表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オーディール テイム・オンライン  作者: 結城 縫熊
1.冒険の始まり…
9/44

9.初めてのクエスト・後編

 茂った緑の草原が徐々に薄れ、渇いた大地の色が見え始める境に奴らはいた。

〈ゴブリン〉

 ファンタジー世界のゲーム設定の代表としてよく出てくる人型の魔物だ。

魔物…ペットとはまた違った種類の生き物だ。

それが今、視界に見える場所に現れた。

奴らは、数匹で狩りをしているようだ。獲物は……〈スロー・ホース〉

 茶色の馬が首に縄を掛けられ、地に伏せつけられ止めを刺された。

ゴブリン達は仕留めた獲物を担ぎあげ、そのまま何処かに消えて行った。

助けるには距離があった。例え助ける事が出来たとしても、襲われた直後の〈スロー・ホース〉には、僕らもきっと敵として映っただろう。


 この世界では、プレイヤーは基本的に敵として認識されている事を思い出した。

味方でいてくれるテイムしたペットのノワールに感謝の思いが溢れた。

そして草原を越え目的地の峡谷にたどり着いた。


 峡谷に来た。先ほどとは打って変わった景色で緑から紅褐色こうかっしょくの大地が広がった。


これでクエストは完了だ。引き返し街に戻ろうとする。

「グゥ」

唸り声が聞こえる。行くぞと言いたげだ。

しかしここは、難易度が星4つだ。分不相応ぶんふそうおうだ。止めておこう。


 互いに譲れない。そんな思いが交差する。僕は強引に踵を返した。

きっとわかってくれる。そう信じ強引に足を進めた。

数十歩は歩いた。後ろを振り返ると、哀愁漂う後ろ姿で、峡谷の頂上近くを見上げていた。


 相棒ノワールが踵を返しこちらに駆け寄って来る。その間、見上げていた場所を見た。

そこは、雲に覆われるより少し低い場所だ。思い出した。

保護区で初めて出逢った時の事を…合点が一致した。

 だからこの場所を目的地にしたのだ。

僕らの冒険のスタートに相応し場所はここ以外存在しない…そう感じた。

「ノワールごめん…やっぱり行こう」

近づく相棒ノワールに僕は力強く言った。

そして僕らは、並んで歩みだした。頂上を目指し。


 峡谷の入口まで戻ってきた。

しかし間違いなく、複数の敵に囲まれると危険だろう…何か良い方法がないだろうか…思案した。閃いた!

スキルだ。メニューを開き、スキルタブを開いた。

 現在の所有スキルは、<弓スキル>のみ。

あと一つくらい何か取れないだろうか?

スキル一覧には、二つの空白があることに気づいた。

 空白をタップした。

すると所得可能スキル一覧が広がる。

<体術><索敵><隠蔽><投擲><制作><調合><料理><裁縫>

などいくつのスキルが出た。

それ以外には、多数の武器スキルがあったが省く。

 この中で、現在とこれからに役立ちそうなモノを選択しなければ…

選んだのは、この二つ!

<体術>

 体の至る所で攻撃や防御ができる。動きの制限が少し解除される。

<索敵>

 知覚範囲が拡大され死角が狭くなる。


 スキルを選び習得が完了した。淡い光が体を包み込んだ。

その瞬間…自身を中心に波紋が広がっていくのを感じた。

まるで視覚だけが、身体から抜け出し、空高くから周囲を見渡しているようだ。

これが<索敵スキル>の効果なのかと感心した。

これなら遅れを取ることはないはずだ…行こう。準備が整い峡谷へ、入っていった。


 <索敵スキル>のおかげで、群れを成した敵に、遭遇することなく順調に道を進んだ。

2体1で倒した敵は、<スロー・バード>、<スロー・イーグル>、<ハーピィ>だ。いずれも一匹でいたため、先制ファースト攻撃アタック弱点ウィークポイント攻撃で苦も無く倒すことが出来ていた。


