18.始まった試練
雪が降った翌日の朝、宿の外が少し騒々しい。
一か月あまりこの宿で寝泊まりをしていて、外の音が宿の部屋に響いたのは初めてだ。そんな喧騒が気になって、慌てて身支度をして宿を出た。
外に出ると白銀の景色が所々に見えた。
積もったとは言い難い、しかし確実に冬の寒さが近づいているのを感じた。
そして騒ぎの現況は、宿の傍にある掲示板に大きな人出が喧噪の元だ。人々の群がりを掻き分け、掲示板に張り出された紙の内容を閲覧した。
【緊急報告】
≪また例年通り、険しい寒さの季節が訪れ始めた…しかし今年の冬は例年より一層の寒さが予想される。
また今年から“異邦者”の来訪した為、例年通りの冬の蓄えでは此度の冬は越せないだろう≫
≪よって街の住民達はそのことを踏まえて、冬を越すための準備して貰いたい
そしてこの度は、二十年に一度の“巨門の年”であるため、巨獣や魔物の活動が活性化するため、危険なので街からあまり離れぬようによろしく頼むぞ≫
47代目ティマーズギルド長より
とのことだった。
冬に向けて色々準備するのは、何処の世界でも一緒なのだろう。
僕らプレイヤーがこの世界の住人になった事により、それなりの負担が生じていることに少し申し訳ないと思った。
そして思った…後半の言葉はきっと僕達に向けられた言葉なのだと。
二十年という年月の度に起きる“巨門の年”これがきっと僕らが最初に越えなければ試練。逸る気持ちを胸に、駆け足でギルドに向かった。
ギルドに着くと幾人のプレイヤーが群れを成してギルドに来ていた。
そこには見知った顔の人達がいた。
「皆さん、こんにちわ」
「「「あっ!?ユウヤさん、こんにちわ~」」」
三人の少女が挨拶を返してくれた。
イヴさんとその友達のユリさんとカオルさんだ。
三人の少女達もギルドに来ていた。
「皆さんも広場の掲示板を見られてこちらに?」
「ううん、コミュニティの掲示板を見てきたよー」
三人を代表してユリさんが言う。
彼女は明るく活発な印象の少女だ。
「やっと第一の試練が始まったみたいで、詳しい説明はギルドで聞けるって書いてあったから来たけど…満員だねー」
そうギルドには、プレイヤーが津波の様に押し寄せて入るに入れない。
「うー、早く入りたいよ!」
逸る気持ちを隠せない、彼女は唸る様に言った。
「…コミュニティの掲示板に内容が張られているよ」
寡黙な表情を浮かべて、沈黙していたカオルさんが淡々と呟いた。
以前聞いた話では、彼女もイオリと同じくβテスター出身ですこぶるゲーマーらしく盾職に命を懸けているらしい。そこで騎士たる者、寡黙で有るべしと言った様で必要最低限の会話しかしない。ロールプレイというやつだ。
「ホント?見せて、見せて!」
ユリさんがカオルさんに抱き付き、彼女のウィンドウを覗いた。
しぶしぶと言った様子で彼女は自身のウィンドウを可視モードへと切り替えた。
「えーと何々?フィールドで魔物の動きが活性化して動物を襲っている。
このままでは動物達が絶滅してしまうその前にフィールドに赴き、魔物から動物を守れ。または保護せよ!だって!」
ユリさんが内容を読み上げる。
「ですって」
蚊帳の外に居た僕にイヴさんが話し掛けてきた。
どうします?と問いかける様だった。
「…情報ありがとう、じゃあ僕は行くよ」
そう言って、この場を逃げる様に後にしようとした。
「えー!?ユウヤさんはまた独りで行っちゃうの?一緒に行こうよ!」
この流れでそれは無いよ、と言いたげにユリさんが声を立てた。
「…今回は人手がいる。ユウヤさんも一緒に行く事が合理的です」
畳み掛ける様に、カオルさんが言った・
「ですって」
再び同じ言葉を繰り返した。
先程と同じことを言っているのに、今度は「逃がしませんよ」と聞こえた。
