第2話 18歳さつき
「はぁ……」
どうも、さつきです。朝礼とHRは終わり、現在帰宅時間です。ぞろぞろと生徒達が帰っていく中、あたしは教壇に肘をついて頭を抱えています。
あー、頭痛がする。心配し過ぎで頭痛だなんて、あたしもやっぱりまともな人間なんだな。良かった良かった。
「良くねぇよ……」
「どしたの? さつき姉ちゃん」
「あ、いや……」
心配の種はこの生徒、桜馬乙香。昔からの知り合いってのは別に悪いことではないんだけど、あたしにもいろいろと知られたらまずいことが沢山あるわけで。かなりまずいことなわけで。
「さつき姉ちゃん、教師になったんだね。似合ってると思うよ」
「お、おお。ありがと」
「ってかさつき姉ちゃん、たしか私と6つ違いだから……」
「あー! いやいや乙香、ホント久しぶりだよな! 久々だしちょっとうちでも来るか? 季実もいるぞ?」
「ホント? やった! 行く行く!」
あーホント、ヒヤヒヤさせるな……。いや、乙香は何も知らないから悪気は無いんだろうけどさ。これからこんなこと続けていかなきゃならないって考えたらちょっと憂鬱だ……。
まぁ仕方ない。これはちょっとズルした罰ってことで甘んじて受けるか。それに考えたってどうしようもないしな。
「よし、んじゃ行くか」
「うん!」
「ちょーーーっと待ったァ!」
「あ?」
教室を出ようとした時、教室から呼び止める声が。ってかこの声は……
「げ、日和」
「ちょ、げって何よげって」
「日和おんなじクラスだったのか……」
「そだよ! 喜べ!」
「無茶言うなよ」
なんだこいつら知り合いか。あながちおんなじ小学校ってとこか?
「ってかいっちゃん、さつきちゃんとこ行くの?」
「オイ、誰がさつきちゃんだ」
「うん、そだよ」
……あたしのツッコミはスルーかよ。
「じゃ、あたしも!」
「何を!?」
「え、私はいいけど」
「いいでしょ? さつきちゃん! 一人の生徒だけ特別扱いしちゃダメなんだよー?」
「くっ……」
「まぁいいじゃん姉ちゃん」
「いいじゃんいいじゃん!」
「お前はうるせーよ」
でも仕方ないか……。たしかに一人の生徒だけ特別扱いってのはまずいしな。
「しゃーねーなー。特別だぞ?」
「特別扱いはダメなのにね」
「じゃあどうすりゃいいんだよ!」
「まぁまぁ、2人とも落ち着いて」
なんやかんやと言いながらも結局3人であたしんちに帰宅することに。
行きは上り坂ばっかりで苦しい学校への道のりだけど、帰りは下り坂なので自転車だとかなり楽。ゆっくりめに帰っても2、30分で家に着いた。
「ただいまー」
「おかえりーってあれ? 誰その2人?」
「あー、えっと生徒」
「え?」
「わー! 季実ちゃん久しぶりー!」
「え、あ、あの……誰?」
「ひどい……忘れちゃったの!? あたしのこと! あたしは遊びだったのね!」
「うるさいわよ日和。久しぶり、季実ちゃん」
「あ、乙香ちゃん! 久しぶりだねー!」
「覚えててくれたんだ! 良かったー」
きぃと乙香が会話を始めたため、取り残されたあたしは自分の部屋に戻ることに。部屋に入るととりあえず椅子に座ってタバコをくわえて火をつける。
「ふぅ……」
「さつきちゃん、タバコは体に悪いからダメなんだよ?」
「てめぇ日下部……勝手に入ってくんなよ」
「あ、日和でいいよ」
「今はその話じゃねーだろ」
言ってから煙を吐き出す。あぁ、落ち着く。もうほとんど中毒になっちゃってるからなぁ。約2年前から吸い始めて、今や1日1箱はほとんど当たり前になってる気がする。
そんな感じでタバコをふかしていると、ノックの音が。
「どーぞ!」
「なんでお前が答えてんだよ」
「入るよー……ってさつき姉ちゃん何でタバコ吸ってんの!? 未成年なのに!」
「ぎゃ」
「あーあ、ダメじゃんお姉ちゃん」
「へ? 未成年?」
上からあたし、きぃ、日和の反応。まぁ、なんというか……
