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ゆとりろ!  作者: 雲丹
12/31

第12話 さつきと卑弥呼

「あ、おはよ。お姉ちゃん」


「おう、おはよ。きぃ、今日誰か来るのか?」


「あ、そーなの。言ってなかったっけ?」


 どーもおはようみんな。さつきだよ、うん。

 日曜日の今日はいつも通り11時まで目が覚めないはずだったんだけど、リビングで鳴り響く掃除機の騒音によって目が覚めちまった。どうやらきぃの友達が来るらしく、そのために掃除してるみたいだな。


「へぇ、友達いたんだ」


「いるわ! お姉ちゃんじゃないんだからさ」


「お前……お前さぁ」


 こいつ時々すげーひどいよな。あたし姉貴なのにさ……そりゃ掃除、洗濯、料理とか家事は全部やってもらってるし家計もきぃがちゃんとやってくれてるし朝も起こしてくれるし……あれ? どっちが姉だっけ?


「お姉ちゃん? 大丈夫? 冗談だよ、さっきの」


「え、ああ、うん」


 ぼーっとしてたな。ガラにもなく頭使ったから。


「で、誰が来るって?」


「まぁまみちゃんはいつも通り来るんだけど」


「まみか……いや、いいけどさ」


 あいつちょっとヤバいんだよな。何がって……まぁあたしには関係ないからいいけど。


「今日はもう一人来るの。しかも転校生。ちっちゃくって可愛いんだよー?」


「ホントかよ? お前とかまみみたいなんじゃねーの?」


 最近のガキは妙に大人びてて腹立つからなー。


「ぴんぽーん!」


 そんな会話をしていると、インターホン……ではなく、インターホンの声真似をしながらまみが入ってきた。


「いやインターホン鳴らさんかい」


「まぁまぁ。細かいことは言いっこなしだよ。愛しのきぃちゃん」


「なんで『愛しの』ってつけたんだ」


「愛しいから」


「やかましいわ」


 こいつらサラッとこんなやり取りしてるが、あたしからしてみればまみの目が怖いんだよ。本気っぽくて。


「で、やや愛しのひぃちゃんは?」


「ややって何だ。ひみこちゃんはまだ来てないけど」


「えー? あたしがひぃちゃんちに電話したらもう出たって言ってたけどなぁ」


「ひみこちゃんちってどこだっけ?」


「アレだよ。ほら、三丁目の怪しい研究所みたいなとこ」


「え、アレなの!? ふぅん……どうやって知ったの?」


「追跡」


「まみ、それはな……ストーカーって言うんだ」


「言い方によるよね。悪く言えばストーカー、良く言えば……警備員?」


「意味わかんねーよ」


 そんな感じでたいして中身のない会話をしてたが、ひみこってのが来る気配はない。心配なのか、きぃはキョロキョロし始めた。


「まだかな、ひみこちゃん。10時に来るって約束したのに……」


 時計を見ると10時20分を指している。たしかに遅いな。


「しゃーねー。あたしが見てきてやるよ」


「ホントに?」


「気が利くねお姉ちゃん。2人っきりにしてくれるなんて」


「……お前、お前なぁ」


 こいつホントに大丈夫か?


「まぁいいや。行ってくる。きぃ、貞操は守れよ」


「は? 何言って」


「いってらっしゃーい!」


 まみの表情が爛々としてたが……まぁいいや。まだ小2だし、そんな大変なことにはならんだろ。

 一抹の不安を抱えながらもあたしは外に出た。


「あ、てかお姉ちゃん、ひみこちゃん見たことないからわかんないじゃん!」


「まぁいーじゃんそんなこと。2人きりの時間を楽しもうよー」


「ちょ、まみちゃんやめい!」


「ぐはっ」





 さて、外に出たはいいが、ゆくゆく考えてみればあたしはその『ひみこ』ってのの顔を知らんわけだ。そんなんじゃどうにも探しようがないな。どうする、一回家に戻るか? いやでも……

