29.亀裂
前日、街中を駆けずり回って、集めた情報によるとこうだ。
・〈アースフォート・アルケロン〉は、間違いなくこの街に向かっている事。
・今回の“巨門の年”は、一層、厳しいとの事。
・あの亀が前回、現れたのは二回前の“巨門の年”以来だ。
つまり前回は、60年に現れた事があった。
その時は、今ほどの大きさでは無く、三回り程小さかったそうだ。
その時の対処法は、大きな壁を進路方向に設置することで、進路を変えて事なきを得たそうだ。しかしこの度、成長した亀の大きさに対しては、効果を得られそうな壁を作る事は難しい。
以上の事が昨日、街中を聞き込みして解った事だ。
(何だかイオリ説が濃厚になって来たな)
そんな僕の考えとは相反して、他のプレイヤーの考えは違った。
昨日、僕がせっせっと聞き込み捜査をしている中、大勢のプレイヤーがパーティを組んで、レイド形式で〈アースフォート・アルケロン〉討伐に向かったが、フルボッコにされて帰ってきた。
83組のパーティが挑んだ結果。
与えられたダメージは、全体の2パーセント程だった。
1パーティ6人と6匹×83=498人と498匹。
996の存在が半日近く掛けて、出来た事の成果だった。
全体で15万人いるプレイヤー達とペットの総数からしたら、わずかな人数で成しえた成果としては、上々と言えるだろう。
結果論として言えば、討伐には失敗した。
けれども全プレイヤー総がかりで〈アースフォート・アルケロン〉の討伐に向かえば討伐できるということだ。
それらの事柄を踏まえた上で、プレイヤー達の間で意見が分かれた。
討伐を推奨する過激派。進路を変えようの穏健派。過激派のプレイヤーは約5人。穏健派のプレイヤーは約7万人。合わせて12万人の意見が分かれた。
一方で残った約3万人は、派閥に組み込まれるのを嫌がり、沈黙を保っている中立派。大多数のプレイヤーは、これら三つの派閥に別れた。
過激派は残った中立派を取り込もうと、街中で勧誘活動を続けている。
穏健派は穏健派で、水面下での勧誘活動をしている。
僕らプレイヤーは、第一のボスを相手する前にこうも意見が分かれてしまった。
◇◇◇◆◆◆◇◇◇
(ふぅ~、面倒な事になったな~)
コミュニティの掲示板が、節度を無くした言葉が飛び交う様を眺めて、そっと溜息をつきながら思った。少し楽観的に思っていたことは否めない。
僕は穏健派では無いが、進路を変更するという意見には賛成だった。
でも、討伐には賛成ではない。つまり中立派に属すこととなる。
表面化と水面下で行われている勧誘活動を尻目にうんざりするこの頃だ。
(あぁ~、絶対に倒せない設定だったら良かったな~)
カズヤの攻撃が余り効かなかったのは、結局の所、属性による相性の所為だった。
攻撃が効くことが解ったため、この様な些細な問題で揉めている。
過激派の人達は、〈アースフォート・アルケロン〉を討伐する事によって、得られる経験値と素材が魅力的に見えている。それにより、このゲームのクリアに一歩近づくと思っている。
穏健派は、討伐する必要性がない存在を倒すのは、このゲームの目的に反していると思っている。
両者の言い分は解るが、多数決で穏健派の意見を僕らプレイヤーの総意にして、この問題を解決することは違うと思っていた。
しかし残念な事に、ゆっくりと議論している時間はない。
今後、この亀裂がどの様な問題を起こすのかは誰にも解らない。
(……難しいな)
プレイヤー間の亀裂を表現する言葉はその一言に尽きた。
(まぁ、僕だけではどうしようもない……僕に出来る事を僕はしよう)
そう思って、この問題に関する考えを思考の外に放り投げた。
そして僕は一つだけ空きがあった、スキルスロットに一つのスキルを追加した。
〈雷魔法スキル〉
雷の属性を備えた魔法スキルだ。
カズヤ程のスペック高くても、相性という壁が存在しているのを今回の件で知った。
この選択がいつかきっと意味があった。
そう思える未来を信じて僕はフィールドに出た。




