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オーディール テイム・オンライン  作者: 結城 縫熊
1.冒険の始まり…
30/44

30.労働

久しぶりの更新になりました。

 

 「「「〈サンダー・ショット〉」」」

正面にかざした手の平から、幾本の電気の光が空間に奔った。

〈雷魔法スキル〉の初期アーツ。〈サンダー・ショット〉。

 発動速度とほぼノータイムで連続して撃てることと、稀に麻痺の追加効果を与えることが出来る雷魔法のアーツだ。その事から、上級魔法使いの間でも初期から使えるアーツながら、牽制や集団の相手に対してでも、とても重宝され、使いやすい事でも定評がある魔法だ。


 雷の奔流が狙いを定めた目標ターゲットに迫る。

標的は〈スピア・ソルデス〉。体長1mにも満たない翼竜型の魔物だった。

空を自由に翔る翼竜達に電気の奔流が突き刺さる。

「「「ギャーーーー」」」

突き刺さった雷は三本。と同時に空に響く三体の翼竜の絶叫。

雷に穿たれた翼竜は、一瞬だけ飛ぶことを忘れて、速度と高度を落とした。

その三体のスキを見逃す事をしない一頭の黒き狩猟者。

ノワールだ。彼は口と二本の前足を器用に駆使して翼竜を地に引き摺り落とした。

空を飛ぶという、圧倒的な優位性アドバンテージを失った翼竜達に抵抗の余地は残されてはいない。聞こえてくるのは、度重なる絶叫の雄叫び。

煩わしく鳴り響く音が聞こえなくなった時、システムが戦闘の結果を流した。



 もう何度も同じ様な戦闘を繰り返した。

戦いが終了する度に、得る経験値と上昇する熟練度。

こんな戦闘を半日、近く繰り返した。

僕が長い時間を掛けてやっている事は、強引なレベリング行為だ。

スキル熟練度の上昇に必要な事は、アーツを何度も繰り返して使う事。

しかしそれでは、得られる経験値は雀の涙ほど。

では、どうすれば効率良く経験値を稼ぐことができるか?


 答えは、ごく単純に二通りほどある。

一つは、相性の良い相手に使用すること。二つ目は、逆に相性の悪い相手に使用すること。僕が選んだのは前者だった。鳥系モンスターは、雷属性が良く効く。


 それらを考慮した上で、それなりに手強い〈スピア・ソルデス〉は集団で現れるこの翼竜達は、〈雷魔法スキル〉を成長させるには格好の獲物だった。


 スピアという名前が示す様にこの翼竜は、鋭利なくちばしを槍の様に構え、空を好き勝手に飛翔する姿は、空飛ぶ短槍の様に観える。そして標的と決めた相手に向かって落ちて来る。その攻撃は、鋭く速い。しかしその軌道は短絡的と言って良いほど、一直線に向かって来るので、タイミングと慣れで対処することが出来るので難しくない。


 ここで一躍してくれるのは〈索敵スキル〉だ。

レーダーの様に広がった知覚領域は、迫り来る〈スピア・ソルデス〉の存在を僕に教えてくれる。僕は反応が合った位置に〈サンダー・ショット〉をただ放つだけで、翼竜の攻撃は崩れ落ち、ノワールの牙と爪の前に餌食となっていく。何度も聞いた絶叫が儚く空に響く。


(ふぅ~……いまので熟練度は、103かまだまだ先が遠いな)

もう大夫手慣れた仕草でメニューを開き、スキルの熟練度を観て思った。

(……このままのペースでは、間に合いそうにはない)

一瞬の思案した後思った。目標に設定したのは、熟練度300。

 オリジナルアーツを造る上で必要な熟練度の値だ。

OAを造る条件は、まずは一つのスキルを300まで育て、〈強化オプション〉でOA作成可能を習得することが第一条件だ。


 しかしそれだけでは、造れるOAの自由度は低い。

よって満足のいくOAを作成するには、合成させたいアーツのスキルを最低300まで育てる必要性が出てくる。それにより更に自由度が増したOAを生み出すことが出来る。


 詰まる所、僕が目指しているのは、僕のOA:〈ブリッツ・ブレード〉の改良。

僕にはある。想い描く未来のヴィジョンが。

 その未来を実現させるためには、どうしてもあと一つのピースが足りない。

未来へ繋がる扉の開き方は解っている。後に残された事は、扉を開くだけ。

 しかし僕には、扉を開けるだけの力が足りない。

想い描く扉がとてつもなく重厚だと思えた。

(…けど、何故だろう?困難だと思える事が……楽しい)


 思い起こせば、自身の歩んできた道のりは、辺り触りの無い穏やかな道だった。


冒険……それは、儚い夢への旅路。


 心が頭と正反対に躍動感が溢れて来る。

自分の中にくすぶる思いを自覚して先に進む。

その足取りは、彼の心中を知らずとも察する事が容易だった。

その背を眺めると人々は、きっと一様に口ずさむだろう。

『あぁ……彼も冒険という名の夢に取り憑かれたのだと』

「さぁ……行こうノワール!」

「ガゥゥウッ」

「オイオイ‼俺の事も忘れんなよ!」

「ははっ。ごめんオブシィ!」

僕の号令に勢いよく返事を返してくれる。二つの存在。

(何とか……なるかな?)

