22.凱旋
彼女達の救援によって孤立状態から脱した僕は、四人一組の部隊の一人として、魔物の軍勢を捌くことに集中していた。支援魔法の光が僕らを包む、サポートによって少し軽くなった体を懸命に動かしアーツを放った。
「…行きます」
〈サークル・ブレイド〉
水平に剣を振る。剣からは少しだけ実体剣ではない刃が伸び、攻撃範囲を広げてくれた。〈両手剣スキル〉の基本アーツで、複数の敵に攻撃が行える数少ない技だ。
迫りくる魔物に次々と剣を振るって、前線を維持することに励む。
そして僕がダメージを与えた魔物に更なる追撃の手を繰り出すユリさん。
「あたしの番だねぇ~」
〈ダンシング・スラッシュ〉
舞うような連撃の剣技が少量のダメージを小刻み与える。僕らの敵意が上がって、魔物の標的が完全に僕らに向けられる。
それの進行を遮ったのは、カオルさんの〈ハウリング〉だ。
指向性を持って放たれた音の響きが、魔物達を襲って注目を集めた。
魔物達の敵意値が僕らよりカオルさんの方が上回った事により標的が切り替わる。一直線に並んだ魔物をカオルさんは大盾を構えて迎え撃った。
「…仲間は傷つけさせない」
〈ディフェンス・インパクト〉
盾で攻撃をガードするのと同時に、タイミング良く防御して跳ね返す技だ。
プレイヤーの力量に左右されるシビアなアーツだが彼女は見事に成功させ、魔物を押し返した。その結果、魔物達は自身の攻撃の反動によって、尻餅を着かせるなどの行動を阻害する追加効果を付与した。
「フィニッシュは私ですね」
〈アイス・レイン〉
氷の氷柱の雨が降り注いだ。
反動によって動きが鈍っていた、魔物達はもろに氷の雨を浴びた。
それぞれのHPが消滅して、大量のポリゴンが爆散し視界を埋め尽くす。
「やりました」「やったね」「GJ」「やりましたね」
コンビネーションプレーを成功させ、互いに称える称賛の言葉を口にした。
四人の連携プレーで見事に、魔物を撃退していく僕らだったが、勝利の余韻に浸っている暇は無かった。まだまだ視界には魔物が大多数いる気を緩めたら、僕らがポリゴンとなって爆散するのは、火を見るよりも明らかに想像できた。
戦いは続く、僕らは続ける守るために…
これまで過ごした、一ヶ月余りの思い出の日々を脳裏に浮かべて…
………どれくらい戦い続けただろう…
(喉が渇く、お腹が空いた)
どれほど剣を振るって、波の様に押し寄せる敵を倒したか解らない。
2、3時間ほど経ったと体感で感じた。声を出す余裕も無くて肩で息をする。
眩暈と立ち眩みが襲う、MPと体力は底を尽いた。
残された五体満足の身体と一本の剣を使い最低限の防御で攻撃を捌く、
それでも徐々に減っていくHPバーを視界の端に映し呆然と眺めた。
パーティを組んでいる彼女たちも似たような感じだ。
戦闘の合間に補給していた、回復薬と食料はすでに使い切ってしまった。
残された手札を使い切って、もう打つ手はない。
迫る攻撃を素直に受け入れれば、どれだけ楽になれただろう。
甘い誘惑に乗りそうになるのを必死に抑えて、残された剣を握りしめ戦ってきた。けど…それはもう限界だ。…手足が言うこと聞かなくなってきた。
脚が笑い始めた。身体が限界を感じていた。
(あと少しで戦いは、終わるのにここでリタイヤか…イヤだな…)
開戦したときに比べて、魔物の数は目に見えて少なくなった。
同様にプレイヤーの数も少なくなった。
これなら“エピオン”が落とされる事は無いだろう。
(これなら、及第点を上げてもいいかな?)
そう判断してしまった時、体から一気に力が抜けていくのを感じた。
オブシィが手から零れ落ちる。攻撃を弾くために、振り抜いた腕が空を切った。
本来なら、防御できた攻撃が僕を襲った。吹き飛ばされた身体に力が入らない。
追い立てるように、再び攻撃が迫った。その攻撃は何故か、スローモーションに観えた。
それは第三者の目線で、客観的に眺めているようだった。
(…これが死ぬってことか)
存外に呆気ないなと他人事の様に思った。
ゆっくり瞼を閉じ、来るべき時を受け入れる体勢に入る…
来るべき痛みが来ないため…ゆっくり瞼を開いた。
視界には、爆散したポリゴンの残滓が残されているだけだった。
(何が…起こった?)
脳裏に疑問が浮かぶ…しかし脅威が去ったことだけは理解した。
「グォーン」
大音量が空気を振動させた。音の方向を見た。
そこには〈カーディナル・ドレットノート・ドラゴン〉と“キング”の集団がいた。
地鳴りが響いた時に別れた、彼らは凱旋を終えたかのように街に戻って来たのだ。そしてその中の誰かが、僕を助けてくれた事を遅れながらに理解した。
(…助かったのか?)
彼らが魔物の軍勢に向かってくれるかどうかは解らない。
しかし次の瞬間、その考えは杞憂だった事を理解した。
真紅のドラゴンが大きな火焔を放った。
「バゴーン」
大地を揺るがす轟音が響いた。辺り一面が火の海に覆われる。
それが彼らの開戦の狼煙の合図だった。
怒涛の勢いでドラゴンとそのプレイヤー達が魔物を蹂躙し始めた。
その様は、まさに圧巻の一言に尽きる。
少し語るのならば、ある者はドラゴン共に上空から色々な属性のブレスと魔法を地に落とし大地を揺らす。またある者は大地を駆け疾走するドラゴンの背から飛び降り、魔物の軍勢の群れに舞い降り斬り掛っていた。
“キング”自身は後者だった。
身の丈を越える大剣を振り回す姿はまるで嵐だ。
大剣は紙でも斬り裂くように、一切の抵抗を感じさせることなく魔物を切り裂く。
(凄い…凄まじい剣技だ)
息を吐く事を忘れ、“キング”の剣技を眺めていた。
戦いの当事者から傍観者に立場が入れ替わってしばらく経ち…戦いは終わった。
これが長きに及ぶ、防衛戦の終幕の内容だった。




