第16話 それぞれの戦い
どうも、日和です……すみません、ちょっと余裕ないです。
現在なんと中間テスト中。そのため他のことを考えてられないんです。
ちなみに今解いてるのは英語。さつきちゃん、見かけによらず問題は凝ってる……ん?
「あれ、この問題……見たことある」
あ、そうだ。この前授業でやったとこだ。ラッキー!
「そうそう、ここはちょうどいっちゃんが答えたとこ……だから」
答えはわかる。答えはわかるんだけど……!
書けないよ! ってか書きたくないよ!
「うがー!」
「日下部、うるさい!」
「……すみません」
はぁ……この調子じゃ英語は期待できそうにない。いや、英語『も』かな。……はぁ。
どうも、弥生です。あ、まーちです。
今中間テスト中です。教科は国語。1時間目の英語は完璧に寝てたから今度はがんばらなあかんのや!
「えー、なんやて?」
問題は四字熟語みたいやな。□に当てはまる漢字を答えなさい、か。
『第一問、□肉□食』
これはベタな問題やなー。焼肉定食、とか書いてほしいんやろうけど、そうはいかん。もちろん答えはアレや。
『第二問、天□地□』
ふふふ、これもわかるんや。ドラマも見たし完璧や。
『第三問、一刀□□』
なんや、どれもこれも簡単やなー。こりゃ悪いけど国語は高得点かもしれんわ!
どうも、乙香です。
現在テスト中、教科は数学です。
「あ、これわかる。これもこの前やったとこだ」
なんだ、結構簡単だなぁ。これなら高得点が狙えるかも……え? 面白くない? いや、そんなこと言われたって……
「はーい、質問ある人ー」
あ、杉沢先生が廻ってきた。と思ってたら即座に手が上がった。
「はい! はい!」
「……はい、日下部」
すごく嫌そうに日和を当てる杉沢。あんなに露骨なのに日和は気づいてないんだからすごいよね。
「うにゃちゃんって酒飲んだら人変わるって本当!?」
「はぁ!? そんなこと誰が言ってたの!?」
「さつきちゃん!」
「……まぁあいつしかいないか。あのね、テスト中にこんな話すんのも何だけど、私は別に酒飲んだって何も変わりません。そりゃ酒飲んだ時の記憶は全くないし、飲んだ次の日は家具が壊れてたりするけど、全然大丈夫です!」
「へぇー」
いや全然大丈夫じゃないだろ! それ確実に自分で暴れまわってんじゃん!
……やっぱりこの学校は変な人多すぎる。だからホラ、私ぐらい普通じゃないと……ね?
とか考えてたら解き方忘れた!
「あーもう!」
「うるさい桜馬!」
「…………すいません」
あー……最悪だよホント。
きーんこーんかーんこーん。
「はい、そんじゃ中間テストはこれで終わり。おつかれー。じゃ、さいなら」
「さようなら!」
どーも。さつきだよ。テストが終わって生徒は元気いっぱいみたいだけど、あたしら教師はこれからが地獄なんだよ。採点とかやってらんねぇ。でもやんなきゃダメだよなー。
「あーめんどくせぇ……お」
これ、日和の答案じゃねーか。ちょっと採点してみるか。
どれどれ……なんだこいつ、全然書けてねーな。問一、問二、問三……お、問四はちゃんとやってる。あ、これ授業中にやったやつそのまんまで出したからな。さすがにわかるか。どれどれ?
「『私は日和のことが好きではありません』お、ちゃんと出来て……あら?」
なんか括弧をつけてそのあとに何か書いてあるな。
「えー『私は日和のことが好きではありません(と言ってみたが心の中は彼女一色であった彼は、その愛情を余すことなく彼女に捧げることを誓った)』」
……なげぇよ! そこはかとなくなげぇよ! そしてうぜぇ! なんだこれ!? バツでいいかな? いいよな。ってかバツだよな!
おもいっきり解答にバツ印をつけてやった。こんなに気持ちよくバツをつけたのは初めてだよ。
とかちょっと憂さ晴らしをした感じで気分爽快だったあたしに、またしても魔の手(?)が……
「ちょっと、篠塚先生?」
「はい、なんでしょー」
上品そうな国語の……何て名前だっけな。たしか山田……山田だった気がする。山田先生に呼ばれて振り返ると、すごい微妙な顔をして答案を見せられた。
「どうしました? 山田先生」
「これ木更津さんの解答なんですけど……ってか私山田じゃないです。末廣です」
「はぁ。まぁそれは置いといてうちのまーち……いや木更津がどうかしました?」
「あ、そうなんですよ。ここの解答なんですけど」
そうやって見せられたのは四字熟語の問題。どうやら□に漢字を入れるらしいな。
「木更津さんの答えが……なんと言いますか……とりあえず見てください!」
「え、あぁ、はぁ」
なになに? 『第一問、□肉□食』か……これはさすがに……いや、こ、これは!
「『牛肉夜食』……だと!?」
「そうなんです。たしかに発想はすごいんですけど……」
「ですよね。牛肉を夜食に食ったら胃がもたれますよね」
「いや、そういう問題じゃないですけど」
「ですよねー。で、次は『天□地□』か。これも簡単なはずですよね」
「まぁ一般的には。でも木更津さんは……」
「なになに……て、『天地人』!? □に埋めてないし!」
「はい……で、最後が」
「まだあるのか……最後は『一刀□□』ねぇ。で、まーちの答えは……なんだこれ、消しゴムで消された跡がすごいな」
「すごい迷ったみたいなんです」
迷ったってことは答えにいくつか候補があったのか? あの問題で……
「で、結局答えは……『一刀百万』か。……どういう意味だ?」
「それは裏を見ればわかるかと……」
裏? 言われた通りに裏返してみると、沢山の文字が書かれていた。
一刀十円、一刀百円、一刀千円、一刀一万、一刀十万、一刀百万、一刀千万、一刀一億、と書かれていて、一刀百万だけが丸で囲ってある。
値段……値段で……決めたのか……。
「なんていうか……一刀百万って、その……だ、妥当ですね!」
「……そ、そうですね」
「あ、あは、あはははは」
「うふ、うふふふ」
なんていうか……
作り笑いしてるしかなかった。