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オーディール テイム・オンライン  作者: 結城 縫熊
1.冒険の始まり…
23/44

23.三つの席と四つの空席

 必死に戦った防衛戦が呆気ない終幕を迎えて、幕を下ろした人物たちはそれを意に介した様子さえ見せずに彼らは凱旋帰りの道草の如く扱って、僕らの事を気にも留めないように群衆の群れを率いてゆっくりと“エピオン”に帰還した。


(…歯痒いな)

 今の自身の気持ちを例えるならその一言に尽きた。

助かった事に対する嬉しさとは別に、自らの戦いに自身で幕引きを行えなかったことの悔しさ。相反する気持ちを同時に生んだ戦いだった。


「やー、助かったね~」「…危なかった」「助かりましたね~」

絶体絶命の危機を救われた者の感想としては、彼女達の言葉が一般的だろう。

でも僕は素直にそんな気持ちを抱けなかった。

「……すいません」

危機を招いた身としては、謝罪の言葉と頭を下げることしか出来なかった。

「…頭を上げて下さい。きっと私達だけでも、行きましたから」

三人を代表してイヴさんがそう言った。

こればかりはどうしようもない事ですよ、と言いたげな笑みを浮かべていた。

「そうだよ、気にしないで」「…街を守るは当然」

肯定の言葉をそれぞれが口にした。

「…ありがとうございます」

彼女達の心遣いに感謝の言葉で返した。

「それでは、私たちも街に戻りましょう」

その言葉を口にして、保護した動物達を迎えに行き街へと帰還した。


 ぞろぞろと街中に入ると、ペット達が軽い音を立て小型化した。

定位置の頭の上に鎮座したノワールが今日ばかりは少し重く感じる。

ヴェルデはユリさんの肩に止まり木にして、羽休めをしている。

ロザリーはイヴさんの足元をうろうろと回っている。

そこで疑問に思ったのは、カオルさんのシトリンだ。その姿を確認出来ない。

「あの…すいませんカオルさん、シトリンって何処に行きました?」

「……此処にいるよ」

そう言って彼女は、胸元からカバのぬいぐるみを取り出した。

「ああ~ユウヤさんは知らないだねー」

「大型のペットは足が大きさの余り、プレイヤーの移動の妨げに成りますから、街中ではアイテム化することが出来ますよ」

「これはね、フィールドに出ても、一定時間内なら同様なんだ~」

口数の少ないカオルさんに変わって、ユリさんとイヴさんが交互に説明してくれた。


「…けど、この状態のシトリン…窮屈そう」

本来の大きさと違う姿を取っているペット達はどんな気持ちだろう?

頭上のノワールを意識してそんなことを思っていた。

「…だから今日のご飯に期待♪」

窮屈な思いをしていると思われるシトリンに美味しい物を食べさせてあげたい。

そんな事を思って出た言葉なのだろう。

(…ずいぶんとハードルが上がってしまったな)

 自分の選ぶ店が期待に添えるかを不安に思いながら、談笑を交えて僕らは街を闊歩した。



 保護区に来た。前には僕らと同様に動物を連れて並ぶ行列だ。

此処に来るのは、ノワールをテイムして以来だ。

懐かしさを感じながら、段々と近づく白い建物を眺めていた。

「そういえば、此処でしたね。ユウヤさんと初めてお会いしたのは」

まるで随分と昔の事を懐かしむ様に彼女は言った。

「へぇー聞きたいな!二人の馴れ初めの話」

「…聞きたい」

恋の匂いを嗅ぎつけ、興味津々と言った様子の二人だ。

「もう…何度も言っていますけど、私とユウヤさんはそんな関係ではありませんってば!」

こう思いっ切り否定されるのは、事実でも切ない所がある。

 そんな思いを知ってか知らずか、彼女は出逢った時の事を彼女の視点で話し始めた。自分とは違う視点で、語られる話は思った以上に恥ずかしかった。

「それにしてもどうしてあの時、座り込んでいたんですか?」

彼女は過去の記憶を探りながら、思い起こした記憶の疑問を訪ねて来た。

「あー、…えっとー」

(ヤバイ…どうしよう?正直に言うか?)

