6.結末
少年たちはもう出かける準備を終えていた。
あとはもう帰る時を待つだけだった。
「嫌だな」
「仕方がないことです」
「最後に会いたい、くらい言ったっていいだろう」
チャイムが鳴る。少年がドアを開けるとその先には少女がいた。
「バカバカバカ、どうして何も言わないの!」
必死に泣くまいとこらえて少年へと言葉を向ける。言葉がなくなったら、彼女は泣くことしかできないから。
「ごめんね、大好きだよ」
少年が言ったのはそれだけだった。いつもと変わらなかった。
少女の言葉も段々と少なくなり最後に彼女は「絶対見つけ出すから!」と言って、走り去った。
「感動のお別れはおわったかい、王子様?」
ゆるい口調で入ってくるのは、少女の幼馴染で少年の先生だった。
「さて、帰ろうか」
その言葉を最後に、少年たちはいなくなった。
少女はどうして泣いているのだろう。と思った。せっかくの秋休みなのに。
「何か買って帰ろうかな」
パン屋に入り、いくつかのパンを選ぶ。メロンパンは彼女のお気に入りだ。
「ただいまー」
今日も親は出かけているらしい。まったく、ラブラブでうらやましい。と彼女は少し羨ましがる。だが自分にそんな相手なんていないことを思い出し、少しさみしくなる。
「いただきます」
メロンパンを二つに割る。ここのお店は中にクリームを入れていない。空っぽのパンでそんな発見をする。
宿題、早く終わらせてしまおう。明日からいつもの学校だ。と残り少ない宿題に手を付ける。
次の日の学校。友達とあいさつを交わす。ぎりぎりで宿題を写しているのはいない。丸つけをやっている集団はいるけれど。
先生がやってくる。特に連絡もなし、そのまま授業へ入っていく。
「それじゃあ、次の問題を――」
先生はいつも私を当てたがる。答えはわかるけれど、答えるのが面倒なんて言ったら怒られるだろうか。と少女は思う。
これが”いつも”の授業風景。
ただただ退屈な日々。なにか忘れているような気がする、けどなんなのかは分からない。
学校が終わって家に帰る。お母さんが迎えてくれる。
今日のご飯は何だろう。食べ終わったら部屋で読書でもしよう。
お母さんの料理はいつもおいしい。
ごちそうさまでした、と声をかけて自分の部屋へ。
自分の部屋に入ると、見慣れないノートがある。
私の部屋にあるんだから、読んでも構わないよね。と少女はノートを開く。
その世界は、少女が忘れていた何かを思い出させた。
そこは魔法が科学の代わりに発展する世界。他国の戦争は当たり前の場所でその国だけは平和だった。死人は一つのものに代わり、その家族を永久に見守る。そんな国の王子様のお話。
彼は本を読むことも好きだったけど、それ以上に書くことが好きで。
「バカ……」
魔法がなければ、戦争は起こらないんじゃないか。と考えていて。
「バカ……」
物語の中にいる、ある少女に恋をしてしまって。
「アケチのバカ、バカバカバカ!」
涙があふれてきた。どうして何も言ってくれなかったの。と少女は思う。
「大好き」
そんな言葉さえかけられなかった。本当だったら会えなかったはずの二人。でも、会ってしまった。
「絶対見つけ出す。私が今度は君の所へ行く」
少女は決意した。私が君の世界を描く、君の世界にいる私が君に会いに行く、と。
「そのためには、これの作者を探さないと」
二つの世界をまたにかける、大冒険の始まり、かな。と少女は柄にもなく高揚感を感じた。
「人公、入っていい?」
そう言っていきなり少女の前に現れたのは、少女の担任の先生であり幼馴染の青年。小さい頃名前が難しくって読めなかった少女はあだ名でずっと呼び続けていた。今はもう名前は読めるようになっているが。
「ひーくんどうしたの、私の部屋に何か用だった?」
そういうと、青年は不敵な笑みを浮かべる。
「いやー、ここに忘れ物しちゃったみたいでさ」
「忘れ物、いったいいつ私の部屋に勝手にはいったわけ?」
少女は青年をにらみつける。青年はへらへらとかわすように笑いながら、種明かしをする。
「ここ元は自分の部屋だったんだって。だからこんなに本があるの」
そして思い出したように、そういえばここに変なノートなかった、と悪戯っぽく聞く。
少女は少し考えるとはっとして青年へと尋ねる。
「もしかして、このノート?」
青年はただ頷くだけ。少女はそれを見ると、青年へと問いただし始めた。
「ちょっと待ってって、そんな一気に言われても答えられないからね?」
少しだけ困った風に見える青年。でもやはり楽しそうに少女の質問に答えていく。
少女の目は今までよりもずっとキラキラと輝いている。
これから少女は青年からあの世界の話を聞いて自らもあの世界に入ることとなる。しかしこれから彼女が起こしていく出来事はこの物語では語りきることはできないので、このあたりでおしまいとしようか。




