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ゆとりろ!  作者: 雲丹
13/31

第13話 嵐の前の日和

「そんじゃま、今日はここまで」


「やったー!」


 どうも、こんにちは。乙香です。

 もう6月にさしかかった今日この頃、いつも通り日和はうるさいです。


「おっし! 帰ろー!」


「あ、そういや今日からちょうどテスト一週間前だな。まぁほどほどに頑張れよー。そんじゃ」


「……え?」


 が、先生のこの一言で日和は完璧に固まってしまいました。

 なんとか首を動かしてこっちを向く日和。……なんか顔が青ざめてるし。


「い、いっちゃん」


「何?」


「……テストって何?」


「テストはテストよ。中間テスト。もう中学なんだし、そんぐらいあるわよ」


「なんだそれは!」


 頭を抱えながら唸る日和。まったく何やってんだか。


「あんた全く勉強してなかったわけ?」


「当たり前じゃん」


「何でそんな偉そうなんだ」


「それはあたしがあたしだから」


「意味わからんわ」


 何故かちょっと照れてる日和。なんなんだこいつは。


「ま、幸いテストまではあと一週間あるんだし、今日から勉強すれば平均は取れるでしょ」


「平均なんざいらん! 目指すはトップ! それが無理ならドベでいい」


「極端すぎるだろ」


 こいつバカだとは思ってたがまさかここまでとは。ってか日和がトップを取ったらこの学校終わりでしょ。

 そんなことを考えてため息をつく私をよそに、何故か日和はやる気になってるみたいです。


「おー、俄然燃えてきた! 今日から勉強会開始だよ、いっちゃん!」


「あーそう。頑張ってねー」


「もちろんいっちゃんもだよ!」


「……またかよ。まぁいいや、付き合ってあげるよ」


「当然だ!」


「調子乗んな」


「あい」


 というわけで、日和と一緒にやることになってしまった勉強会。面子は私、日和、まーち、とまぁ予想通りなんだけど、問題はその場所。


「やっぱり、テスト一週間前だし」


「せやせや、勉強せなあかん」


「でも図書館とかは開いてないし」


「せやせや、開いてない」


「だから、ここしかないじゃん?」


「せやせや、ここしかない」


「やかましいわ」


 呆れた顔でそう言うのはさつき姉ちゃん。そりゃそうなるよね。


「お前らな、教師の家で勉強するって聞いたことあるか?」


「ない。だからあたしたちが世界で初めてだよ!」


「そういうことを言いたいんじゃないんだよあたしは。つーか世界で初めてではないだろ」


 そう言ってから深いため息をつくさつき姉ちゃん。苦労は察するよ。


「だからさ、教師ってのは」


「おじゃましまーす」


「ちょ、待てオイ!」


「あ、いらっしゃーい」


 勝手に入る日和を必死で止めるさつき姉ちゃんと、満面の笑顔で私たちを歓迎する季実ちゃん。なんかシュールだな。ま、どうでもいいから私も入っちゃおう。

 日和と格闘するさつき姉ちゃんを横目に、まーちと二人で季実ちゃんのもとへ。


「乙香ちゃん、久しぶり! えっと、こちらの方は?」


「あ、こいつは」


「うちは……えっとやな、あの……マーチ木更津です」


 どっかのマンションの名前みたいだな。


「え、えっと、まーちさんでいいんですか?」


「うん、いいよ」


「ちょ、ちょっと待ってぇな! ツッコミがツッコミ放棄したらあかんやろー」


 知らねーよ。


「ハイハイ。季実ちゃん、こいつの名前は木更津まち子。通称まーちだよ」


「まち子って誰!?」


「へぇ。まち子さんよろしくお願いしまーす」


「ちゃうちゃう! ちゃうねん!」


 と、珍しくまーちが全力で否定してたんですが、そんなことはお構いなしに玄関から一つの足音がやってきてまーちの話を遮りました。


「はぁ、疲れた……っておい、きぃ、なんでこいつら入れてんだよ!」


「へ? だってお客さんでしょー?」


「ちげーよ! こいつら勝手に来たんだって」


「いーじゃん。折角来たんだし、入れてあげなよー」


「そうそう! きぃちゃんは良いこと言うね!」


「うお、日和! てめえどっから入った!?」


「窓」


「空き巣かお前は」


「ってかさ、よく考えたらおかしいじゃん! なんでさつきちゃんはあたしたちより先に帰ってるわけ?」


「いや、職員会議とかめんどくさかったからサボってバイクで帰ってきたからだけど」


「それダメじゃん!」


「お姉ちゃん、ホントにクビにされるよ?」


 これには季実ちゃんも呆れてるみたい。さつき姉ちゃんの顔からは反省の色は全くうかがえないけど。


「ところでな」


 背後から突然声がしたと思えばまーちでした。急に来られると怖いよ。


「うわ、いきなり何よまーち」


「反省の色って何色なんやろ?」


「は?」


「いや、うちとしては青やと思うねん。でも緑かもしれんし、赤とかかもしれん。あ、白でもいけそうやな」


「……ああ、そう」


 こっちでまーちがすごいどうでもいい話をしている間に、向こうでは話がまとまったみたい。


「……はぁ。もういいや。勝手にしとけー。あたしゃ相手はせんぞ」


「ほんとに? やったー!」


 ついにさつき姉ちゃんが折れて、そう言って諦めたさつき姉ちゃんは自分の部屋に戻ってしまいました。なので3人と季実ちゃんで勉強会開始。とりあえず私は英語からやろう。


「あたしは数学やる! 一回も起きてなかったから全くわかんないんだよー」


「うちは……うちは……えっと何しよかな。あ、あれしよ。なんやっけあの……あれ…………ぐぅ」


 ……ダメだこいつら。


 それから30分経って。


「ぐぅ」


「ちょっとこれわかんないや。ってか全部わかんない。一切わかんない。やってらんない」


 案の定まーちは寝ていて、日和は勉強してるっちゃあしてるんですが、かなり陰鬱とした雰囲気ですね。


「……日和、わかんないとこあったら聞きなよ? 私、数学は割と得意だし」


「いや、なんか負けた気がするから友達には聞きたくない」


「別にそんなこと気にせんでも」


 こいつ、妙なとこで意地張るのよね。


「かといって季実ちゃんに聞けるわけもなし……あ、そだ! ここには先生がいるじゃんか! すっかり忘れてたよー」


 そう言うとすぐに立ち上がってさつき姉ちゃんの部屋に向かう日和。まぁ結果は大体予想がつくけどね。

 見ていると日和は一分足らずで帰ってきた。何故か笑顔で。


「何で笑ってんの?」


「いや、それがさ、さつきちゃんによるとね、数学なんか勉強しなくても大丈夫なんだって! 先生が言うことなんだし正しいよね? というわけであたしは漫画を読みます」


「オイ」


 結局勉強会にならなかった勉強会。一週間後はテストだってのに、こいつら大丈夫なのか?


「あっはっはっはっ」


「ぐぅーすぴー」


 ……ダメだな。




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