僕は逃げ道が無いことを悟り、黙って白旗を上げる様に頷いた。
フィールドに出ると。薄らと雪化粧が施された、緑と白の混色の草原はとても綺麗だった。
僕はノワールの背に乗り、草原を駆けた。
いつもより遅いスピードで流れる景色は、新鮮だった。
遅いスピードには、理由があった。僕の後ろには同様にカオルさんがノワールに乗っているのだ。屈強な肉体を持つノワールでも二人分の重量を背に乗せ、いつもの通りのスピードで駆ける事は厳しい様だった。それに盾職の彼女の装備の重さを含めるときっと僕よりも重い。重装備だからだ。
装備と言えば、僕の熊さん装備は〈メイル・ベアー〉の鎧皮を使った濃い茶色のジャケットと、長ズボンと皮靴。ジャケットには何故か、熊の頭の皮で作られたパーカーが付いている。〈擬態スキル(熊)〉が付いた全身レーザー装備だ。
続いてイヴさんの装備は、〈ハーピィ〉と鳥などの羽毛の毛糸で編み込まれた、セーターとセミロングスカートのローブの軽装備だ。そして武器は杖だ。
一方のユリさんは、僕と同じく熊装備でハーフパンツのズボンと健康的な足を包み込むニーソックスの活発な服装だ。武器は二本の短剣だった。
最後にカオルさんだが、峡谷にある採掘場で取れた鉱石で金属の全身鎧の重装備だ。武器は大型の盾に戦槌だった。
そして混成パーティを組んだ僕ら四人は、湖畔に向かって駆ける。二匹と一人。そうユリさんは、騎乗している僕らに並走している。
速い!全力を出しているわけでは無いが、間違いなく僕の全速力を上回るスピードで走っている、ロザリーとノワールに悠々と付いて来ている彼女に感嘆した。
「そういえば、最近ユウヤさんは、武器を変えられたそうですね」
「あー!あたしも聞いたよ。すっごい噂になっているよね!」
イヴさんが話題を出し、ユリが同意するように続いた。
「激レアの意思ある剣を手に入れた?」
彼女たちは、オブシィの事を頻りに聞いて来た。
そんな彼女達の顔は、見せて見せてと言いたげな表情を浮かべていた。
「うん、そうだよ。この剣の事だよね」
背に背負った鞘から剣をゆっくり引き抜き、彼女たちに見える様に掲げた。
「おう、おう。なんだい、なんだい!こりゃ別嬪さん達が揃いも揃って、俺様の事を噂してるぜ!モテ期来たコレww」
引き抜かれたオブシィは、彼女たちを一瞥すると、嬉しそうに騒ぎ始めた。
「「「…………」」」
彼女たちの表情が固まった。
(抜いたのは間違いだったなぁ~)
そう思ってすぐさま、これ以上騒ぐ前に鞘に納めた。
「あっ…その~とてもユニークな人格が宿っていられますね」
やはりというか女性の反応は、芳しく無かったようで困った風に返答が返ってきた。
そうオブシィは現在、確認されている唯一の意思ある武器でそ所持していること、他の事で僕は一時の人らしい。
けど大抵の人はオブシィの人格を知ると可哀想な表情を向けてくる。
彼女たちもその例からは、外れなかったみたいだ。
そんな会話を最初に会話が始まり、やがて目的地の湖畔に着いた。
湖畔に着くと、何組かのパーティを組んだプレイヤーの集団が何頭ずつかの馬と鹿を保護して街の方角へ戻っていく姿があった。
「あっちゃー出遅れちゃてるね。でも私たちには、この子がいるから大丈夫!」
そう言ってユリさんは指笛を吹いた。
「キュピー」
空から甲高い鳴き声が響き、大鷲が舞い降りた。
〈アズライト・イーグル〉
濃い藍色の身体に混じり、灰色がかった緑の嘴と爪を持つ大鷲。
「ヴェルデ、上空から襲われている動物がいないか探して!」
再び大空へ上昇する大鷲。
「よしこれで索敵は完了!あたしたちも行こう!」
元気よく号令をかけた彼女を先頭に、僕らは林道を進んだ。




