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オーディール テイム・オンライン  作者: 結城 縫熊
1.冒険の始まり…
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5.孤高の頂


 微睡みに呑み込まれ、夢のような世界に迷い込み、過去の記憶を辿っていく。

一生の軌跡を遡って辿るように凝縮され、脳にフラッシュバックされた。

曖昧な過去の追憶を巡っていると……世界が少しづつ色を取り戻し始めた。


 気が付くと、深い霧……霧中が立ち込める場所に立っていた。

視界の先には、ぼんやりとだが細い道があった。

不思議と「この道を進まなければならない」という使命感が心の深淵から浮かんだ。

少しの不安を覚えたが……覚束ない足取りで細い道を進んでいく。


 ゆっくりと道を進むと―――やがて、少し開けた場所に出てきた。

そこから先は、霧が晴れ、陽光が照らし始め、陽射しの暖かさを帯びていた。

 急な光彩の変化に思わず、目を瞑った。瞼をゆっくり開けた。そこに映ったのは、純黒な生物が居座っていた。その生き物の毛色は黒というよりも漆黒。

 太陽の光を一切受け入れず、天道の下にあってもその色だけは、陰る気配を一切感じさせない深い黒。故に、闇よりも濃い……漆黒。


漆黒の毛並、気高きたてがみ、強靭な肉体など、強者の素養を携えた獣が寝ていた。

 朝日が彼の獣に充分に降り注ぎ、暖かさを感じたのだろう―――目を覚ました。

薄っすらと寝ぼけまなこを見開き終えると、青年と獣の瞳が交差した。


 本能が危険音アラートを鳴らした。圧倒的な強者と対峙したときに感じる重圧感プレッシャーが体を竦ませた。そんな僕を他所に漆黒の獣は、寝そべった体を起こして弛緩した体を背伸びをするよう伸ばして、身を返して僕に背を向けた。そして……猛々しい立ち姿のまま、朝の静粛を切り裂くような雄叫びをあげた。


 その雄叫びは大気を震わせ、命の息吹を感じさせた。体が鼓舞される。

身体中を活気と生気が躍るように暴れた。世界の隅々に浸透していくように何度も木霊して響き渡った。それほど、力強く雄雄しさ感じさせてくれる雄叫びだった。


 目覚めの日課を終え、そのままの姿勢で鎮座していると……徐々に霧が晴れて眼下に広がる雲の狭間から陽の光が射す。遥か下からざわめき声がこの空の彼方まで響き渡った。産声だ。今日も朝を迎える事が出来た喜びを告げているようだ。

朝日と共に雄叫び世界が……目覚めていく。




自分も何かしたいと思った。ふと思い出したのは、教えてもらった一つの技術。


 鎮座ししている横に立ち、虚空から弓を取り出した。

一本の矢を携え、射の構えに入る。失敗はできない。

 世界とシンクロするほど集中力を高める…

やがて周りが緩やかな時の流れに変わっていく。静粛が訪れた。

矢を射た。放たれた矢は一直線に空を切り太陽に向かって進んでいく。

やがて矢が減速し、放物線を絵描きながら落ちていく…風が下から吹き上がった。

 同時に矢が舞い上がり上昇した。

やじりの鉄が太陽の光を反射し、煌めく一筋の光が空に舞った。

矢は一筋の線を空に残すとポリゴンを散らしながら散った。


 横に鎮座して並ぶ彼の生物が僕を見る。

意志の強さが、窺える瞳から目を逸らせない。

僕はかしずくように腰を落とし、視線を合わせて言った。

「僕と、冒険してくれませんか?」

手を差し出し、握手をするように求めた。

 数瞬の時が流れ…片方の前足を伸ばしてきた。

心が躍り、胸が弾むようだ。

 足と手が触れ合う。感動の瞬間だ。しかし次の瞬間…

「グフッ」

手を踏み台にして、頭に足を乗っけてきた。

額は、重さに耐えかね地面に伏し浸けられる。

「ガォー」

 雄叫びが上から聞こえてくる。同時にシステムの声も響く。

〈テイムが成功しました。これより保護区へ移動を行います〉

無慈悲なアナウンスが聞こえた時、視界は黒く染まった。



 目を開けると白い大広間にいた。

頭の上に重みを感じる。手を伸ばすと鋭い痛みを感じた。

「イッ!?」

手を見ると歯型がついている。噛まれたのだ。

「無事にテイム出来たみたいですね」

声を掛けられる。メリッサさんだ。

 すごくニコニコした表情で、こちら見ながら言う。

「そうですけど…重いです。イッ!?」

頭に痛みが走る。爪を立てたようだ。

「すごく仲がよさそうですよ~次はティマー登録ですね。」

「だいぶ後発になりましたから……早く、ハリーハリーですよ!」

 そうだな…急がなければ。その前に名前を付けたい。

「あの~この子に名前をつけたいのですが?」

「あぁですよね~もう繋がりができていますから、認識したら自動的に、名付けを出来るはずですが…それでは、認識出来ないですね」

 クスクスと笑いながら考え込む。閃いたとように次の言葉を紡ぐ。

「あちらの方に鏡がありますから、そこで姿を確認してきて下さい」

 指を指した先は、入口近くで鏡が確かに存在した。

「わかりました。ありがとうございました」

「はい。では、楽しんでくださいね~」

別れの言葉を交し、鏡まで歩き始めた。


 鏡の前に立った。黒よりも深い闇色…漆黒の毛並の存在が、頭の上に器用に

乗っかっていた。姿を認識するとシステムウィンドウが開く。


<ペットの≪ライガー≫に名前を付けてください>と表示がでた。

ライガーって種類の動物なのかこの子は、しかしあちらで出逢った姿よりも

だいぶ小さいがどういうことなのだろう?まぁいい。


 名前、名前と……

<シオン>これで良しと!決定を押す。しかし押せない。

同時に頭に痛みが走った。これは嫌ということか…<シュバルツ>痛いダメか。

 そんなやり取りを数回繰り返し、決定したのが…<ノワール>

漆黒と気高いって感じが、二つとも混じっている名前がお気に召した様だった。

鏡越しに姿を見ているノワールに呟く。

「これから宜しくノワール!」

「グゥ」

と小さな呻き声と共に、後頭部を柔らかい何かが優しく撫でた。


 

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