第4話 ある日の日和
「おっはよーうございます!」
ドアをガラッと開け全力で叫ぶあたしは超プリティー女子中学生、日下部日和! たしか13歳……いや12? いや13……じゃなくてまだピチピチの12歳! そして男どもが一瞬で釘付けになる予定の長めに伸ばしかけの髪を振り回しながら激しく時計を見る!
只今午前9時!
「はよ席つけや」
「……はぁい」
この人は年齢詐称教師のさつきちゃん。22歳のくせに18歳のふりをしてるのだ。……あ、違った逆だったのだ。
「お前なぁ、遅刻したのにどんだけ元気よく入って来てんだよ。もうちょい申し訳なさそうに入ってこいや」
「いや、申し訳なく思ってないんで無理なのだ」
「しばくぞお前」
「英語で言うと?」
「ファックユー」
なんかすごい雑な英訳な気がするのはあたしだけだろうか。
「まぁめんどくせーし説教もどーでもいいや。じゃ、次10ページ開いてー」
「さつきちゃん!」
「お前なぁ、その呼び方……もういいかめんどくせー。で、なんだ?」
「教科書忘れたら」
あ、さつきちゃんの教科書が丸まって――
「いたっ! 暴力反対!」
「遅刻した上に教科書忘れたんだ。当たり前だろ」
「教科書忘れてないよ! 忘れたら、って言ったの!」
「なんでそんなことわざわざ言うんだよ! あー、もう疲れた。こんなやつ相手にしてられん。もうみんな10ページ開いてー」
「さつきちゃん」
「知らん」
ホントに相手にされなくなっちゃったよ。
「仕方ない。いっちゃんの相手でもしてやるか」
「うるせーよ」
このツンデレ少女は桜馬乙香ちゃん。ホントはあたしのこと大好きなんだよ? 小学校1年の時からの付き合いで、なかなか可愛い。けど、あたしには劣るかな。
「まぁまぁそう言わずに」
「ってかあんたねぇ、今授業中だよ? 後ろ向いて話しかけてこないでよ」
「大丈夫だって。さつきちゃんだし」
「そんなこと言ってたらまたしばかれるよ?」
「そうなったら例のことを言えばいいんだよ」
「えー、日下部日和、態度点マイナス100点」
「ちょっと待ったぁぁぁ!」
「なんだよ」
「いやマイナス100点ってテストで何点とっても成績は0じゃん!」
「そーだよ。まぁ2、30点も0点も変わらねーからいいよ」
「あたしはよくないよ!」
「でも平均点の計算とかめんどくせーし、0でいいじゃん」
「そんなこと知らないよ!」
どんだけ自由奔放な教師なんだよ!
「じゃあこの問題に答えれたらチャラにしてやるよ」
「ん?」
そう言ってさつきちゃんが指差した先にはたしかに問題らしきものが書いてある。
えーと、なになに? 『Is this a pencil?』……『これは鉛筆ですか?』だっけな。その文章の下には鉛筆らしき絵が描いてある。ってことは……
「えーと、『Yes,it is』かな?」
「はい、ブー」
「ええ!? 何で?」
「何でもクソもねーよ。まるまる答えが違うじゃねーか」
「へ? いや、だってそれ鉛筆でしょ?」
「お前バカかよ。これのどこが鉛筆なんだよ。こりゃどう考えてもちくわだろうが」
「ち……ちくわ!? え、いやそんな細いのにちくわ!? 絵心なさすぎでしょ! ってかちくわを英語で何て言うかなんて知らないよ!」
「そんなんあたしも知らんわ」
「ええ!?」
めちゃくちゃ過ぎる! っていうかこの人ホントに教師か?
「さつきちゃん、もうちょい簡単な問題にしてよ」
「ったく、わがままだなー。じゃ、これを和訳してみ?」
そう言われてまた黒板を見ると、たしかに英文が書いてある。
「えーっと。ライクってなんだっけ?」
「好きだってことだよ」
「なるほど、わかった! 私は、私の英語の先生が好きです」
「あ、やっぱり?」
「今のは誘導尋問だ!」
「尋問してねぇよ。じゃ、次のを乙香」
「はい。えっと、私は日和のことが好きではありません」
「ええ!? 何の話!?」
「いや、だって前に書いてあるんだもん」
「へ? あ、ホントだ。ってオイ!」
「はい、それじゃみなさんリッスンアンドリピート! 『I don't like hiyori』!」
「『I don't like hiyori』!」
「ちょっとみんなまでひどっ!」
そんなわけで、今日も1―Eは元気です。