 その場凌ぎの発言が今になって首を絞める事になるとは、思っていなかった僕は返答に困ったが、純粋な疑問を抱いている彼女の表情の前に白旗を揚げた。

「えっと…あのとき…実はですね……」

観念した僕は、包み隠さずにイオリとの出来事を話した。


「「「wwwwwwwwww」」」

話終えた後の反応は、彼女達の笑いだった。

耳を凝らせば、聞き耳を立てていた人たちの笑い声も混じっている。

(…話さなければ良かったな~)

目の前に広がる光景に、自身の発言を後悔した。

「へぇー“色欲”さんとの馴れ初めってそうなんだ~ww」

ユリさんが笑いながら、僕とイオリのカップル説を唱える。

 そう僕が少し有名なもう一つの理由が、この説の所為せいだったりする。

そもそも、僕がオブシィを手に入れる前から、βテスターのイオリは有名でかなりの好色家として知られていた。

 僕は僕で、女性の様な容姿の所為で、時々ナンパを男性プレイヤーからされていた。そのたびに男性である事を一々証明することが面倒だった。

 ネカマを自然に出来るプレイヤーとのことで話題には上がっていたが、それだけでは有名プレイヤーの一人には成らなかっただろう。

しかし不運なことに度々、イオリと共に行動をしている所を目撃され、この二人はもしかして…の説が濃厚になって来た。

それらの事柄が掲示板で飛び交う最中に、僕はオブシィを手に入れてしまった。


 それからは、火がついた様に話が膨張して誤情報が飛び交うまでに至った。

結局の所、最終的に“謙譲”のプレイヤーは、意志インテリジェンスあるソードを持っている。“傲慢”の一応の主。ネカマ。“色欲”の彼氏。という話で落ち着いた。


 この話が出来上がった時、プレイヤーの間で七つの大罪に由来した名を付ける事になった。“憤怒”の席には“キング”、“色欲”の席にはイオリ、“傲慢”の席に“謙譲”の僕とノワールのセットが座る事になった。後の四つの罪は空席だ。


 僕はこの話がこのまま流れて、消えてくれる事を切に願った。人の噂も七十五日。記憶の掘り起しが済んだ時、列が進んで保護区に入る事が出来た。



 保護区に入ったらすぐに次にお待ちの方々と呼ばれた。

呼ばれた場所に向かう。受付はメリッサさんだった。

久しぶりに会う彼女は、相変わらずの笑みを浮かべている。

「はい、こちらに並んで下さいね~」

言われた場所に僕らは動物達と共に並んだ。

「はいでは、これから先頭の子達から順番に送りますね~」

その言葉をメリッサさんが言うと動物達は順番に進んでいき、何処か別の空間に送られていくのを黙って僕らは見つめた。


 そして…最後の一頭に残った牡鹿が、順調に進んでいた転移に待ったを掛けた。

ゆっくりとこちらを振り向いた。こちらを眺めて首を下げた。

まるで礼をしているように見えた。首を上げると同時に、大きく顔を左右に振った。

「カラーン」

 目に映った光景に唖然とした。牡鹿の角が取れて落下した音だった。

呆然と立ち尽くす僕らを他所に彼は、意に介した様子もなくそのまま転移して行った。


「はい、こちらは貴方達の物ですよ」

地に落ちた左右一対の二本の角を拾い上げ、僕らに差し出した。

「あの~あの牡鹿は大丈夫なんですか?」

受け取る前に、確認の問いを投げた。

「はい、鹿の角は一定の年月が経つと、生え変わるので問題ありませんよ」

問題がない事を確認して、流れで僕が角を受け取った。

「これは、イヴさん達が受け取って下さい」

すかさず受け取った角を彼女達に差し出した。

(きっと一本は譲ろうとしてくるだろう)

僕にこの角を受け取る資格はないそう思った。

「…わかりました。有難く受け取ります」

 僕の意図を汲んでくれたのか、無粋な事は何一つ言わず受け取りイベントリに収納した。

「…さて、お腹が空きましたね。ご飯に行きましょうか」

微妙な雰囲気が流れ始める前に、食事の話を切り出した。

「だねーお腹空いた」「…期待」「はい。行きましょう♪」


 始まった試練の一日目を締め飾るに相応しいご飯をセレクトしなければ、という

使命感を抱きながら、すっかりと陽が落ちて暗くなってきた街を僕らは歩いた。



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