第3話 お料理さつき
「おねーちゃん、ホントにやるの?」
「おう。きぃは宿題でもしとけよ」
こんばんは。季実です。
時刻は午後6時、夕食を作る時間なんですが、なんとお姉ちゃんがキッチンに立っているんです。
なんでこんなことになったかというと――
「ただいまー」
午後5時半。そろそろ夕食の準備を始めようという時間に、お姉ちゃんが仕事から帰ってきました。
「あ、おかえり。お風呂沸いてるよ」
「ん、あんがと。晩飯なに?」
「それがまだ決めてないのよー。どうしよ……」
「……ふむ、なるほどね」
「へ?」
なんとなく、なんとなくだけど……お姉ちゃんが何か良からぬことを考えてる気がする。
「よし、決めた!」
「……決めたって何を?」
「今日はあたしが夕飯作る!」
「え、お姉ちゃんが?」
「おうよ!」
お姉ちゃんが料理か……してるとこほとんど見たことないなぁ。前はお母さんが作ってたし、お母さんがいなくなってからは私が作ってるし。大丈夫かなぁ……
「お姉ちゃん、料理できたっけ?」
「まぁ調理実習とかもやってきたし、大丈夫だって」
「ホントに大丈夫?」
「ホントホント。心配すんなって」
――こんな次第なわけです。
心配すぎて仕方ないのですが、もう言い出したら止まらないからなぁ。私はとりあえず火事にならないように見守っておこう。
「あ、そういえばお姉ちゃん、何作るの?」
「ふふふ……ないしょー」
「えー! 教えてよー」
すごい恐いのよ!
「まぁ食えるもんは作るからさ」
食えるもんは、って……台所で食べるもの以外に何を作るのよ。
「ふんふふーん」
鼻唄混じりに料理を始めるお姉ちゃん。お姉ちゃんが包丁を持つと悪寒が走るのはなんでだろう。
「あ、そうだ。砂糖と塩を間違えるなんてベタなことしないでよね」
「佐藤俊男?」
「誰だよそれ。違うよ! 塩と砂糖を間違えんなって言ってんの!」
「そんな言い方せんくても……ってかあたしを何だと思ってんの? 英語教師だよ?」
そう言いながら『SALT』『SUGAR』と書かれた半透明の箱を取り出すお姉ちゃん。
「もちろん、こっちが塩!」
「……え」
そう言いながら『SUGAR』の箱を指差すお姉ちゃん。
「……お姉ちゃんって、何教えてんだっけ?」
「ん? 英語」
お姉ちゃんに習ってる人、すごいかわいそうだなって切実に思っちゃったよ。
「違うよ! これは砂糖、こっちが塩でしょ」
「えっ!? あ、いやもちろんわかってたよ」
「さっきこっちが塩って言ったじゃん」
「いや……あっ、さっきのはボケ」
「うそつけ! まったく。とにかく、塩と砂糖は間違えないでよね」
「はいはい了解」
ホントに返事だけはいいんだから……って母親みたいになってんじゃん私。
返事はいいけどやっぱり心配なのでお姉ちゃんを監視しておくことに。何をしでかすかわかんないからね、この人は。
「えーっと、フライパンフライパン……あ、これこれ」
へぇ、フライパン使うってことは炒め物……ん!?
「ちょ、ちょっとお姉ちゃん、それ何?」
「ん? いやサラダ油」
「どこがだよ! それ灯油だろうが! どっからもってきたんだよその缶は!」
「え? いやサラダ油も灯油も変わらんだろ。油だし」
「変わるよ! バカか!」
「バカって……いやそうだけどさ」
素直だな。
でも今のは言い過ぎたかも。
「ごめん、ちょっと言い過ぎたよ」
「いやいやいいよ。いいツッコミが来ればボケがいがあるからね」
「そっか、良かった……ってわざとかよ! ちゃんとやれよ!」
「ナイスツッコミ!」
「お姉ちゃん!」
「はいはい。ごめんってばー。ちゃんとやるから」
そう言ってからはお姉ちゃんは危なげなく料理を進めました。ほどなくして料理は完成。二人とも席について食べることに。
「チャーハンかぁ。ま、見た目はいいね」
「見た目はって何だよ。まぁ食べてみ?」
「じゃ遠慮なく。いただきまーす」
まず一口ぱくり。
……ん?
「どう?」
「いや、これは普通に……」
「なんだよ普通かよー」
「いや、普通にまずい」
「なんでやねん」
「いやボケてないから」
「え、まじで?」
そう言ってからお姉ちゃんも一口ぱくり。
「舌が縮んだ」
「毒薬でも盛ったんじゃないの?」
「あたしの真心はつめたけど」
「あぁ、やっぱり」
「なんでやねん」
こんな感じで今日も1日が過ぎていきましたとさ。