16.繋がれた意志
いま雌雄は決した。勝利したのは僕らだ。
横たわった〈ユニコーン〉にゆっくり歩み寄った。
体は動かない、けどその雄雄しい角と瞳でこちらに頭を向けた。
真っ直ぐに僕らを見つめた。その瞳は、自分を下した相手を称えるようだった。
そして…触れろと言わんばかりに、角をこちらに伸ばした。
伸ばされた角を撫でる様に触った。
触れ、撫でた。その瞬間、満足そうな表情を浮かべた〈ユニコーン〉は、自身を形成しているポリゴンを爆散させた。荒れ狂うデータの嵐が強風となって僕らに吹き荒れた。吹き荒れる風で僕は目を瞑った。やがて風が静まり、目を開いた。先程までの場所に〈ユニコーン〉はもういなかった。
その代わりに、黒い長剣が刺さっていた。
それはまるで、ブリテンの王を選定した剣の様に大地に突き刺さっていた。
僕は剣の柄に手を伸ばした。
自身を選定者とは思わなかった。…けどこの剣は僕の物だ。
ただ純粋にそう思った。だから手に力を籠め、剣を引き抜いた。
……「スポ」と軽い音を立て、思ったよりも簡単に抜けた。
剣を入手した旨を伝えるシステムメッセージが流れた。
〈意志ある剣を入手しました〉
〈意志ある剣の意志で強制装備されます〉
続けざまに流れるメッセージに理解の範疇を越えた内容があった。
疑問に思う暇もなく、光が僕を包み。弓が消え、剣が装備された。
「よう~これからよろしくな!」
意気揚々した、雰囲気で剣が喋りだし挨拶してきた。
「…よろしく。僕はユウヤ」
幾つもの疑問が残ったが挨拶に返答と自己紹介をした。
「ユウヤよろしくな!せっかくだが名前をくんねぇか?」
「(名前か~)」
手にしている剣の全容を改め観た。
刃渡りは一メートル強で、長剣というには少し幅の広い西洋剣だ。
クレイモアに近い剣だった。そして中心の溝には、薄っすら赤い筋が奔っている。かの有名な選定の剣は聖剣と称される剣とは、正反対の魔剣という言葉がピッタリ来るそんな剣だった。
そんな容貌の剣にピンとくる名前は何だろう?
コミュニティから外部サイトにアクセスし、花、宝石、星などを参考にして選んだ名前は…≪オブシィ≫。
黒曜石の事をオブシディアンと呼ぶらしいので、呼びやすく≪オブシィ≫だ。
「オブシィって名前はどうかな?」
悩んだすえ決めた名前を確認の為に聞いてみた。
「まぁ悪くねぇな。それでいいぜ!」
なんとか問題なく、意志ある剣の名前が決まった。
「改めてよろしくねオブシィ…ところで装備解除できないけど、どうしてかな?」
「それは俺様が拒否しているからな!」
もしこの剣が人の姿をしていたら、踏ん反り返りながら言っているだろう
「ユウヤ…俺みたいなレアな武器を手に入れたら普通にラッキーだと思うだろう?それともあんな戦いの後の戦利品を無下に扱う気か?」
オブシィいわくレアな武器らしい、確かに白い幻獣の忘れ形見であるかも知れない剣をイベントリに収め続けるのは良くない…しかしだ。
「僕さ剣なんて使ったこと、無いんだけど…」
「ガタガタ言ってんじゃねー!黙って俺を使えよ!」
これは何を言っても、堂々巡りになる予感がしたので引いておこう。
「うん…わかったよ」
了承の意を伝えて、オブシィ背負って歩き出した。
静謐な森を抜け、来た時と同様に川を渡った後、変化が訪れた。
「(何故だろう、体がすごく重い)」
自身の身に起こった変化は一つしかないため。黙ってウェポンタグを開きオブシィの情報を観た。
≪意志ある剣:オブシィ(赫の剣)≫
少し身勝手で、怒りっぽい人格の意志を持つ剣。
黒い剣身に赤い筋が入っているのが特徴的な黒剣。
その刃は、鋭いとは言い難い。切り裂くことよりも叩き斬る事に趣きを置いている。
ATK:+140
要求STR値:75
要求STRが25足りていません。つまり本来装備出来ない物を装備しているペナルティで重いと感じているのか…街に戻ったら、アスラさんに相談しよう。
そんな事を思いながら、草原に着く頃には夜だった。
夜には、出現する動物達が変化する。夜行性の動物が活動を始める。
他の生物が活動を鎮静しているのを狙う捕食者だ。
今も茂みから僕に跳びかからんとしている。生物がいた。
〈スロー・タイガー〉
虎だ。ライガーの親の片方の種族だ。虎視眈々と標的を僕に定め。
今襲い掛かってきた。一頭の虎が背後から駆けてくる。
〈索敵スキル〉によって感知していたため、難なく避けた。
そして反撃を行うために、背負った剣を抜く。剣を正眼に構えた。
剣身を真っ直ぐ伸そうとしたが、上手く構えられず、スキだらけの僕に虎は躊躇なく襲い掛かった。
押し倒された僕に、その巨体を活かし、爪で身体を拘束し牙を剥き仕留めんばかりの勢いだ。しかし先手を取られたと言っても、レベルが11まで上がった僕の敵ではなかった。組み敷かれた体勢から迫りくる牙を躱し、頭突きを放った。
虎がのけ反り、拘束が緩まった。体を跳ね上げ、自由となった拳と脚のコンボで畳み掛け倒した。
そして幾度かの戦闘を繰り返し、夜明けより少し前に街へ戻った。
◇◇◇◆◆◆◇◇◇
街に戻って宿屋で一泊し、ギルドにクエスト完了の旨を伝えて工房に行った。