 しかしやはり草原に出てきた、相手とは違い、しぶとく固い。特に<ハーピィ>はさすが魔物と言った所か…強かった。


 そんな戦闘を何度か繰り返し、道中に休憩を挟みながら、頂上を目指した。

そしてついに頂上に辿り着いた。


 頂上には少し開けた広場があった。

広場の奥には地上を一望できる場所がある。

「おぉ~」

眼下に広がった景色は素晴らしかった。

渡って来た草原を手元に緑が広がって右手には、深い緑が広がる森林が左手には、透き通った蒼が特徴的な湖畔。そしてその中央にエピオンが観えた。

これが自分のいる世界の全貌だ。

「ガゥ」

ノワールが遠くの空を見上げて唸る。

見つめた先に、目を向ける。エピオンの上の空。

そこは、雲より高い場所にあり、霜が掛かって全容を把握できない。

けど確信があった。あそこで僕らは出逢ったのだと…


 あの場所に行きたい。もう一度あの朝日を観たい。そう思った。

「あそこは僕らが最初に目指す場所だ!」

遠くの空の彼方を指差し、僕は言った。

「ガォ」

同意するように声をだした。


 そして僕らはこの場所を後にしようとした…

しかし<索敵スキル>に反応がある。一つだ。

すぐさま弓を構えて奇襲する準備をして、標的ターゲットが現れるのを待った。

現れたのは、爬虫類特有の鱗を持った人型の魔物だ。

〈リザードマン〉

システムが認識した相手の情報を表示する。

思いがけない敵に、一瞬の動揺が襲った。

そして一瞬のスキを見逃してくれる様な相手ではなかった。

すぐさま手にした槍を構え、襲ってきた。

慌てて弓を放った。しかし矢は鱗に遮られ弾かれた。


 彼我の距離が縮まって、槍が迫った。脇腹を掠る。HPバーが削られる。

〈リザードマン〉が伸ばした槍を手元に弾き戻し、再び突く姿勢を見せた。

しかしノワールが飛びついたため追撃を逃れた。その隙に僕は、少し距離を取り、アーツによる攻撃を試みた。

「【ストロング・アロー】」

アーツによって放たれた矢は、鱗を貫き、浅く刺さった。

それでもあまりダメージが通らない。どうすればいい?

思考を張り巡らす。ノワールの爪や牙でも奴の鱗を貫けるかどうかは解らない。

 アーツによる攻撃も期待できるものではない。

そんなことを考えながら、幾度かの攻防を繰り返した。

順調に進んでいた戦闘も終幕を迎えようとしていた…僕たちの敗北で。



 何処から劣勢に変わって来ただろうか…思い出す。

戦闘がしばらく続き<リザードマン>のHPバーが半分、黄色に変わった時から奴の動きが変化した。端的に言うなら早く、鋭くなった。

 そのため僕たちの攻撃頻度が下がっていった。そして徐々に損傷が増えていって今に至る。

 負ける…予感ではなく現実として近づいてきた。

それは、死ぬということ。今ここに至るまでの軌跡が無に返るそれを意味していた。

 嫌だ、悔しいと素朴にそう思った。きっと横で同じように傷ついたノワールも思っているだろう。横をみた。目が合う。その瞳は寸分の諦めの色は無かった。


 奴のHPは三割弱。僕らのHPは一割弱だ。逆転の目は無いとも言えない。

むしろ回復手段を持つ僕らの方が有利だ。しかし回復のスキを与えてもらえない。今も目まぐるしく攻め立てられ、回避することで精一杯だ。回復さえできればと思う。


 しかしこちらは、奴の攻撃一撃できっと倒れてしまう。

何とかしなければと逸る気持ちが、動きから精彩さを奪っていく。

次の瞬間、槍が迫った。

当たると直感した。死んだと思った。

しかし幸いなことに、現実にはならなかった。

 変わりに鈍い衝撃がした。ノワールだ。彼が体当たりをして、突き飛ばしてくれたおかげで助かった。

しかしそれなりの勢いがあったのだろう、互いのHPが

一割を下回りあと数ドットほどだ。

 少し開けた距離に迫って来る<リザードマン>…もう回復している暇はない。

覚悟を決め。弓を構え、力強く弓を引いてアーツを放つ。

放ったあと気づいた。僕とノワールを繋ぐ光に…

「【王虎比翼おうこひよく】」

聞きなれないシステム音声が脳に響き。

矢が暗い光を纏い、【ストロング・アロー】とは比べものにならない

力強さを感じさせ、矢が疾しった。

 瞬く間もなく、矢は吸い込まれる様に、<リザードマン>の顔に的中し

頭ごと吹き飛ばした。

頭を失った、身体は支えることを忘れたように力なく崩れて地に倒れこんだ。

「ドス」

大きな音を立てた身体はやがてポリゴンとなって散ったのだ。


 勝った。その事実だけが脳に響き、システム音を遮っていた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