僕は独りじゃない。頼りになる仲間がいる。

二つの力強い仲間の影に後押しされる様に、再び更なる一歩を踏み出した。



◇◇◇◆◆◆◇◇◇


 ついに来てしまった。決戦の時が……

結局、プレイヤー間で、別れた意見に結論を出せなかった。

しかし代わりと言ってはなんだが、お互いの主張を通した妥協案で行く事になった。その妥協案は、この様な形だ。

 まずは、穏健派主体のプレイヤー達によって、大きな壁を作って進路を誘導する。次に過激派主体のプレイヤー達による、誘導したい方向からの攻撃を行う。

この形なら、両派閥の主張が通っている事になる。

 では、残った中立のプレイヤーはどうなったかだ……


「オイ、ユウヤ!次は、これを持って行ってくれ!」

アスラさんが声を上げ、幾つかの箱をテーブルの上に置いた。

箱には、MPを回復させる【ポーション】というアイテムが大量に詰まっている。

その箱を荷台の様なモノにしっかりと括り付け、僕は背に背負った。

「はい、行ってきます」

背負った箱の重さは、およそ100キロ。かなり重い。

 もし、この箱を何かの不手際で落したら、瓶に入っている【ポーション】は割れてしまう。そう思って、しっかりと足に力を入れて、アスラさんの工房から出た。


 町街道に出ても、賑やかな街の雰囲気は無かった。

街の住人は、〈アースフォート・アルケロン〉の接近に備えて避難をしていた。

そのため、沢山の人が行き交う街通りに人の姿は無かった。

「グゥ」

ノワールが頭上から降りた。

地に降り立つ過程で、ノワールが本来の姿に戻っていく。

 NPCの住人が街から姿を消した時、プレイヤー達のペットは、自由に本来の姿を取る事が出来る様になっていた。何とも都合の良いことだ。

漆黒の身を低くして、乗れと言わんばかり低い唸り声をあげた。

「ノワール、ありがとう」

感謝の言葉を呟いて、その背に僕は跨った。そして駆け始めた。

【ポーション】の箱を背負っている為、合わせるとかなりの重さになる僕を平然とした態度で地を駆る姿に逞しく思った。

(やっぱり……変な感じだ……だけど)

普段できない行為から、感じる背徳感が少し楽しい。

過ぎ去る街並みの景色を眺め、駆ける相棒ノワールを撫でた。


◇◇◇◆◆◆◇◇◇



 街を出て、草原フィールドに入った。


 すっかり雪化粧が施された、草原は真っ白に染まっている。

雪は30㎝ほど積もっていて、最初は困難に思えた雪道も慣れてしまえば、特に苦にならなくなっていった。


 そんな雪原をノワールに駆けてもらう。

流石のノワールもこの道をいつもと同じように駆けるのは難しい様で、普段程の速さは無い。しかしそれでも、僕が走るよりもよっぽど速かった。


 5分か10分くらいフィールドを駆けると目的地に辿り着いた。

そこにあるのは、長くて高いとても大きな分厚い壁だ。

 その壁は、フィールドを両断する勢いで、建てられた様は、かの有名なドイツのベルリンの壁を連想させる。凄まじい勢いで築かれていく壁を、初めて見た時は声が出せなかった。しかし本当に驚くべきことは、この壁を築き始めてまだ一日も経っていない事だ。


 壁を構成している物質は、主に水と土が混ざった泥。

本来なら柔らかい泥を強固にしてくれるのは、泥を皮膜の様に覆う氷だ。

水、土、氷の魔法を使えるプレイヤー達が、数々の魔法を駆使して壁を成している。冬という環境の後押しが合って白銀の壁は、溶けて崩れる気配が無かった。

(凄い……本当に凄い)

今も尚、続く壁の建築を観て感嘆した。

人が一つの目標に向かって、行動する様は本当に凄い。


 ここまで話せば、もう僕の役目は解るだろう。

僕の様に素早い移動手段を持っていて、壁を築くのに必要な魔法を持っていないプレイヤーは、補給部隊として行動している。補給物資の出所はアスラさんの様に、生産を主に活動しているプレイヤーが大量に作った物だ。まぁ、やっている事はパシリだ。僕の他にも、大勢のプレイヤーが同様に物資を運んでいる。

(これも……適材適所って奴かな)

多少の不満を覚えない事もないが、みんなが成すべきこと事をやっている。

ここは勤勉な態度で自身に課せられた役目を果たそう。


MPが切れ、疲労の色を窺わせて、休息を取る人達の元に駆けた。


次回の更新は日曜日からです。

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