 そうやって一人で唸っていると、何やら向こうで大きい声が聞こえた。何かもめ事かな。

 ちょっと見てみると、小学生低学年らしき小さい女の子と中学生ぐらいの男子二人組が口論をしているみたいだ。穏やかな雰囲気ではない。


「な、なんだてめえ」


 中学生の片割れが慌てるのを隠しながら言う。あー、こりゃもしかしたら……


「だから、今さっきぬしらが勘定を済まさずに懐に入れた飴菓子を出さんかといっとるんじゃ」


 えらい古風な喋り方な小学生だな。

 それはさておき、やっぱりあたしが予想した通り、あの中学生どもの万引きみたいだな。まったく、今時の子供は……


 ま、あたしは人のこと全然言えないけどね。


「おい、何わけわかんねーこと言ってんだよ」


「あんま調子乗ってっと痛い目見るぞ?」


「なんじゃと? 貴様ら罪を認めん気か?」


 おっと、何か話がありがちな方向に向かってるじゃんか。それにしてもあの子すごいな。中学生相手に全く物怖じしてない。でも体は小学生、力にモノを言わされたら……


「ちょっとこっちこいや」


「む!? なにをするのじゃ!」


「大人をなめたらどーなるか教えてやんだよ」


「おい、貴様ら離せ!」


 あーあー。やっぱりこうなったか。それにしても小学生にまで手ぇ上げるとは、感心しないな。

 ま、とにかく助けるか。なるべく話し合いで解決する努力はする。


「おーい、君たちー」


「あん? なんだよおばはん」


「あ?」


 ……今こいつなんつった? お、お、お、おば……?


「……オイ、今なんつったよ?」


「聞こえなかったのか? おばはん」


 よし、努力終了だ!

 もう、あれだよ……消そう、うん。

 怒りを通り越して落ち着いたあたしは、とりあえず暴言を吐いた方の中学生……Aとするか。Aににっこり微笑む。


「ちょっとまっすぐこっち向け」


「え? 何を」


 中学生Aがこっちを向いた瞬間、あたしは右足を思いっきり上げて股間を一撃。


「ぐおっ!!!」


 ものすごいうなり声を上げてA、撃沈。

 もう一人の中学生……そうだな、ポメラニアンとしようか。え? Bじゃないのかって? そんなのどうでもいいんだよ。


「よし、ポメラニアン」


「ぽ、ポメ……?」


 横でうずくまるAを見て震えながら答えるポメラニアン。こいつにさっきのはちょっと可哀想だな。

 よし、ちょっと軽めでいこう。


「ちょっと左向いてみ?」


「ひ、左?」


 あたしの言う通り左を向いてくれたポメラニアンの右モモにちょっと緩めの一撃。


「おうふっ!」


 面白い叫び声を上げながらポメラニアン、撃沈。


「ふー……疲れた」


 久々に体動かしたらしんどいなー。あ、そういや小学生は……もしかして恐がって帰っちゃったかな?

 とか思っていると下から声が。


「ぬし、強いのう」


 あ、いたよ。


「え? ま、まぁね。てか大丈夫? 怪我ない?」


「いや、毛はあるぞ?」


「……そういうことじゃなくてだな」


 なんだこの子は。まさかの天然キャラか?


「まぁよい。助太刀感謝するぞ。お、ところでぬし、このあたりで篠塚という者の家を知らぬか?」


「篠塚? それあたしんちだけど……あ、もしかしてあんた、『ひみこ』って名前?」


「いかにも!」


「うわ、すごい偶然。あたし、季実のお姉ちゃんやってる、さつきっていうの。あんたを探しに来たんだよ」


「おお! それは助かる!」


 奇跡的にもひみこちゃんを見つけたあたしはひみこちゃんを連れて帰ることに。いやー、やっぱあたしには運命の女神がついてんね、うん。


 そういやさっきの中学生の着けてたネックレス、見覚えがあるような……


 ま、いっか。


 家に帰ると、衣服のちょっと乱れたきぃときぃに襲いかかって返り討ちにあい、鳩尾を押さえているまみがいましたとさ。


 ……何やってんだこいつら。




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