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ゆとりろ!  作者: 雲丹
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第17話 ざ・授業参観

 お久しぶりです。優菜……いや、うにゃです。もういいです。

 只今、平日の午前10時。なのに私は学校にいません。あ、学校にはいるんですけど、中学ではないんです。なんと小学校にいるんです。その原因は、もちろんこいつ。


「なんだようにゃ。怖い顔して」


「なんだよじゃないわよ! なんであたしを連れ出すかなー」


「いいじゃん。きぃも来てほしがってたぞ?」


 そう、小学校で何してんのかっていうと、簡単に言うと参観です。きぃちゃんの、ですけど。親がどこにいるかわからない(さつき曰く旅に出てるらしい)この姉妹は、親のことはいつも代わりにさつきがやってるんです。あ、家事以外は。


「ていうかね、さつき。私は今日休みだからいいけど、あんた授業あったんじゃないの?」


「全部自習にしてきた!」


「ちょっと! ダメじゃないの!」


「でも……きぃが可哀想で」


「うそつけ」


「授業をサボりたかったとかめんどくさかったとかそういうのは全然ないよ?」


「うそつけ!」


「まったく……うにゃは疑り深いなぁ」


「あんただからよ!」


 まったくもう。こいつはホントにいつまで経ってもガキなんだから。


「あんたね、そんなんで教師やってけると」


「しっ! 授業始まるよ?」


「…………」


 そう言ってニヤリと笑うさつき。びっくりするぐらい腹立つ笑顔だな。

 でもさすがにそれは本当だったみたいで、すぐに先生が教室に入ってきた。あれ? なんかあの人見たことあるような……


「はい、生徒ども。その保護者ども。今日は生徒も保護者も一体となれるような授業を目指しまーす。よろしくー」


「よろしくお願いしまーす!」


「…………」


 いや、知らない。あんな人は知らん。絶対知らん。もう知らないことにした!

 型破りすぎる先生の発言に唖然とする保護者をよそに、生徒たちはごく普通に対応している。どうなってんだこれ。さすがのさつきも顔をひきつらせてる。


「ちょっとさつき、何なのあの人」


「いや……型破りだとは聞いてたんだけどさ。まさかここまでとは」


 さつきにこうまで言われる人も珍しいわね。ホントこの人……


「よく先生になれたな」


「あ、私もおんなじこと考えてた」


「そりゃそうなるよ」


 ……ん? よく考えたらさつきも……いや、今は何も言うまい。

 私とさつきがこそこそとしゃべっていたうちに授業は進んでいたらしく、生徒が文章の朗読を順番にやってるみたい。


「うんとこしょ、どっこいしょ。それでもかぶは抜けません」


「はぁい、ありがと。んじゃ次、成瀬さん」


「イェス、サー」


 ……あれがさつきの言ってた『問題児』か。真水ちゃん、だっけな。いきなりボケをかましてきたけど、全員スルー。それにも動じてない様子ね。


「えー、おじいさんはおばあさんを呼んできました。うんとこしょ、どっこいしょ。それでもかぶは抜けません。すると、おばあさんは気を溜め始めました。そして『私の戦闘力は53万です』といいながら、指先から光線を発射しました。それでもかぶは抜けません」


 ……なんの話!? 奇抜すぎるでしょ!


「へぇー。斬新なお話だなぁ」


「いやおかしいでしょ!?」


「おかしくはないだろ」


「逆におかしくないところがないわよ!」


「ちょ、うにゃうるさい」


「へ? あっ、すいません!」


 気がついたら大声で話してしまってたらしく、周りの視線を浴びていた。恥ずかしくなってつい下を向いてしまう。


「まったくー」


「……ごめん。でも外ではうにゃって呼ばないでって言ってんでしょ?」


「へ? あたしは言ってないけど」


「え? でもさっき……」


 言いかけたところで先生がものすごい笑顔でこっちを見ていることに気づいたのでやめた。口は笑顔だけど、目はまったく笑ってなかったから。

 なんかわかんないけど、あの人滅茶苦茶怖いんだけど。


「はい、じゃあ成瀬さんの意味不明の朗読が終わったので、続いて加古川さん」


「うむ」


 あ、あれはさつきが珍しく『可愛い』と言っていた卑弥呼ちゃんだっけか。すごい変わった名前よね。

 その卑弥呼ちゃんは立ち上がって教科書を持つと、力強く読み始めた。


「おばあさんは! 息子を! 呼んできました! うんと! こしょ! どっこ! いしょ! それでもかぶは抜けぬ」


「はい、若干意味不明のアレンジしてくれました。ありがとー」


 さっきから生徒をけなし過ぎのような気がするんだけど……あれはいいのか?


「あ、ちなみに意味不明ってのは良い意味なんで。教育委員会うんぬんには連絡しないで下さいね」


 あれ褒めてたの!? ってかそんな裏話を赤裸々に言っちゃダメでしょ!


「あー、その気持ちわかる」


「……あんたはそうだろうな」


 こいつらダメだ。これがゆとり教育の末路か。

 と、私がため息をついていると、どうやら授業もまとめに入ったみたいで、今日の授業の感想なんかを生徒に聞いていってるみたいだ。


「はい、じゃあ次、篠塚さん」


「はい」


 あ、季実ちゃんが当たった。季実ちゃんならまともに……あ、もしかして今までの流れで季実ちゃんもボケを!?


「今日の感想、よろしくー」


「……えー、もっとまともな生徒とともにまともな先生に習いたかったです」


「はぁい。ありがとー。あれ? みんなも保護者の方々もそんなに何度もうなずいてどうしたんですかー?」


 これが、生徒と保護者が最も一体となった瞬間でした。


「いや、あたしは面白いと思うけどなー」


「……あんただけだよ」





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