揺れる方舟
「はぁ………」
ぐらぐらと揺れる飛行船の中で、翡翠色のショートツインテールの少女――――ナナ・エルツフォンはうつむきながらため息を吐いた。オープンフィンガーのグローブに包まれた小さな手に震えが走っているのに、うつむいた事で初めて気付く。
薄暗い機内の中、腰のホルスターに収まっている自らのハンドガンを見ると、余計にため息が出た。
それを抜き取り、膝の上に乗せてメンテナンスをする。
残弾は勿論、セーフティが外れるか、サイトを覗いた時に狙いが定まるかどうかすら確認をした。
ホルスターに再び納める。
背中に背負うアサルトライフルががちゃりと重々しい音をたてた。
――――再び、腕が震え始めた。
それと同時にナナの背後から、ごつ―――――と重たい足音が響く。
「…………どうした?不安か?」
ナナが声のする方を向くと、巨大な大剣を肩に担いだ長身の青年が心配そうな目で立っていた。
背中には紐でくくりつけた巨大な斧が背負われており、歩く度に少年の長い銀色のごわごわした髪が揺れる。
少年はナナの隣まで来ると、担いでいた大剣を床に寝かせ隣に座った。
ガチャガチャと鉄と鉄がこすれあう音が、静かな飛行船の中に響く。
褐色の肌に優しい赤い瞳の少年は、心配そうにナナの顔を覗き込んだ。
「ダルガ……、やっぱり……怖いよ……」
「…………まぁな。俺だって流石に怖い」
そういいながら青年――――ダルガ=マ=アルナはナナの小さな頭にその大きな手を乗せ、わしわしと撫でた。
少し乱暴に動く彼の手は、なんだか震えていた。
ナナはゆっくりと立ち上がると、最後の準備運動を始める。
腕を伸ばすストレッチから深呼吸、軽い屈伸運動等、体を動かす為のアップを終える。
ダルガも大剣を拾い上げると、ゆっくりと近くの壁にかかっていたベストを身につける。勿論、防弾ベストだ。
ナナは腰に引っ掻けていた黒いサンバイザーを身に付けた。その後、二人は小さなヘッドマイクも身に付ける。
そして二人は手すりの付いている壁へと手をついて、ゆっくりと目を閉じた。
しばらくすると、ヘッドマイクのイヤホンから、ポーン―――と機械音が響き、ナレーターの静かな声が聞こえ始めた。
『ポイントに到達しました。出撃準備をお願いいたします』
「こちらナナ。出撃準備をダルガと共に完了しました」
『了解しました。それでは任務を開始します。御武運を』
ナレーターの声が聞こえなくなった。しばらくな静寂が二人を包む。
ナナは再び、腕の震えを確認した。怖いのだ。戦場に立つのが、銃を握るのが。
とゴツゴツした手がナナの震える手を優しく包んだ。勿論ダルガだ。
ナナがびっくりしてダルガの方を見ると、先程の優しい目をしていた。
「ダルガ……、頑張ろうね」
「当たり前だ。俺とお前なら切り抜けられるさ」
「うん………うんっ」
ナナが声を弾ませたと同時に、ガコン、と音がした。
そのまま二人は重力に逆らえず手を繋いだまま落下する。
『降下開始。このまま目的地へ着地し、任務を開始してください』
ぶわっ、と当たる空気の壁を感じながら二人はナレーターの声を聞くと、空中でお互いに向き合った。
そして、繋いだ手を離す。
「「任務、開始しますッ!!」」
二人は宙を舞う。
お互いを信じて。