32.決戦・序章
遅れながら、先行するプレイヤーの集団を追いかけていると、最後尾が見え始めた。
その中に、見知った後ろ姿があった。その横に並走する為にスピードを上げた。
「あ~ユウヤさん。やっと来たんだね~」
「はい、何だか思った以上に考え込んでいたようで」
「だよね~何度みんなで声かけても反応が無かったから、寝落ちでもしたのかなって話になって放置しちゃった」
「「「バッッコン」」」
僕が次の言葉を紡ぐ前に、すぐ近くの何処かで、大きな音が響いた。
大量の土煙が舞うなか、僕はここがもう戦場である事を理解した。
「「…………」」
僕とユリは、無言で見つめ合い互いに頷いた。
それは、さながら互いの健闘を祈る勇士の仕草に観えた。
彼女はこれまでとは、桁違いのスピードで駆ける。それは、まるで疾風。
僕は、吹き抜ける風を見送った。
けれど、僕の中に少しだけ対抗意識が芽生えた。
(また、大事な時にまた出遅れてしまった)
それは、最初、保護区に行遅れた事を指していた。
(けど……今回は、あの時は違う)
背に背負った剣は、下品で騒がしい存在。
騎乗している獣は、無礼で身勝手な存在。
二つの存在は、いつも僕を振り回す。
けど、優柔不断な僕に取っては、これくらいの仲間が丁度いい。
迷うこと……それは、『決断』を迫られる選択肢において分岐点に居る事だ。
いつも僕はその分岐点で、何かに遠慮する様に譲っていたと思う。
(……譲りたくない……譲れない)
それは、今までの自分と決別の決断。
(彼女が風なら……僕は雷になろう)
小さな対抗心の火を激しく燃やす様に感情を高ぶらせた。
「〈電光撃閃〉」
他の人が僕を見ていたら、消えた様に錯覚して観えただろう。
◇◇◇◆◆◆◇◇◇
〈電光撃閃〉
騎乗時のみ使用可能な、僕のOA。
このアーツは、雷を纏い高速移動を可能にしてくれる。
そして移動中は、雷を纏った突進により、かなりの攻撃力を持つ。
このアーツは、〈ブリッツ・ブレード〉と同様にMPが切れるまで続く。
黒雷が雪原フィールドをしなるように這って駆けた。
通った跡には、雪が溶け、若々しさ溢れる緑が顔を覗かせた。
〈アースフォート・アルケロン〉に近付くにつれて、岩石弾の嵐が激しくなる。
それを躱しながら接近するが、近くに着弾した岩石の破片が幾つか当たる。
少しずつ削れていくHPに焦燥感が芽生えた。
もしかしたら何も出来ずに終わるのかも知れないという不安に駆られる。
「グゥォォォオオ」
漆黒の獣が雄叫びをあげた。すると、身を覆う雷の出力が目に見えて上がった。
これは、ノワールが新たに手に入れた〈黄金〉のスキルだ。
このスキルは、補助スキルの類いに属する。発動中は、漆黒の毛並に金色の模様が浮かび上がる。その効果は、短時間だけだが、全てのステータスにパフを与えるスキルだ。
この恩恵により、黒雷に黄金の輝きが混じり、飛来する破片を僕らに当たる前に消滅させた。
不安や焦燥感が抜けていくのを感じながら、真っ直ぐ正面を見据えた。
彼我の距離はもう目と鼻の先の距離まで接近していた。
(5…4、3、2…1……今だ)
胸の内で時間を数えて、タイミングを計った。
それと同じタイミングでノワールが……大きく跳躍した。
………高く、高く空に舞い上がった。
視線の位置が急に高くなり……降下していく、そして着地と同時に視界が揺れた。
瞬く暇さえもない時間の中、浮遊感に囚われていた。
着地した場所は、〈アースフォート・アルケロン〉の甲羅の上。
(よし……成功した‼)
拳を握り締め小さくガッツポーズをした。
しかし、喜びは束の間。眼前には、甲羅から生えた砲身があった。
(あっ!?……ヤバイ……)
嫌な予感から、冷や汗が流れた……背筋を凍らせる。
次の瞬間……予想通り砲門から岩石が射出された。
「ドッッゴーン」「キィッーーン」
至近距離で響く重低音と空気を切り裂く甲高い音に耳が麻痺した。
間一髪で砲撃を躱した僕らは、甲羅を足場に再び疾走した。
駆ける、駆ける、駆ける。やがて甲羅を一周する頃、目的のモノを見つけた。
(……あった)
そこに向かって駆ける。それは数多くの砲門の中でも、長くて太い砲塔だった。
その砲門は、数多く存在する中で、ひときわ異彩を放っていた。
一目見ればそれが特別性な砲……カノン砲だ。
------僕はこれを壊したかった---------
出来るどうかは解らない……けれど持てる全てを出し尽す。
「やぁぁぁーー」
言葉にならない悲鳴のような……形になっていない叫び声をあげながら……
カノン砲に黒雷を纏ったオブシィを全身全霊を掛け、力一杯に振り下ろした。
「ガッッギィィーーン」
金属同士がぶつかったとき特有の耳障りな音が響いた。
一瞬の交錯の後、細長い剣身は振り抜かれ、カノン砲が半ばから折れた。
全身を虚脱感が支配する。振り抜いた剣は、もう黒雷を纏っていない。
この虚脱感は、僕がOAに加えたかった渇望の一撃の代価。
〈電光撃閃〉というOAに僕が望んだことは二つ。
一つは属性攻撃。もう一つは切り札としての役目。
絶対的な格上に使用したのはこれが初めてだったが、思った以上の成果に達成感が生まれる。しかしその一方で、力が段々抜けていき身体を支えられなくなって、だらしなくノワールにもたれ掛かった。
僕が使いモノになら無くなった事を察したノワールはゆっくりスピードを落として、〈アースフォート・アルケロン〉の真下に向かって、逃げ込む様にフィールドに降り立った。




