第18話 良からぬ予感
ここから3話くらいは多少真面目な話が入ります。……多分真面目です。
まぁ基本コメディ調なんでたいして変わらない可能性は大きいですが←
それでは本編をどうぞ。
どーも、さつきです。
今日も今日とて教師やってます。まぁ給料もらってるんでね。それが無きゃやりませんよこんなことは。
とまぁ愚痴はこのぐらいにして、朝礼に行かないと。
「はい、おはよー」
「おはようございます!」
教室に入ると、元気な声が帰ってくる。毎日元気なこった。特にこのE組は。
「えーと、じゃあ出席とってくぞ。まず……愛葉」
……あら?
「愛葉ー、おい、いねぇか? 誰か休むとか連絡聞いてない?」
「…………」
聞いてみたけど返答はない。何? みんな照れてんの?
とか思ってたら乙香がおずおずと手を挙げた。
「さつき姉ちゃ……先生。あの子なんかちょっと怖いし、あんまり喋ってる子がいなかったよ。だからあんまりわかんないんじゃないかな」
「ふぅん……まぁフケてんのかね」
「え!? 老けてたら学校来ないの!? じゃあなんでさつきちゃんは来てんの?」
「違うわよ。フケてるってのはサボってるってこと。ってか聞こえたらしばかれるよ?」
日和はひそひそ話をしてるつもりだったのか知れないが、丸ぎこえだっての。
「……聞こえてるよ」
「え? うぎゃー!」
「……すいません遅れました」
「ん?」
あたしが日和を出席簿で叩こうとした瞬間、ドアが開いて目付きの悪い少女が肩で息をしながら入ってきた。
「あ、愛葉。やっと来たか。てっきりサボりかと……ってお前、その顔のケガどうした?」
「…………」
愛葉は何も答えずに俯く。
「おい」
「遅刻したことはすみません。顔のケガはちょっと道でコケただけです」
「……そうか」
それだけ言うと、愛葉ははや歩きで自分の席まで行ってすぐ座ってしまった。
「……そんじゃま、出席の続きいくぞー」
……愛葉、何か面倒に巻き込まれてなきゃいいけどな。
そんな心配しつつも出席をとり、いつもどおり授業へ。あたしは英語の時間しか見てないが、少なくとも英語の時間の愛葉は上の空といった感じだった。放課後にでも話、聞いてみるか。
そう考えながら全ての授業を終え、やっと終礼の時間に。今日は授業が余計に長く感じたよ。
「そんじゃ、今日はこれで終わり。さいならー」
「さよーなら!」
「あ、愛葉」
挨拶をするとすぐ、俯いたままそそくさと帰ろうとしていた愛葉に声をかけた。
すると愛葉はピタリと動きを止めて、顔は俯いたまま、体だけこちらを向けた。
「……何ですか」
「お前、何か面倒に巻き込まれてねぇか?」
「…………」
返事がない。ただのしかばねのようだ。いや違うけど。
「どうした?」
「……いえ、なんでもないです。別に面倒にも巻き込まれてません」
「じゃあこの顔の傷はなんだ?」
「だからそれは朝にコケて」
「お前な、お前の運動神経でコケて受け身取れねーわけないだろ。体育の先生のお墨付きだ」
「…………」
また愛葉は黙りこくる。……どうしたもんかねぇ。
「……まぁ、言いたくないってんなら別にいい。あたしもあんたらぐらいの頃は人に言えないようなこと散々やったよ。……いや散々はないな。ちょっとはやったよ」
「そう……ですか」
ちょっと声色が明るくなったような気がせんでもないかな。何にしろ今日は話してくれそうにはないな。
「うん。ま、話したくなったら言ってくれりゃいいよ」
「……はい」
俯いたままだが、愛葉の声からは、ちょっと安心したような気持ちが伝わってきたような気がした。
「そんじゃな」
「はい……さよなら」
そう言うと愛葉は逃げるように去っていき、帰っていく生徒たちの波に姿を消した。
「……はぁ」
ため息をついて、机に座り、膝に肘を立てて頬杖をつく。外を見ると、運動部の生徒がだんだんと暑くなってきた中で汗を流している。それに比べて木々は日射しを浴びて喜ぶかのように、風に吹かれて揺れ動いた。
「どうしたの? あんたがため息なんて、らしくないわねぇ」
「あ、うにゃか。あたしだって悩みぐらいあるよ」
本気で物珍しそうにするうにゃに、あたしは力無く答える。それを見てうにゃも表情が変わった。
「で、何なの悩みって」
「……なんかさ、愛葉のやつがちょっと面倒に巻き込まれてるみたいなんだよね」
「愛葉? あー、あの子か。そういや噂を小耳に挟んだよ」
「どんな?」
「なんかちょっとあっち系のグループと絡んでるとこを見たとか」
「あっち? そ、それは所謂……同性愛?」
「どっちだよ。じゃなくて、ヤンキーとかそっち系の」
「ああ、そういう。って、この辺のそういうグループって言ったらさ……」
「うん、もしかしたらもしかするかも……」
話をしてると、だんだんあたしもうにゃも顔色が悪くなっていく。多分うにゃもいろいろと思い出してるんだろうな。
「ま、まぁまだそうと決まったわけじゃないんだしさ」
「そ、そうよね! 希望は捨てちゃダメ」
『ピンポンパンポン』
そうやってあたしとうにゃが互いに頑張って励まし合っていると、校内放送が鳴り響いた。
「えー、オホン。篠塚さつき、杉沢優菜。校長命令だ。校長室まで至急こい」
『ピンポンパンポン』
「…………」
「…………」
あたしとうにゃは汗をだくだくとかいた顔を合わせ、諦めたようにうなずく。
「行く……か」
「……そうね」
重い足取りで歩き出した二人だったが、二度目の校内放送で全力で校長室まで走ったという。