、ここに、豆と同量の水あめを入れてやろう。

 すると、どうなるか。


「うひゃあぜいたく!」


 榛美さんがびっくりする。

 ついでに、浸透圧で小豆から水分が出てくる。

 身が締まるのを見こして、ちょっとやわらかめにゆでるのがこつだ。


 そこまでやったら、水分が飛ぶまで火にかけて、これで煮小豆のできあがり。


「あ、あの、あじ、あじはっ! 味はどうなんですか!」

「はいどうぞ」


 小鳥みたいにせっついてくる榛美さんの口に、煮小豆を一さじ流しこんでやれば。


「ふわああああ……!」


 よしよし、腰がぬけたぞ。

 これは相当おいしい仕上がりだね。


「うん、ああ、これはおいしいなあ」


 小豆の中でも最高級の、丹波春日大納言みたいな、豆の強いこく。

 そこに小麦水あめのキャラメルっぽい風味がたまらない。

 バニラアイスにどっさりのっけたい味だなあ。

 また一つ、世に解きはなってはいけない甘味を作りあげてしまった。


「あ、あの、これが、康太さんの世界のおいしいやつなんですか?」

「そうだね。これでも十分おいしいけど、今日はここからもう三手間ぐらいかけるよ」

「三手間も! そうなると、ええと、一度で五回ぶんぐらいおいしいのに、それが三回あると……これは大変ですよ康太さん!」

「うん、十五倍おいしくしてみせるね」


 さあ、次は生地を用意しよう。


「鉄の蒸し器を、火にかけてくれる? それから、水あめと豆乳を湯煎しといてほしいんだ」

「はい!」


 米粉と全卵、豆乳、小麦水あめ。

 今日はここに、新兵器投入だ。

 くしゃっとちぢれた、ぱさぱさの葉っぱを、ふたつまみほど。


「あ、それ、なんか目がさめるやつ! ケヤキ茶ですね!」

「樫葉さんに少し分けてもらったんだ」


 このけやき茶を、すり鉢にあてて丹念につぶし、粉にする。

 米粉とあわせ、目の粗い葛布でふるおう。


 さあ、気合いの入れどきだ。

 全卵に、熱した水あめを、少しずつ落としてかき混ぜる。

 細かい気泡を、しっかり抱きこませるのがこつ。

 よく混ざったら、豆乳を、何回かにわけて注ぎ、また混ぜる。


 ここに、ふるった米粉を入れて、木さじでざくざくっとかきまぜれば。


「なんか緑色のものが!」


 なんか緑色のものができる。

 この、なんか緑色のものを、底が平たくなっている鉢に流したら、かんかんに熱した蒸し器の中にいれる。

 焼き上げること、三十分。


 ふたを持ち上げた瞬間、あまい香りの湯気がふわっとのぼってきて、台所に満ちた。


「おおー、こ、これは……? なんだろなんかこれ、なんかよくわかんないものが?」


 取り出したものを見て、反応にこまっている榛美さん。

 あざやかな緑色をした、ふかふかのなにものか。

 榛美さんが知っているもので、これと一番よく似ているのは、岩に生えたコケだろう。


「米粉のスポンジケーキだよ」

「すぽ……?」


 うんうん、目分量でつくった割には、よくできているじゃないか。

 ちょっとてっぺんが割れちゃったけど、しっかりふくらんでいる。


 包丁をつっこんで皿から外したら、蒸し台の上にのせて冷ましておこう。

 その間に、いちばんしんどいところをやらなくちゃ。


 冷蔵庫できりっと冷やした豆乳に、なたね油をたっぷり、水あめをどっさり。

 さらに、煮詰めたどぶろくを、ひとたらし。

 これを、笹のホイッパーで、うんざりするほど混ぜまくろう。

 例によって、『ひとりかふたりの人間がくたびれるまで』だ。


「すごい! 康太さんすごいです! ふわふわしてきましたよ康太さん!」

「ほめてもらえると、力がわいてくるよ」

「康太さんすごいです! 豆乳もすごいですね! ふわふわがんばれ! ふわふわがんばれ!」


 榛美さんの、手拍子をまじえた応援に、全身が脱力するのを感じる。

 だけど、手を止めるわけにはいかない。

 なめらかな口当たりが、労働力と引きかえの異世界だ。

 なんとしても、ふわふわなものを足高さんと湖葉さんに届けなくちゃ。

 ふわふわがんばれ、僕。


 豆乳の中のたんぱく質が、どぶろくのクエン酸でくっついて。

 なたね油が、空気を抱きこんで。

 右腕がひきちぎれそうになる頃、豆乳ホイップクリームのできあがり。


「ふわふわですね! ちゃんとふわふわがんばれましたね!」

「うん、ふわふわがんばれたよ」


 ものすごい充実感があるけれど、なんとまだまだ、ここで終わりではない。


 さっきの煮小豆は、あら熱がとれて、味もしっかり染みたころ。

 こいつをすり鉢にあてて、半ごろしのあんばいにする。

 そこに豆乳ホイップをくわえ、さくっと練ろう。

 あずき豆乳クリームのできあがり。

 あられ糖なんか砕き入れて、どらやきに挟んでもおいしいよ。


 米粉スポンジも、そろそろ、さわれるぐらいに冷めてきた。

 これを、横一文字にぶったぎる。

 卵の殻でうふブリュレをつくったときの、細かいぎざぎざがついたナイフをつかい、慎重に刃をすすめていこう。


「これを、ここからどうするんですか?」

「ここでさらに、新しい仲間がやってくるよ」

「わあ! 今日はなんだか、あたらしいものがたくさんですね!」


 小さな瓶の中に入っているのは、蒸留酒漬けにしたマキベリー。

 魔大陸原産のこのドライフルーツ、ミリシアさんは、同量の銀と同じ価値があるなんて言ってたっけ。

 そいつを、今日はラムレーズンみたいに扱っちゃいますよ。

 たぶんこの世界でも有数の高級スイーツになるだろう。


 ドライフルーツをお酒に漬けておくと、いいつまみになる。

 お手軽だし、なにより腐らないので、常備しておけばなにかと便利だ。

 トリスや角なんかのお手頃なウイスキーと、レーズンでも無花果フィグでもなんでも、好きなドライフルーツがあれば、それだけでつくれるよ。


 さてさて、今回まずつかうのは、漬けたお酒のほう。

 ドライマキベリーの糖分や香りがアルコールに溶けだして、とろっとした、いい具合のシロップになっている。

 このシロップを、ぼさぼさにした笹で、軽く叩きつけるように、生地にぬっていく。

 乾燥防止と風味付けだ。

 生地のきれいな緑色をそこなわないよう、薄化粧で。


「はああ……すっごい、すっごい、すてきなかおりですねえ……」


 鼻をならした榛美さんが、うっとりして、ほっぺに手を当てる。

 ついでにくるくる回りだす。


 米粉と卵と、小麦水あめ。

 ケヤキ茶と、マキベリーシロップ。

 なんともたまらない、洋菓子の香りだ。


 シロップがしっかり染みたら、たっぷりのあずき豆乳クリームとマキベリーを、生地でサンドする。

 回転台みたいな便利なものはないので、ナッペはあきらめよう。

 豆乳クリームをどっさり包丁ですくい、ひだをつけるように盛りつけ、マキベリーシロップを散らす。


「わああ……きれいですね康太さん! なんだかきらきらしてますね!」

「うん。我ながら、けっこううまくできたんじゃないかな」


 さあ、できあがり!

 はー、たのしかった!


「よし、足高さんを呼んでこようか」

「はーい!」


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