第5話 しっかり優菜
こんにちは。優菜です。あ、杉沢です。えっと、杉沢優菜です。……うにゃです。現在昼休みで、休憩室でさつきと2人で座ってます。
私は数学教師してて、さつきとは中学の時の同級生。年齢はなんと18歳! 実は中学卒業後、海外留学して飛び急、早くも教員免許を取れちゃったわけなんです。
ところで。
「ずっと思ってたんだけどね、さつき。なんであんたがここで働いてんのよ?」
「はぁ?」
そう、さっきも言ったとおりさつきは同級生。つまり18歳のはずなんです。なのに教員やってる意味がわかんないんです。
「そんなんうにゃも一緒じゃん。どーせ年齢ごまかしてんでしょ?」
「んな訳ないでしょ? ちゃんと教員免許とったわよ」
「うっそぉ!? どうやって?」
「あんたねぇ……あたし海外留学したでしょ? 飛び急してとったのよ。ってかあんたまさか、教員免許なしでやってるわけ?」
「もちろん」
はぁ……あきれた。どんな方法かと思えばまさか無免許とは……
「それ、犯罪よ? わかってんの?」
「後悔はしている。反省はしていない」
「怒るわよ?」
「女の又の心る?」
「意味わかんないわよ」
まったく……中学の時から変わってないじゃない。ってかむしろ悪化してる気がする。あ、そういえば。
「どうやってここで働けるようになったのよ?」
「いや、だってここの中学の校長……」
「あ、そっか……そりゃいけるわ」
「でしょ?」
あんまりこの話には触れたくない。昔を思い出すのは、特に中学時代を思い出すのは絶対に避けたいからね……。
「ま、そんなことどーでもいいじゃん。それよりさ、うにゃ。今晩空いてる?」
「今晩? 空いてるけど……」
「ホント? じゃ、うち来なよ!」
「さつきんち? どうしよ……あんた1人暮らしだっけ?」
「んにゃ。妹と2人」
「妹? あ、きぃちゃんか。久々にきぃちゃんにも会いたいし、行こっかなー」
「やった! じゃ、仕事終わったら職員室残っててね」
「わかったわかった」
きーんこーんかーんこーん。
「あ、チャイム鳴った。さてと、テキトーに終わらしてきますか」
「ちゃんとやんなさいよ! まったく……」
さてと、私は5時間目は……
「げ、E組じゃない」
「げって言うなよ。あたしのクラスだぞ?」
「だってさ、あんたのクラス変わり者多いよ。あの、日下部とか」
「あいつは別格だ。他はまともだろ?」
「いや、そうでもない気がするんだけど……」
ちょっと憂鬱ぎみになりながらも、諦めて授業に向かうことに。はぁ……数学って寝る子多いんだよなぁ。
――午後5時。
「それじゃ、そろそろ上がらせてもらいます」
帰る先生がちらほら出てきたところで、私とさつきも帰ることに。
「ちょっとコンビニ寄って帰ろ」
「うん、構わないけど」
さつきのそんな要望もあってコンビニに寄って帰ったため、さつきの家に着いたのはもう6時を回ってました。
「ただいまー」
「おかえりー。あれ? またお客さん?」
「久しぶり、きぃちゃん」
「あっ! あのー……そう、うにゃさん!」
「うにゃさんって……」
そう呼ばれるのはちょっと複雑な気分ね。
「まぁまぁうにゃ。どーでもいいから早く上がってよ」
「はいはい」
「どうぞどうぞ。あ、今日の夕飯、おでんなんですけどいいですか?」
「全然いいわよ……って、きぃちゃんが作ってるの!?」
「はい、お母さんいないし、お姉ちゃんはアレなんで」
「アレってなんだよ」
「あー、アレね。っていうかきぃちゃん、私の妹にならない?」
「えー? どうしようかなぁ」
