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ゆとりろ!  作者: 雲丹
10/31

第10話 ある日のまーち

「弥生! 早く起きなさい!」


「んー……あと1時間」


「何言ってんの! あと1時間寝たらもう朝礼始まってるわよ!」


「朝礼……? あ、あれはおいしいやんなぁ」


「またこの子は寝ぼけて……」


「あーーーー!」


 今ぱっちり目が覚めた弥生です。時刻は7時40分、たしかに起きないとあかん時間です。ってかそれよりも!


「お母さん! また関西弁つかってもた!」


「そんなこと知らないわよ。それよりも早く朝食済ましなさい」


「え、あかんねんってぇ! 標準語に戻さな!」


「戻すって言ってもあんた、生まれつき関西弁なんだし、戻すも何もないでしょ」


「それはそうやねんけど……ってまた使ってもうた!」


 そう、うちは小学生の中学年までは関西に住んでたもんやから、関西弁を喋ってしまうんです。何でお母さんは標準語を話せるんやろう。

 その疑問を朝食の時にぶつけてみました。


「なんでお母さんは標準語喋れるん?」


「いや、なんでって言われても、もう3年もこっちに住んでたら勝手に喋っちゃうわよ」


「じゃあうちはなんで喋られへんの?」


「さぁー? そんなことより、もう時間ないわよ。早く支度なさい」


「はぁい」


 いつもこうやって答えをうやむやにされて終わってしまいます。お母さんにもわからへんのやろか?

 そんなことを考えてるうちにもう時計は8時を回ってます。これもいつも通りです。


「あ、もう行かなあかん」


「弥生、財布持った?」


「大丈夫、使わへんから」


「時計は?」


「いらんいらん」


「教科書は?」


「いらんいらん」


 そんなやり取りをしてから、家を出ます。何かカバンが軽い気がするけど……いつものことやし、まぁええか。

 うちは歩いて学校に行きます。自転車で行ってもええのですが、自転車に乗られへんのです。正確には、乗れるけどブレーキをかけられへんのです。

 8時28分、だいたいこのぐらいに学校に着きます。先生はまだ来てません。


「ふぅー、間に合ったわ」


「まーち、おはよー」


「あ、日和ちゃん。おはよう」


 うちは何故か学校ではまーちと呼ばれてます。授業後に目が覚めたらこんなことになってました。


「そういやあんた、今日の放課後空いてる?」


「放課後? 空いてるよー?」


「そんじゃちょっと寄り道して帰るぞ! うまいたこ焼き屋があるらしいんだよ」


「たこ焼き! それは食べなあかん!」


「だろ? そんじゃ放課後待ってろよ」


「わかった~」


 よし、今日はたこ焼きを食べるんや。たこ焼き……たこ焼き……たこ…………ぐぅ。





「まーち、オイ起きろ」


「ふぇ? お母さん……えらい若くなったなぁ」


「誰がお母さんだ」


 いつの間にか寝てたみたいや。目をこすってよく前を見てみると、女の人が立ってる。誰やろう?

 あ、さつき先生や。


「あ、さつき先生、おはようございます」


「うんおはよう。そしてしばくぞ」


「え、あ、ちゃうちゃう。おはようやなくて……お、おやすみ?」


 あ、さつき先生の教科書が丸まって振り上げられて――


「あたっ!」


「寝てんじゃねーよ」


「ちゃうんやってぇ」


 時計を見ると11時過ぎを指してる。もう3時間目かぁ……誰か起こしてくれたらええのに。


 そして4時間目からまた寝てしまい、次に起きたのは午後3時やった。お昼食べ損ねてもうたなぁ。


「じゃあ今日の授業はここまで。さよならー」


「さようならー!」


 終礼もいつの間にか終わって、放課後に。放課後は何か予定があったような……あ、そや。たこ焼きを食べるんや!


「おーい、まーち」


「あんたまた寝てたわね?」


「日和ちゃん、乙香ちゃん。おはよう」


「おはようじゃないわよ」


「ま、いいじゃん。早く行こうぜー」


 3人で並んで駅前の商店街へ。歩いてだいたい10分ちょっとのところにあるらしいです。


「そういえばさー」


 と、日和ちゃんが言ったのでうちと乙香ちゃんの視線は日和ちゃんへ。


「たこ焼きってさ、たこの丸焼きだと思ってたんだよあたしは」


「あんたねぇ……」


「いやいや。みんな昔はそうだったと思うよ」


「関東の人はみんなそうなん?」


「いやそんなはず」


「そうなんだよ。関東ではそれが当たり前なんだよ」


「へぇー」


「オイ」


 そんな話をしながらしばらく歩くと、新しくできたたこ焼き屋がたしかにありました。


「たこ焼き3つください」


「あ、たこ焼き言うてもたこの丸焼きとちゃいますよ?」


「んなこと言わんでいい」


 ツッコミされながらもたこ焼きをもらい、みんなで座って食べることにしました。


「うわぁ、うまそー!」


「たしかにおいしそうねー」


「においがすごいで」


「いただきまーす」


 お昼も食べてないし、ものすごいお腹空いてるんや。やけど、やけど……


「食べられへん」


「仕方ない、あたしが食べてやるよ」


「待て待て! 急すぎるだろ」


「これ熱すぎて食べられへんのや。うち猫舌やんかぁ?」


「いや……知らんけど」


 猫舌ってホンマ困るわ。猫も大変やなぁ。


「あ、そういえば、猫ってみんな猫舌なんか?」


「……さぁ?」


「猫舌じゃないやつもいるんじゃない?」


「そうなんかなぁ? いや、でも猫舌って言うぐらいなんやし、みんな猫舌なんちゃうやろか。でも例外っちゅうのもあるやろうしなぁ。そういえば犬かきって全部の犬ができるんやろか? それが全部やなかったら猫舌も全部やない気がするけど……あ、犬かきと言えば猫は泳げるんやろか? 猫は猫かきを」


「……早く食べないと冷めるよ? あと、日和がすごい見てるから早く食べないと奪われるよ?」


「へ? あ、うん」


 また考え事してしもた。考え事をし始めると周りが見えんくなるってお母さんに何回も言われたのに。

 まぁええわ。今はたこ焼き食べよ。


「いただきまーす。あーん……あつっ!」


「……あんたアホだろ」


 なんとか全部食べて、ちょっとしてから帰ると、家につく頃にはもう6時前でした。


「ただいま」


「おかえり。弥生、遅かったわね。お父さんが心配してたわよ」


「あ、お父さんもう帰ってるんや」


「弥生ー!」


 この地響きがするような叫び声の主はお父さんしかいない。見ていると、居間から大きな影が飛び出てきた。


「お前……こんな時間までどこひょっつき……ほっつき……あ、歩いてたんやぁ?」


「くさっ! お父さんものすごい酒臭い!」


「お前、父親に向かって……あの……アレすんなおぉ」


 今日のお父さんはいつも以上に荒れてるなぁ。


「お母さん、お父さんに何かあったん?」


「年下の子にフラれたんだってさ」


「また? もう、お母さんがいるんやから他の人に手ぇ出したらあかんよ? ってかそれをお母さんに言うのもあかんやろ?」


「いいのよ、弥生。どうせこの人は手なんか出せないんだから。この顔だし」


「ぐぅー」


 こんな感じで今日も我が家は賑やかです。



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