第20話 教師と生徒-前編-
「はよざいまーっす」
「おはようございます!」
どーも、さつきです。
いつも通り8時半に教室に入ると、挨拶が帰ってきた。こいつらはどーゆー気持ちで挨拶してんのかねェ? 社交辞令か? と思って自分の中学生の頃を思いだそうとしたら思い出せなかったんですよ。いやいや年食ったとかそういうんじゃないよ? まだまだ18なんだし若い若い。うんうん。
「さつきちゃん、何で一人で頷いてんの?」
「え、いやいや何でもない何でもない。そんじゃま、今日も出席とんぞー」
そう言って窓際の席を見て少しブルーな気分になる。窓際の一番前の席は、空いていた。
「……愛葉、また休みか」
これで愛葉の欠席は3日連続になる。見た目は不良っぽい割に遅刻も欠席も一度もしなかったあいつが何で今更……とか考えてみたけど、日和が不思議そうな顔でこっちを見てるのに気づいて我に帰った。生徒は何十人もいるんだし、一人の生徒だけを特別扱いするわけにはいかんよな。
「こほん。そんじゃ次――」
いまいちスッキリしない気分のまま出席をとりおえる。
朝礼はそれからまもなく終わり、あたしはE組から出た。廊下を歩いている間も上の空だったらしく、後ろから声をかけられてるのに全く気づかなかったほどだ。
「ちょっとさつき、聞いてんの?」
「え、ああゴメン」
「あんたがぼーっとしてるなんて、珍し……くはないけど」
「オイ待て」
「冗談冗談。で、また愛葉さんのこと考えてたわけ?」
う。うにゃはこういうときはホントに察しがいい。もう心読んでんじゃないかってくらいに。
「心は読んでないわよ?」
「いや読んでるだろ今のは確実に」
「何で倒置法でしゃべんのよ。大体そんなこと考えてるだろうと思ってね。あんた単純だし」
「最後のは余計だけど、当たってるよ」
それから少し間が空く。廊下を歩く足音がやたらと大きく聞こえてきた気がした。
「それにしても、あんたが人のことそんなに気にかけるなんて、珍しいわねー」
「……そうか?」
「そうよ。中学ん時なんて唯我独尊って言葉がピッタリだったもん」
「ひどい言われようだなオイ」
「ま、何か理由あってのことでしょうけど」
そう言ってうにゃはこっちを見る。何故かわからないけど、あたしは自然と視線を外していた。
「……なんかさ、似てんのよね」
「何が?」
「いや、あたしと愛葉がさ。不器用ってかなんて言うかそういうとこが」
「不器用ねぇ……あんたはどっちかって言うと不器用というより雑って感じだけど」
「オイ」
言ってから、うにゃは笑った。あたしもそれを見て笑う。中学の時から全く変わってない……気がする。中学のことなんて覚えてないんだけど。
「たしかにあんたと愛葉さんは似てるかもしんないけど、決定的に違うとこがあんのよ」
「へぇ、それあたしも思ってた。で、どこ?」
あたしのその質問に、うにゃはニヤリと笑う。そして十分に溜めてから、ゆっくりはっきりこう言った。
「愛葉さんは、勉強が出来る」
「…………まじ?」
あたしのその時の顔は、鳩がライフル食らった顔だったと誰かが言ってたような気がしないでもない。
「ま、愛葉さんのことが気になるのは分かるけどね、授業はしっかりやんなさいよ? あんた、校長が『あの人』だから大丈夫だけど、教頭とかに歳のことバレたらヤバいわよ?」
「……わーかってるよ」
どうもやりづらいなぁ。そりゃ社会人になるってのはそういうことなんだろうけどさ、ちょっと殴ったらやれ体罰だやれぴーちーえーだうるさいんだよね。まぁそれと年齢の話とは全くもって関係は無いんだけどね。
……何はともあれ、今日も1日頑張りますかぁ。
「のびー!」
「…………」
暗い気分を吹き飛ばすために敢えて口に出してのびをしてみたら、すごい可哀想な人を見る目でうにゃに見られた。やめてください。
「まぁ、そろそろ夏だし、変になる人も増えてくるよきっと」
「その仲間が増える的な言い方はやめろ」