正徳寺の会見と、マムシの対決
堺から尾張に戻った私を待っていたのは、信長様からの無茶振りだった。
「百舌鳥! 美濃の蝮(斎藤道三)が俺に会いたいと言ってきた。正徳寺で会見を行う。お前も茶々丸を連れて、俺の背後に控えろ」
「えぇ……。あのじじい、食えない奴だって有名じゃないですか。それに茶々丸はまだ修行中の身ですよ」
「案ずるな。お前の『不思議ポケット』の中身があれば、蝮などただの泥ドジョウに変わるわ!」
信長様はそう言って豪快に笑うが、その目は戦う者のそれだった。
当日、正徳寺。
信長様は、わざと「うつけ」を演じるため、ボロボロの着物にひょうたんをぶら下げた、最悪のファッションで現れた。
一方、私は背後に控えつつ、茶々丸に「いいか、何かあったらこれを投げろ」と特製の煙幕を手渡しておく。
対する斎藤道三。
鋭い眼光。まさに獲物を狙う蛇の如き威圧感。
彼は信長様を品定めするように眺め、やがて視線を後ろに控える私へと移した。
「……ほう。信長、そこの小娘が噂の『百舌鳥』か。我が刺客を赤子の手をひねるように追い返したという、不気味な知恵を持つガキだな」
道三の声が冷たく響く。私は一歩前に出て、不敵な笑みを浮かべた。
「お初にお目にかかります、蝮の旦那。刺客の方々には、当方の『マムシ(コルトマムシ)』の味を楽しんでいただきましたよ」
「言ってくれる。だが、その筒だけでこの乱世は渡れまい」
「そうですね。ですから、今日は旦那に『未来の味』を献上しに参りました」
私は不思議ポケットから、堺で手に入れた卵と油、そして秘密の香辛料で仕上げた『最高級マヨネーズ』を添えた、旬の野菜を取り出した。
「旦那、これを食べてから、殿(信長)を『うつけ』か『英雄』か、判断していただきたい」
道三は怪訝そうに一口食べた。
……刹那。その鋭い眼光が驚愕に染まる。
「…………なんだ、このコクは。これほどの旨味、京の都でも味わったことがない」
「殿が目指しているのは、こういう『新しい常識』が溢れる世の中です。旦那、あんたの古い時代は、もう終わるんですよ」
静寂が流れた。
道三は信長様をじっと見つめ、やがて声を上げて笑い出した。
「……くっ、くかかか! 面白い! 信長、貴様もその部下も、とんだ化け物よ。わしの息子たちは、いずれ貴様の門前に馬を繋ぐことになるだろうな」
歴史上、道三が信長を認めたとされる瞬間。
だがその裏には、三十路無職おじさんの「マヨネーズ外交」が確実に効いていた。
会見が終わり、寺を出る際。茶々丸が私の服を引っ張った。
「おねえちゃん、あのじじい、ちょっと震えてたよ」
「……そうだね。茶々丸、これが『内政チート』の威力だよ。覚えておきな」
私は雷蔵の頭を撫でながら、夕日に染まる美濃の山々を眺めた。
これで同盟は成った。次は……織田家をもっと豊かにするための、本格的な「産業革命」の始まりだ。




