21.戦乱
総勢五十頭近くの動物を宥めるのに、大役を担ったのは、
シトリンとカオルさんのコンビだった。彼女は、〈ハウリング〉使い自身に敵意値を
集めて、パニック状態の動物達にわざと攻撃させて一ヶ所に集まる様に仕向けた。
そして、集まった動物達の周囲にシトリンの防壁の膜が覆った。
彼女のファインプレーに感嘆のエール送りながらしながら、
防壁に入りきらなかった何頭かを宥めながら、落ち着きを取り戻すのを待った。
「やー、ビックリしたねー」
「でも、何とかなった」
「カオルさん怪我はありませんか?」
「あっ!そうだよ、カオちゃん大丈夫?」
「…ノープログレム」
一様にそれぞれの感想を口にし、集中攻撃を受けていた彼女を心配した。
それに対し彼女は、茶目っ気を持って、親指を立て英語で答えた。
「もう…カオルさんたらお茶目さんですね。とりあえず回復させますね」
「…助かる。ありがと」
イヴさんが彼女に〈アクア・ヒール〉を使った。
イエローゾーンまで達していたHPが徐々にグリーンになり満タンになった。
「それにしても、さっきの地響きはなんだろう?」
休息の時が訪れた時、急に起こった一連の出来事に疑問の言葉を口にした。
「地震ってこの世界にもあるの?」
「可能性が無いとは言い切れませんが…どうでしょう?」
「このタイミングで起きる…不自然」
三者三様の返答に思考を巡らせる。
(充分過ぎるほどリアルな、この世界でなら地震の可能性は確かにある…
けどいま、このタイミングで起きるのは、確かに不自然過ぎた)
エメラルドの宝玉が完全な輝きを放ちだして、この世界の変化が目に見える形で訪れて、
約一日の時が過ぎた。何かの変化が訪れても不思議ではない。
そんなことを話ながら、ゆっくりと街に帰還する道を歩んだ。
やがて街の景観が一望できる所まで来た。
「これは…どういうことなの?」
目の前に広がる景色に、僕ら一同を代表してユリさんが呟いた。
“エピオン”を覆う外壁に魔物の軍勢が群がる。
それは押し寄せる津波の如く、防壁を突き崩さん勢いで攻城戦を繰り広げていた。大勢のプレイヤーが街を守るため、魔物の軍勢と刃を交えていた。
しかし如何せん、数で負けている。今は互角に戦えていてもいずれ崩される。
それを僕は直感した。考え、迷っている余地は無かった。身体が勝手に動き、すぐさま戦場へと赴いた。
ノワールに〈疾走〉を使って貰い駆ける。これまで経験したことの無い、空気抵抗に意識が奪われそうになった。しっかりと歯を食い縛り必死に耐えた。そのおかげですぐに戦場には辿り着いた。
オブシィ抜き放ち、魔物の集団へ戦場に一筋の道を作るように駆けた。
戦術と表現するには、稚拙なモノだったが、オブシィの強固な剣身とノワールのスピードが合わさって、突撃槍の如く、突進力を有していた。
「【ブリッツ・ブレード】」
これが僕の編み出したオリジナルアーツ。騎乗した状態で
剣を振り切る途中で固定して、〈疾走〉により得たスピードで切り抜ける。
切り抜ける度に、血飛沫が剣身を濡らして、怪しい光の軌跡を描いた。それはまるで、黒い稲妻が奔った様に見える。
剣が何かを切り裂くたびに襲うシビレで、剣を取り落しそうになるが絶対に落とすまいと思って、より一層強くオブシィの柄を握りしめた。疾風怒涛の勢いで戦場を駆け抜けた。
縦横無尽に戦場を〈ブリッツ・ブレード〉を使い続けて、闊歩している内に変化が訪れ始めた。徐々に剣筋が乱れ始め、突進力に勢いが失ってしまった。
MPと体力が切れ始めた。勢いを無くし、疾風迅雷のように駆ける事が出来なくなってきた。それはつまり戦場に残され、孤立していくことを意味していた。
(やっちゃったかな~)
自分の浅はかな行動に自責の念が駆られた。勇敢と無謀の違いを初めて知った気がした。もちろん後者の方だ。
敵陣に殿を務める思いで、突撃したのなら勇敢だと言えただろう。けど僕のした行いは、ただ悪戯に戦場を混乱させ、大地に横たわる屍の数を一つ増やす無謀な行為に他ならない。もう最初の頃の様なスピードは既に出ていない。
戦場に独りでに存在する生物の一つとなった時、僕に向かって凶刃の牙をを剥いた。迫る刃をただ剣で弾き返し、必死に生き延びようとする無様な姿があった。
「ノワール……ごめん」
こんな無様な事に付き合わせた相棒に謝罪の言葉を送る。
「ガォ」
全くだ。と聞こえた気がした。
「あーお二人さん、負け犬の雰囲気を纏わせているところあれだが、まだあきらめるには、まだ早いようだぜ」
敗北を受け入れ、落胆する僕らに、気の抜けた声が投げられた。
「う・し・ろ、見てみな」
続けざまに投げられた声に、落とした肩と顔を上げて後方に視線を向けた。
白銀の世界が近づいていた。
薄っすらと雪化粧が施された大地とは違う、スケート場の様にしっかりした固い氷の大地が僕らの後方に何処からか伸びていた。
その氷の大地を迫りくる魔物を押し退け、こちらに来る大きな存在。
シリトンだ。そして…その背に乗る三人の少女達。
「いやー、ユウヤさんって意外とせっかちさん、なんだねぇー」
「この貸しは大きい…」
口々に僕の独断行動に対して、各々の思いを言いながら背から飛び降りる。
しかしそこには、責めるような意図は、感じられなかった。
「ホントですよー街に着いたら、御食事奢って下さいね」
最後にイヴさんがこの話を締める様に言って、僕に回復魔法を施してくれた。
「おっ、流石イヴ!名案だねー」
「イヴ…名案…ステキ」
迫りくる魔物を巧みなチームワークで捌きながら、楽しそうに同意する二人。
(…ありがとう)嬉しさが込み上げて来て、素朴な感謝の言葉を胸の内で言った。
「…わかりました。このお詫びとお礼は、とびきりの御飯をご馳走します」
淡い光が僕とノワールの身体を包み終わり。
ある程度のHPと疲労を回復させ、戦列に加わる時にそう言って約束した。
「…フラグ建て乙」
誰かが言ったその言葉は、戦乱の渦に飲まれ誰にも届かなかった。




