19.保護
ゆっくりと進んでいた僕らに、ヴェルデの鳴き声が聞こえた。
「こっちだね」
ユリさんがヴェルデの声が聞こえた、方角に向かって一目散に走る。
木々の隙間を駆け抜けた先に、ヴェルデが見つけた光景が映った。
そこにいたのは、6体の〈オーク〉に囲まれた、鹿の集団だった。
まだ襲われてはいないようだ。
どうしようと迷っていると、駆ける影が一つ。
ノワールだ。その背には、カオルさんが跨っている。
〈オーク〉の正面に立つと彼女は大盾を構えアーツを放った。
〈盾スキル〉の〈ハウリング〉だ。
盾と戦鎚で大きな音を鳴らし、自身に敵意値を集めるアーツだ。
すると彼女に〈オーク〉が群がる様に襲い掛かった。
慌てて駆け出した。その時、横を吹き抜ける一陣の風が僕の髪を揺らした。
吹き抜けた風の正体はユリさんだ。
彼女は旋風の如く、大盾を構えたカオルさんに群がる〈オーク〉達の背後に回った。そして腰に差した二本の短剣を引き抜き、〈オーク〉の足を素早く切り裂いた。
鮮血が彼女の髪を濡らす前に、素早く離れる。そして再び切りつけるヒット&ウェイの戦法を繰り返していた。
凝視していると、目を回しそうなスピードだった。
その戦闘の渦中、彼女たちを包む淡い水色の光。
これは、イヴさんの〈水魔法スキル〉のアーツ〈アクア・エンチャント〉だ。
効果はスタミナ消耗の減少。
彼女たちは、付与魔法によって淡い光を纏い攻防を繰り広げていた。
そこに僕もオブシィを引き抜き、戦線に加わった。剣を〈オーク〉に振り下した。 剣を振るった時に、消費されるスタミナがいつもより少ないと感じた。
僕にもエンチャントが付与されていたようだ。
いつもより少しだけ、軽くなった身体を動かし戦う、やがて〈オーク〉達のHPがイエローゾーンを下回った時、響く一声があった。
「皆さん、後退して下さい」
イヴさんが凛とした声を響かせ、僕らに指示した。
声が届いたと同時に散開する三つの影。場に残ったのは〈オーク〉の集団。
そして…そこに向かって放たれた一つの魔法。
大きな水球が〈オーク〉達に炸裂して、身体を濡らした。
これだけで済んだのなら、〈オーク〉達にとっては幸いだっただろう。
しかし更なる、追撃が奴らを襲った。冷気が吹き抜けた。濡れた身体が徐々に
凍っていく、そして六体の氷像が作られたとき、砕けて消えていった。
〈アクア・ブリザード〉これが、この戦いの幕を下ろしたアーツの名だった。
「どうでした?私のオリジナルアーツ?」
Vサインを立てながら彼女は、笑みを浮かべこちらに近づいて来た。
全ての攻撃系スキルは、熟練度300に達すると、習得したアーツを複合させ制作できるアーツの事だ。それをオリジナルアーツまたは、複合アーツと呼ぶ。
「いい感じですね。かなり高威力そうですし」
「ふふん、それだけじゃないですよ、消費MPも少なくて効率も凄くいいですよ」
得意満面の表情を浮かべながら、彼女は言った。
少しの付き合いで解った事がある。イヴさんは効率の良いことが好きなのだ。
他人に強制する効率厨とは違い、ただ効率の良いやり方を見つけるのが好きらしい。
「ハイハイ、イヴその話は後でね」
自身の作ったアーツを熱弁しよう、としていた彼女をユリさんが制止した。
話が途中で終わった後、この鹿の群れをどうするかの、話し合いが始まった。
「もう街に連れて行きましょうか?」
「うーん…それもいいけど、まだ来たばかりだよねー」
「うん、そうだね。まだ始まったばかりだから焦る必要はないけど、このまま帰るのは味気ないね」
あれこれと意見が飛び交った。このまま保護して帰るか留まり散策をするか、どうかに話の終着点が置かれている。
「ここは…私のペットの出番」
一進一退の話し合いに一石が投じられた。カオルさんの発言だ。
彼女はいそいそと鎧の胸元に手を入れ、何かを取り出して地に下ろした。
「シトリン…出番」
呟かれた言葉に反応した何かが体を大きくした。
段々と大きくなっていき、姿形が認識できるモノになった。
現れたのは、大きなカバだった。
「シトリン…防壁」
彼女はカバに何かの指示を出した。
どっしりと大地に構えたカバから、薄い黄色の膜が僕達を鹿の周囲に張られた。
「ここを拠点にもう少し散策しよう」キリッ
少しだけドヤ顔を浮かべて彼女は言った。
「カオちゃん流石~ご褒美に撫でてあげよう」
「カオルさん流石です~」
二人の少女は自分たちよりも身長が低い、もう一人の少女の頭を撫でまわす。
「二人とも止める…」
頭を撫でる二つの手を振り払うため頭を左右に動かした。そして少し頬を膨らませながら言った、彼女の表情は満更でもない様子が窺えた。
「これで三時間くらいなら、何もなければ問題ない」
そう言って、シトリンに頼んだぞと言う様に撫でた。
二人の少女も同様にシトリンを撫でた。僕も彼女たちに倣ってカバを撫でた。
「ヴォーツ」
「了解したぞ」と聞こえた。
その鳴き声を聞いた僕らは、この場を後にした。