普通、だな。
って落ち着いて言ってる場合じゃないだろ! まぁ多分もう皆さんお分かりでしょうがあたしのホントの年齢は18歳。言ってみれば年齢逆詐称ですね。そんなんするやつ普通はおらんわな。
「え、でもさつきちゃん、22歳っつってたじゃん」
「でも私が小学校に入るときにちょうどさつき姉ちゃんが中学生になったとこだったよね? だから多分、今18歳じゃない?」
「あー……えっとそれはだな……」
「……もう言っちゃえば? お姉ちゃん」
……はぁ。しゃーないか。最後まで隠し通せるとは思ってなかったけど、初日でバレるってのは想像してなかったなぁ。
「まぁ、その、なんつーか、実はあたしは普通の人間じゃないんだよ」
「オイ」
「えー!? まじかよさつきちゃん!」
「実は人より年をとるのが2倍速いのさ!」
「じゃあさつきちゃんは本当は18×2で……えっと……1くりあがって……36歳なのか!」
「計算遅いなお前」
「でもさつきちゃん、36歳にしては若く見えるよ!」
「『にしては』ってなんだオイ! 18歳には見えねぇってか!」
「お姉ちゃん、なんか話ずれてきてるよ」
おっと、なんだか熱くなってしまったみたいだ。落ち着こう。落ち着いてこの場を切り抜けよう。
「で、ホントの理由は何なの?」
「ぐっ……」
乙香のやつ、核心つきやがって。
「え!? 今の嘘!?」
「お姉ちゃん、早く言いなよ」
……仕方ないか。
「……はいはい。言うよ言うよ。まぁ言ってみりゃ働くため。教員になるにゃあ年齢ごまかさなきゃダメだったんだよ」
「なるほどね」
「それじゃ、教師になりたかったのは何で?」
「いや成りたかったっていうか成らざるを得なかったというか」
「じゃあタバコ吸ってんのは何で?」
「いやコレは……その……うまいし」
「じゃあ彼氏が出来ないのは何で?」
「そりゃやっぱりガサツだし男勝りで気ぃ強いし……」
「じゃあじゃあ……っていっちゃん止めてよね!」
「知らないわよ」
「きぃも止めろよ!」
「知らんわ」
「なんだよ……つっこめんじゃんかよ」
「いちいち反応してたらキリないわ!」
「なんで関西弁なんだよ……」
いや別にいいんだけどさ。
まぁとりあえず釘を指しとくか。
「この流れで行ったらもうわかると思うが、とりあえず日和。お前はどうしたらいいかわかるな?」
「もちろんだよさつきちゃん!」
「ほう。じゃ言ってみ?」
「まず放送室に行く」
「はい失格」
「ちょ! 待ってここからだから!」
「ここからって何なんだよ。マラソンの大会やってんじゃねーんたぞ?」
「いや今のツッコミはどうかなー」
「うっせぇ! ツッコミはきぃの仕事だっての」
「なんでやねん」
「またなんでやねんかよ。お前なぁ、もうちょっとレパートリー増やせよ」
「えー。めんどくさいよー」
えっ……
「……そんな冷たいこと言うなよ」
「もー! そんなことどうでもいーの! あたしの話を聞かんかい!」
「あぁ……はいはい」
こいつなんでこんなにうるさいんだよ。
「だからさ、放送室に行って言うわけ。さつきちゃんは18歳じゃないぞー! って!」
「いや……それは逆に怪しすぎるだろ」
「いやその逆に怪しくないかも!」
「その逆って何だよ」
「えー。ダメ?」
「ダメに決まってんだろ。ま、とりあえずお前ら二人とも、誰にも言うなよ?」
「はいはい」
「よし。乙香はいい子だ」
「だが断る」
「よし。日和はくたばれ」
「あー、そんなこと言っていいのかなー?」
コイツは……。あ、そうだ。
「オイ、日和。あたしの担当教科知ってるか?」
「何? 急に……。英語でしょ?」
「そ、英語。もしも誰かに言ったら、英語の単位は無いと思え」
「え!? ちょっとさつきちゃん! それは卑怯だよ!」
「言わなきゃいんだよ、言わなきゃ」
「えー……」
ふふふ……
職権濫用って最高!
「……なんでやねん」