「オイ、きぃはやらんぞ。きぃがいなければ誰が飯を作るんだ」
「自分で作りなさいよ」
「いや、あの料理は我ながらまずい。絶対に無理だ」
力強いな。
「2人とも立ってないで座って座って。おでん温めるよー?」
「おう」
「ありがとう、きぃちゃん」
きぃちゃんはコンロのスイッチを入れ、コップやお箸、お皿を配ってくれる。なんて出来た妹なのかしら。
「それに比べてこの姉は……」
「なんだようにゃ」
「あんた、ちょっとはきぃちゃんを見習いなさい!」
「えぇ……やだよ」
「オイ」
そんなやりとりをしているとキッチンからきぃちゃんの声が。
「お姉ちゃんたち、ご飯食べる?」
「あー、いらんいらん。これがあるからな」
そう言ってさつきがコンビニの袋から出したのは缶の飲み物。
「なにそれ?」
「何ってあんた、ビールに決まってんじゃんよ」
「あんたねぇ……仮にも未成年なんだし、未成年らしくしなさいよ」
「仮にもってなんだよ。別にいーじゃん、細かいこと言うなっての」
「まったくあんたはホントに変わんないわねー」
「はい、お待ちどうさまー」
そう言ってちょっと小さめの鍋を持ってきぃちゃんがやってきた。
「ありがとう、きぃちゃん。わ、おいしそー!」
「よし、食うか」
「いただきまーす」
とりあえずちくわを一口ぱくり。
「おいしい! 味がよく染みこんでるよ」
「ホント? 良かったー」
「そういえばさ」
「ん?」
「ちくわって英語でなんて言うか知ってる?」
「ちくわ? なんだっけな……ってか何でいきなりそんな話になんのよ」
「いや、わかんないなら別にいいよ。それよかビール飲まないの?」
「え、どうしよっかな」
「え!? うにゃさんビール飲むんですか!?」
「へ? きぃちゃんいきなりどうしたの? 私、前は結構飲んでたんだけど、忘れちゃった?」
「いや、覚えてるから怖いんです……」
「?」
なんかよくわかんないけど、きぃちゃんの顔はちょっと青ざめている。
「ま、一杯だけいただこうかな」
「ん、そう? ま、グイッといっちゃって」
「いただきまーす。あー、おいしい! おいしい……ふぇ」
――季実です。私の横ではビール一杯で出来上がってしまったうにゃさんが何か言ってます。
「お前らよぉ、数学ってアレ、なんで意味ねぇのに勉強すっかわかるか? 知らねぇだろ? んなことあたしも知らんわ!」
なんでキレてるんだろう。
「てか2って可愛いよねー。まぁ5も捨てがたいけど。3と8はアレ卑猥だからダメね」
何言ってるのか全くわからない。ホントに意味不明だ。
「もー、お姉ちゃん。こうなるってわかってて何で飲ますのよー」
「いいじゃん面白いし」
「面白くないわよー!」
「だからさぁ、方程式って何っていってんのよ! 方と程と式が合体する意味がわかんないものの」
「もののって何!?」
「うっせぇよおめぇ……きぃ……じゃなくて妹」
「バカかお前。妹のことを妹って呼んでるやつなんざいねぇよ」
「うりゅせぇポップコーンが!」
「ポップコーン!?」
「なんだとごまだれ!」
「ごまだれ!? ポップコーンにごまだれ!?」
「あ、無理。負けだわ。ごまだれ出たら負けだわ」
「じゃあうにゃさんがごまだれ言えば良かったんじゃ!?」
「ダメだよおめー、最初はごまだれ言えねーんだよ」
「じゃあ先に言ったら絶対負けじゃん! 何この勝負!? 不毛すぎるでしょ!」
「もうお前アレだよ……あの……ごまだれ」
「え!? 私の負け!?」
「ぐぅ」
「すぴー」
寝たーーーーー!?
もういいや……私も寝よう。
おやすみなさい。