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ゆとりろ!  作者: 雲丹
11/31

第11話 ある日の季実

「おはよう」


「おはよー!」


 おはようございます、季実です。今日も今日とて学校へ来てます。そりゃまぁ小学生なんで。

 元気よく挨拶を返してくれたのは私の友達の成瀬真水、通称まみちゃんです。ちょっと『コワイ』とこもあるけど、基本的にはいい子です。


「きぃちゃん、今日はね、転校生が来るらしいんよ!」


「へぇー。どんな子だろ?」


「それがね、女の子なんだってさぁ! もう嬉しいなぁホント! あ、でも本命はきぃちゃんだから安心してね?」


「え、あ……う、うん」


 これがまみちゃんのコワイところ。ノリなのか本気なのかわからないところがまたコワイわけで。


「もー、そんな顔してたらチューしちゃうよ?」


 このノリで幾度となく唇を奪われたことがあるのです。あれ? これってヤバくないか? ……いや、大丈夫大丈夫。こんなの普通だよ、うん。

 そう自分に言い聞かせながら、気持ちを落ち着かせる。まみちゃんの口がチューの準備をしてるのはスルーしよう。


「はぁい、みんな席についてー」


 まみちゃんの顔がだんだん迫ってきたところで先生が教室に入ってきました。まみちゃんは残念そうに『ちぇー』と言いながら席に戻っていきます。本気でする気だったなあの子。


「それでは皆さん、おはようございまーす」


「おはようございまーす!」


「はい、社交辞令ありがとう」


 何言ってんだよあの人。

 今年になって新しい先生になったんですが、いまいちキャラが掴めません。ちなみにあの先生は名波無花果、ななみいちじくって言うらしいです。変わった名前ですよね。ちなみに年は22だそうです。


「今日はー、なんか知らんけど転校生来たんで紹介しまーす。はい、どうぞー」


 気づかなかったけど、先生の後ろに小さい女の子が隠れてたみたいですね。その子は先生の声に押されるようにして前に出てきました。てかホントに小さいな。110もないんじゃないか?


「…………」


「どうしたの? 男子の視線が気にいらない?」


 だからあの人は何言ってんだよ。

 でもたしかに転校生の女の子は喋ろうとしない。緊張してるのかな? そんな風には見えないけど……


「ちょっとー?」


 と、先生が更に促すと


「ん? わらわに言っておるのか?」


 と、ものすごい古風に転校生は喋りだした。

 意外すぎるしゃべり方にみんなぽかーんとしている中、先生だけはすごく嬉しそうに答える。


「そうそう、おぬしに言っておるのじゃー」


「そうか。何をすれば良いのじゃ?」


 なんだこの会話。

 先生はさすがにノリでやってるんだろうけど、転校生は本気であの言葉遣いをしてるみたいだ。ホント、世間には色んな人がいるもんだなぁ。


「自己紹介ナリー」


 それはまた何か違う気がするけど。


「なるほどな。わかった」


 そう言って転校生は先生の方からこちらへ向き直った。そして咳払いを一つ。


「わらわの名は卑弥呼! 齢十六にして女王となりし者なり!」


 『なり』って言った! いっちゃったよ! ってか名前……ひみこって言ったよね。珍しい名前だなぁ。しかも女王がどうとか言ってたし。ちょっと変わった子なのかな?


「はい、よくわからない自己紹介ありがとー」


 先生がみんなの気持ちを代弁するように言う。いや先生がそんなこと言っちゃダメだろ。


「うむ、よろしく頼む」


 ひみこちゃんはそんなことはお構い無しと言った風に言う。また何かすごい子が来ちゃったなぁ。


「はい、それじゃ朝の会はこれくらいにして、かったるい授業を始めるよーっ」


 いやかったるいってオイ。


 そんなこんなで授業が始まり、まぁ授業はいつもと同じなんで中略、全部の授業が終わったのは3時でした。


「はい、それじゃー今日もやっと終わり。お疲れさまでしたー」


「お疲れさまでしたー!」


 会社か。そこは『さようなら』だろ。

 とか思いつつもつっこまず、帰りの会も終わった訳だし帰ることに。帰りはいつもまみちゃんとかえってるんですが……あれ? まみちゃんどこに……あ、いた。ひみこちゃんのとこにいる。

 だいたい転校生が来たときってのは周りに多少の人だかりが出来るものだけど、ひみこちゃんのまわりにいるのはまみちゃん一人だ。やっぱみんなちょっと距離感あるのかな?

 そんなことを考えながら近づいていくと、まみちゃんがこちらに気づいた。


「お、きぃちゃん。今ね、ひぃちゃんと喋ってたんよ」


「あら? いきなり仲良さげだねー。ひぃちゃんとか呼んじゃって」


「いやいや。今ちょうどケンカしてるとこでさぁ」


「いきなりかよ」


 まったくこいつは何をやってんだか。ちらっとひみこちゃんの方を見ると、頬を膨らまして確かに不満そうだ。ってかすごい可愛いなオイ。


「ひみこちゃん?」


「……なんじゃ」


 あ、こりゃ確かに怒ってるな。


「まみちゃん、なんでひみこちゃんとケンカしてんの?」


「いや、あたしがなんの前触れもなく唐突にデコピンしたら急に怒ってさぁ」


「そりゃ怒るわ! ちょっと、私とかにやるんならまだ冗談通じるけどさぁ、今日会ったばかりの子にはそーゆーことしちゃダメでしょー?」


「いや、でもそこにデコがあったから」


「どこにでもあるわ!」


「あ、ここにもデコが!」


「ちょ、やめ……いたっ! あんたのデコピン、絶妙に痛いのよ!」


「ふふふ」


 そんな風に私とまみちゃんがいつものようにくだらないやり取りをしていると、いつのまにかひみこちゃんが笑ってました。

 こうやって笑ってる顔を見てると、やっぱりひみこちゃんも普通の女の子なんだなぁって思う。ちょっと変わってても、私たちとおんなじように怒ったり笑ったりするんだよね。

 とか私が思ってると、


「おぬしら、面白いのう。どれ、わらわと盃を交わさんか」


 笑顔のままそう言ってランドセルから大きなお皿とお酒を取り出すひみこちゃん。『わーい』と両手を上げて喜んでもらおうとするまみちゃん。


 んー……


 やっぱ変わってるわ。




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