「すいません~アスラさんいますか?」
「おういるぜ。何かようか?」
「意志ある剣を入手したんですけど…STRが足りないためにペナルティが発生して、装備とかでどうにかなりません?」
「おっ!!スゲェレアな品手に入れたじゃねぇか!不足値次第だが…外してレベル上げてポイント振ってからじゃダメなのか?」
「それが強制装備で外せないんですよね。ちなみにSTRは25不足しています」
苦笑しながら現状を伝えた。
「無理だな、自分でどうにかしろ!2レベル分のポイントを装備で補おうなんて、甘えてんじゃねぇよ」
「えぇー僕STRの成長補正が1ですから、ポイント全振りしなきゃいけないんですよ!どうにかして装備解除できません?」
「意志ある剣ってのは、大概手に入れた者の意志を考慮してくれねぇって様式美だからな。諦めて何かの縁だと思って、使いこなせる様にまぁ頑張れ」
そう言って、注文していた装備一式を投げて寄越し、工房から追い出した。
「(縁か~)」
オブシィとの出会いは合縁奇縁と言えばいいだろう。
この世界にきてもう少しで一か月が経つ。
色んな出会いがあった。もし今までの出会いのどれかが違っていたら、この縁は無かったのかも知れない。そう思うと不思議なことで、ペナルティや剣を使ったことのない事はとても些細に思えた。
そんな事を胸に思い、スキルタブを開いた。
≪所持スキル≫
弓/238
索敵/167
体術/118
木工/37
〈弓スキル〉と〈木工〉を選択した。
そして≪所持スキル≫一覧から削除する。
〈スキルを削除すると熟練度で得たオプションも消えますが宜しいですか?〉
システムが確認のメッセージを流す。躊躇いはあった。それでも削除した。
そして新たに〈両手剣スキル〉を一覧に加えた。
何かが抜け、新しい何かが入るのを感じた。
≪所持スキル≫
両手剣/0
索敵/167
体術/118
無事にスキルの習得が終わり。
スキル補正で少しだけ軽くなった身体を引きずりながら、腹を満たすためベテルギウスに向かった。
ベテルギウスで食事を取る。
最近のノワールのお気に入りは〈蜥蜴・尾肉のブルーレア〉がお気に入りの様子だ。ブルーレアとは10段階ある焼き加減の一つだ。
しかしこの料理は高い。3000Gもするのだ。それを一日一回は食べる。
詰まる所、何が言いたいというと食費が嵩むのだ。以外にもノワールは美食家だ。
ここでいきなりだが、このゲーム内の説明をしよう。
まずゲーム内の時間は現実世界の約2倍で流れるため、1日のログイン時間は12時間だ。そしてログアウトできるのは基本的に宿屋などの宿泊施設でのみで、宿代は相場500G~1000Gの費用が一回のログインでGが飛ぶ。
そして食費だが、こちらはピンキリだ。ノワールの様に高い食事を好むペットもいれば安い食事で済むものいる。もしくは量を沢山必要とするかだ。
つまりだ!僕とノワールは1日当たりの御飯と宿などの生活費を6000Gほど稼げばよかったものの、オブシィの加入でそれは変化した。
オブシィは食事などを必要とはしなかったが代わりに、魔物から偶に取れる魔石を欲した。この魔石だが結構レアで〈ゴブリン〉などから取れるものでも、一つで500G~買い取って貰っていた。このゲームを開始した直後はフィールドにプレイヤーは余り出ていなかったが、最近はコツを掴んだ様でちらほらと目撃する。
そしてある程度慣れて来たプレイヤーの中では、不慣れなプレイヤーのため草原での戦闘をあまりしない様にしようという雰囲気が流れ始めた。草原のリポップは遅いせいだ。
日銭を稼ぐためには、森林、湖畔、峡谷のクエストを熟すようになっていた。けど結構な距離があるため、行って帰ってくるだけで半日を費やしてしまう。
TLが3になった事で、2つのクエストを同時に受けられる様になったと言っても日銭の収入のボーナスが減ったようなものだ。
これからの1日の稼ぎを増やす為に頑張らなければと思い、ノワールと同じく〈蜥蜴・尾肉ミディアム〉を口にしながら思った。
関係ない後日談
なぜユニコーンが僕を襲ってきたのかを調べるため保護区の傍にある図書館にやって来た。そこで一冊の本を読んでいた。
〈フィシオロゴスの書〉の一説にはこうあった。
『ユニコーンは清らかな姫にだけ背を許し、地を疾走し一時の景色を遊覧させる。もし借りに手違いで雄を乗せた場合は、狂ったかの様に狂乱する』だそうです。
「ねぇオブシィってあの〈ユニコーン〉の意志と記憶を宿しているの?」
「応よ。馬のときから残っているぜ…けど素晴らし姫の記憶を乗せ終わった後から最後にお前さんに止めを刺されるまでの間の記憶がないな…なんか知っているか?」
「うーん特に知らないかな~」
なるほど……事前酌量の余地があるということね……
草原にいい感じの岩があった。
その岩にオブシィを叩きつけ始めた。
「!?……痛ってなぁ‼いきなりどうした?」
急な出来事に騒ぎ始めたオブシィを他所に無言で叩き続ける僕。
「おい!止めろ!刃こぼれする~」
その狂乱は、喧々《けんけん》と騒ぐオブシィが静かになるまで続いた…




