33.決戦・1
カノン砲を何とか落とした僕は、その達成感と一緒に訪れた虚脱感に浸りながら〈アースフォート・アルケロン〉の真下に居座っていた。
この場所は、さながら台風の目だ。真上から、速射砲の重低音が次々と聞こえてくる。そして亀の周囲からは、激しい戦闘の余波と音が絶えずに響く。
(このまま此処に居たら、そのうち押し潰されるなぁ~)
現在の自分の置かれている状況を、他人ごとの様に思いながら、僕は様々な意見により導き出された作戦内容を思い出していた。
作戦のプロセスは、段階に分けると大きく三つ。
第一段階。フィールドを両断する壁を左上から右下に斜め向けて築くこと。
これは、クリアした。第二段階。〈アースフォート・アルケロン〉の左側面から攻撃を行い、注意を攻撃方向に集め、誘導すること。現在は、この段階だ。
第三段階。どの様な形であっても【エピオン】を守ること。以上の三つだ。
第一段階は、完全に穏健派主体の考え。第二段階は、過激派と穏健派の意見が交じり合った考え。第三段階は、第一、第二の作戦がご破算になった時、全プレイヤーに科せられた使命だ。これは、どちらの派閥であっても変わりない。
さてここで、僕が何故こんなに後先考えず、我武者羅にカノン砲を破壊しに懸かったかを話そう。
第一段階で壁を築いた事により、亀の進路は制限された。それにより当初、予想されていた進路上にあった【エピオン】から外れて通る事はないと思われる。
しかし僕は知っていた。あの大きなカノン砲の存在を……
もしあの砲が、壁に向かって撃たれてしまった場合、きっと壁は崩壊してしまう。
そんな確信があった。だから、戦闘が激化する前に落としたかった。
僕には、そんな思惑があったため、これほど無茶な強硬策に打って出たのだ。
(何とか落とせたけど……これからどうしよう?)
僕の脳裏には、目的を達成する未来だけを描いていた。
そして、後の事は考えて無かった。
現在は、台風の目のような安全地帯に鎮座しているため、周囲の喧騒からは掛け離れた場所にいる。この安全地帯から抜け出すこと自体は簡単だ。
けど、抜け出したらそれを最後に大勢のプレイヤーが放つアーツに巻き込まれて餌食になるのは、火を見るよりも明らかだった。戦いが始まって間もないのに途方に暮れる僕は、「どうしようか?」と頭を悩ませる。
◇◇◇◆◆◆◇◇◇
「「モグモグ……ゴックン」」
特にいい考えが浮かばなかったので、僕達は食事を取っていた。
この切羽詰まった状況に何をしているだと、観る者が見ればツッコミを入れるであろう光景が映っていた。
(仕方ないよねぇ~腹が減っては戦が出来ぬって言うし)
ストックに残していた、ベテルギウス特製弁当を頬張りながら、言い訳をする。
あれから30分くらい経っただろう。
〈アースフォート・アルケロン〉のHPは10%ほど削れた。
戦いはますます激化して、周囲の戦闘音は一層大きくなる一方だ。
(今は……第二部隊の攻撃が主かなぁ)
第一部隊は、補給部隊を兼ねた高機動部隊。で、第二部隊は、壁を築いたプレイヤーと壁役のプレイヤー達によって、更にヘイトを集めている最中だ。
この部隊には、イヴとカオルがいる。一応このペースで順調に事が進めば、あと四時間ほどで【エピオン】を通り過ぎる。このまま何事もなければ干渉する必要が無くなり、街の防衛が成功したことになる。
第一部隊に属する僕は、本来ならもう撤退して後方から高みの見物をする予定だった。詰まる所、僕がここに留まっている事は、完全に自業自得だ。
(……死に戻りするか?)安易な考えが浮かぶ。
現実を模したゲームの世界である以上、命のゲージであるHPバーが無くなった後に待っているのは、この世界における「死」だ。
それでもやり直すことが出来るなんて、なんて生温い「死」だと思う。
(……それは……やっぱり、やだな)
だから僕は、待つことにした。来たるべき機会を掴むために……
そしてその時は、割と早く訪れた。
それは……〈アースフォート・アルケロン〉のHPは20%位のダメージを与えた時だった。自体は唐突に一変した。……変化は僕の頭上に現れた……亀の腹の部分が降下して来たのだ。
(ヤバイ……押し潰される)
頭上に迫る、大質量に直感的に危機感を覚えた。慌てふためくように急ぎ足で、安全地帯であった場所から勢いよく脱出した。
外に飛び出た。存外、思っていたよりもアーツが飛び交っていなった。
その事を驚いたが、きっと誰かが〈アースフォート・アルケロン〉動きに変化があったため、待ったを掛けたのだと自己完結した。
その考えを裏付ける様に、大勢のプレイヤーが後退している。
僕もそれに倣う様に、足並みを揃えた。
〈アースフォート・アルケロン〉から一定の距離を取った時、後ろを振り向いた。
亀は、甲羅に四本の足を収納して、外部との関わりを遮断する様に、殻に籠っていた。それは、絶対防御の姿勢なのかどうかは解らなかったが、何か次の行動を起こす姿は容易に窺えた。
大勢のプレイヤーが様子を見守るなか、亀が次のアクションを起こした。
――――――――――回った――――――――――――
あの大きな巨体が独楽の様に、ゆっくりと回り始めた。
どの様な原理と法則で、あの巨体で回転させているのかに疑問を持ったが、そんな事を悠長に考えている場合ではなかった。
徐々に勢いを増す回転速度と、こちらに向かってくる亀の重圧に身体が竦む。
「「「ドッッゴーン」」」「「「バッッコン」」」「「「パッッリン」」」
岩石が撃ち出され、僕から少し遠く離れたプレイヤーの集団に着弾した。
飛来した岩石は一発で、プレイヤーを紙切れの様に貫通して、この戦場から退場させられた。回転の遠心力が加わって、命中精度を代償に威力を増している。
(これは、直撃したら……ヤバイな)
散弾のように撒き散らされる岩石弾に危険を感じた。
撒き散らされる岩石を迎撃するため、アーツを放つプレイヤー達。
僕も〈雷魔法スキル〉の中で、最も威力の高い魔法で応戦する。
戦いの火蓋が落とされ、早小一時間ほど経過した時。
プレイヤー優位で、順調に進んでいた戦いに変化が訪れた
次回の更新は今週の土曜か日曜になります。




