14.フィシオロゴス
川を渡った先、浅い林を少し進むと深い森に変わった。
森は木々が茂っていて、徐々に闇に染まっていく反面。
木々に不思議な光が纏って明りを灯していった。
ここは静謐という言葉がぴったりと当て嵌まる場所だった。
馬の後ろを付いて行って、次第に少し開けた場所に出た。
開けた場所は、もうすでに木々が天井を覆い隠す様に伸びていて、すでに陽の光が入らない。しかしそこはとても明るかった。
馬は広場の中心で歩みを止め…佇み始めた。
木々から光が離れて、徐々に馬に纏わり出した。
光がやがて馬の全身を包み込んだ、その時…変化が訪れる。
まるで皮膚の全てが瘡蓋だったかの様に剥がれ落ちた。
皮膚の全てが剥がれ落ちた後、現れたのは雄雄しい一本の角と純白の毛並だった。
そう伝説の生き物、ユニコーンへと相貌を変えた。
<ユニコーン>
空想上の生き物であったが、現代に復元された幻獣の一種。
システムが<ユニコーン>の情報を表示した。
この美しく雄雄しい生き物を人は汚してしまったのか…悲しみが生まれる。
そんな意志を他所に、<ユニコーン>へと変貌した馬がこちらに歩んできた。
蹄を鳴らし、首を振る。まるで乗れと言わんばかりの仕草だ。
壮大さを感じさせるそんな生き物だ。そんな感想を抱き僕は<ユニコーン>の背に乗った。
この時はノワールも小型化していて、一緒に乗った。
僕らを背に乗せた<ユニコーン>は、木々が生い茂った森を縦横無尽に駆けた。
森を駆ける<ユニコーン>の背から見える景色は、不思議と綺麗に映った。
相当な速さで駆けているのに、景色はスローモーションで再生されるビデオの様な鮮明さを持っていた。
やがて風光明媚の景色を<ユニコーン>の背からしばらく眺めた後、段々とスピードを落とし広場に戻った。
背から降り立った僕に顔を撫でつけてくる。僕は可愛いなと思って首の辺りを撫でた。サラサラとした肌触りが気持ちいい。
<クエストが完了しました>
楽しいひと時は、終わりの時間を迎えるようだった。
<ユニコーン>との距離が徐々に離れていき、2mほど離れた時…純白の幻獣は鳴いた。
「~~♪」
言い表せない美しい音色だった。
「ガゥ…?」
ノワールが力なく鳴き返す。
そんなやり取りが数度繰り返された時、幻獣の纏う雰囲気が少し変わった様に見えた。
幻獣はゆっくり、それでいて、しっかりとした足運びでこちらに来た。
再度、顔を近づけてくる。けれど先ほどの様な友好さは感じさせない。
全身の匂いを嗅ぐように、ゆっくり鼻先を上下させ…やがて下半身に至る所で…
「&#♐;$※♂?」
先ほどの綺麗な鳴き声とは、打って変わった声質をあげ、棹立ちをした。
次に目があったとき、白き幻獣は、憤怒の表情を浮かべ襲い掛かってきた。
雄雄しい角の一撃を貰った僕は、衝撃が身体に走り後退った。
いきなりの出来事に驚きを隠せなった。同時に敵になったと認識した。
冷静になった僕はHPを確認した。HPは4割削れた。
流石、幻獣と言った所か。<ユニコーン>は怒り狂ったかの様に、何度も突進を繰り返す。
ノワールが小型化を解除してこっちに来た。
倒れた僕の前に伏せ、乗れと言わんばかりの仕草を取った。すかさず乗った。
乗ってすぐに走り出した。何度触っても気持ちいい触り心地をゆっくり味わっていられない状況に内心舌打ちした。
次に景色を見た。揺れる背では焦点を定めることさえも難しい。
けどさっき<ユニコーン>の背で走っていた時よりもずっと楽しい。躍動感があった。
さてどうしよう?このまま逃げて事なきを得るか、それとも戦うかだ。
もしくは説得するかだが…そう思って後ろを見た。
「&#♐;$※♂?」
変わらず良く分からない雄叫びあげながら、狂ったかのように僕らを追撃してくる姿だった。
「(まったく僕の感慨を返して欲しいなぁ~)」
この様に豹変してしまった<ユニコーン>に最初に壮大だと思ったことは無かった事にしたい。そう思った。
「ノワールどうする?」
相棒に問いかけた。答えはわかっていた。このプライド高き存在が引くことなどありえない。そんな確信を持った問いに、彼は行動で示した。
「ガォーーー―」
身を大きく翻し、突進を避け、相対した時に雄叫びあげた。
普段より、ずっと力強い雄叫びがこの戦いの音頭だった。
少し短いです。
ノワールとユニコーンの鳴き声の略です。
ユニ「ライガー…主が羨ましいこの様な美しき姫と共にいれることが」
ノワ「姫とは誰だ…?」
ユニ「照れる出ない、横にいる美しき者のことよ」
ノワ「ユウヤのことか?こいつは雄だ」
ユニ「嘘をつくでない!それほどの美を雄が持つものか!」
ノワ「水掛け論だな。自分で確認してみろ」
ユニ「ふっ嘘を暴いて貴様に吠え面描かしてやろう」
ノワ「(あぁ~面倒なことになるな、小型化解除しとくか…)」
ユニ「&#♐;$※♂?」
ノワ「狂ったか…」
以上です。
追記:棹立ちというのは、馬が前足を上げて大きく見せている姿のことを言うみたいです。




