25.邂逅
悠然と大空を滑空して暫く経った。陽が昇り始めだいぶ明るくなった。
峡谷の近くまで翔け、眼下に広がっている景色を眺めた。
初めて来たときに登りつめた頂上を見下ろすのは、とても不思議な感じだった。
(このまま、僕らの目標地点まで乗せて貰えば楽だな)
目標の一つに掲げた、遥か遠く高い場所の事を考えた。
甘い誘惑の言葉が脳裏に浮かんで、乗りそうになる。
「…これ以上、高度を上げようとすると、揚力を失って墜落するんだ」
「あの時は危なかったなぁ~」と思いだしながら、笑いを抑えることなく彼は言った。
その一言が、僕がたったいま抱いた甘い幻想を打ち砕いた。
(やっぱり世の中、そんなに都合のいい話は無いってことかな)
諦めるのと同時に、顔の口角が上がっていて、自分の顔を撫でる事で自覚した。
(何故…笑っているんだ…僕は?)
自分の身体が自身の思惑とは違う動きをしている事に疑問を抱いた。
(……あぁ、そうか…僕は嬉しいんだ)
掲げた目標が、遠く険しい未踏の地だということに身体中が無意識に、歓喜の声をあげている事実へとやがて考えが至った。この大空を翔る雄大な存在ですらあの場所には行けない。目指すべき場所は、思っていたよりも遠く高い場所に存在していることを知れて良かった。
「なぁ?ユウヤ!あそこに何か観えないか?」
そんな事実に喜びを感じて、その余韻に浸っていると声が掛かった。
「…んー?何処?」
彼が向いている視界に目を凝らすが良く見えない。詳しく聞くため聞き返した。
「ほら、あそこだ!」
彼が指を指し示した。
そこは峡谷と湖畔の間に位置する何もない場所のはずだった。しかしそこには、何もない開けた空間だった場所に、遠目からでも解る何かがいた。
「本当だ…何かいる」
カズヤとの共通認識が出来たことを裏付ける発言を僕はした。
「前からあそこは何もない広場だったはずだ…よく安全地帯として利用していたから知っている」
「じゃあ、何かの拍子に現れたのかな?」
「…解らない。だから行って確認してみよう!」
「了解。一応、戦闘準備しておくよ」
「あぁ、頼んだ。ノヴァ!あそこに向かってくれ」
突如に現れた何かを確認することを決めた僕らは、それぞれの必要な行動を始めた。剣の柄に手を掛け、ノワールを頭上から降ろす。大きくなった。僕らを乗せたノヴァは、ゆっくりと八の字を描くようにして、徐々に近づき始めた。
何かの輪郭がハッキリして来た。人工物ではないようだ。
大きい…直径15mほどの円形の存在だった。
色は、深い緑で苔の様な色合いに見て取れた、それは目立ちにくいモノだった。
(んー?今何かが動いた様な?)
目を凝らして観ていたら、苔の一部が動いた様に見えた。
「ドッッッカーーーーン」
結論で言えば、それは錯覚では無かった。重低音が空に響いた。
「チッ、しっかり捕まっていてくれ」
音が聞こえた直後、舌打ちをしながら彼は言った。
その直後、急激な旋回が三半規管を揺らした。
(オエッ…気持ちわる)
少しばかりの吐き気を催したが、粗相すまいと堪える。
寸前までいた空間を何かが通り過ぎた。それなりの大質量だったのだろう。
かなりの速さと大質量が空間を通り過ぎたため、スリップストリーム現象が発生した。飛来した物体をギリギリで避けたため、発生した後方乱気流の波に呑み込まれた。気流に呑まれたノヴァは、バランスを崩してしまい地上に向かって落ち始めた。
墜落する…直感的に思った。
「ノヴァ…地上に向かって、炎弾を放て」
急降下している最中、彼は冷静に相棒のドラゴンに言った。
命令を受けたノヴァは、すぐさま指示通りの行動に移した。
「ゴォォォーーー」
火焔が空気を切り裂く、空気音がした。暖められた空気が上昇気流を生み出した。
それはバランスを崩したノヴァに揚力を取り戻させる手助けをした。
「グゥォォォーー」
奇襲により崩れた体勢を無事に整え、翼を広げ、ノヴァは大きく咆哮した。
「さて、どうしよう?」
先程までの一連の出来事はまるで、何事も無いように彼は楽しそうに言った。
「僕ら二人では、どうしようもないから、偵察でもしようか?」
あれが何かは、解らない。けれど友好的ではなさそうだ。
様子見をする必要がある、と感じた僕はそんな提案をした。
「…OK!そうしよう!ノヴァ良いな?」
同じ考えをしていたのか、同意の返答が直ぐに返って来て、ノヴァに「行けるよな?」と言いたげな問いを投げて、同意を求めた。返答は行動によって示された。
真紅のドラゴンは大きく翼を広げて、空高く舞い上がった。
空高く舞い上がった高みは、先ほど奇襲を受けた時よりも遥かに高い限界高度だ。
「この高さは、感知範囲外なようだな」
「そうだね…でもここからじゃ何も観えないよ」
僕らに攻撃を放った存在の遥か高みに位置していて、見下ろす様に何かを見た。
それはゆっくりと動いて、“エピオン”の方角に進んでいる様に観えた。
現在、解っている事は、動いていることだけだった。
僕らが知りたいのは、この存在の詳細だった。
「やはりもっと近づかなければ、相手の事は表示されないか」
「僕も〈索敵スキル〉を使っても、この距離からじゃ認知出来ない」
僕らは互いに溜息を交えて言った。
「ユウヤ、〈索敵〉を持っているのか?なら…アレが使えるな!」
「マナー違反だと思うが、〈索敵〉の熟練度とレベルとDEXを教えて貰ってもいいか?」
彼は、とびっきりの悪戯を思いついた子供の様な、満面の笑みを浮かべながら言った。
「…良いけど、少し待って」
昨日の戦闘によって変動しているであろう、ステータスを確認のするために、一時の時間を貰ってステータスを開いた。
ユウヤ
Lv 22
HP:1153/1153 MP:862/862
STR:112 VIT:95 AGI:164
MIN:116 DEX:136
≪所持スキル≫
〈両手剣〉/498〈索敵〉/627〈体術〉/700〈騎乗〉/547
空きスロット:1
≪強化オプション≫
アーツ冷却時間短縮Lv2 ATK上昇 OA作成可能
≪補助スキル≫
感知 知覚域向上 捕捉
≪アーツ≫
・ブレイド・スラッシュ ・サークル・ブレイド ・ブレイブ・スラッシュ
バスター・ブレイク ・エア・ブレイブ ・OA:ブリッツ・ブレード
≪リンク・アーツ≫
虎王連翼
ノワール
Lv 20
HP:1497/1497 MP:992/992
STR:226 VIT:212 AGI:243
MIN:125 DEX:50
≪所持スキル≫
・疾走
と、以上の通りだ。
「えっと…レベルは22、DEXは136、索敵は627だった」
聞かれた項目を、ステータスに表示された通りそのまま答えた。
「よし!それなら大丈夫だ」
「いまから、俺がある事をするから、〈索敵スキル〉を全開にしてくれ」
「了解。何をするか解らないけど、カズヤを信じるよ」
僕は、彼を信じればいい簡単な事だ。
「おう、任せろ。後、全力で捕まっていて欲しい」
彼の言葉に従って、彼の腰に手を回して捕まった。
僕が捕まった事を確認した、彼は深く深呼吸した。
「【紅閃迅雷】」




