路地裏の出会いと、最初の子分
「……しつこいね。接待の後の残業代は高いよ?」
堺の入り組んだ路地裏。闇に紛れて迫る刺客は五人。
今井宗久との商談を快く思わない競合商人が雇った、腕利きの浪人崩れだ。
「ガキが……その帳簿の秘密、死んで置いていけ!」
一人が刀を振り下ろす。
「不思議ポケット」から、現代のタクティカルライト……を模して作った、超強力な「マグネシウム閃光玉」を取り出し、地面に叩きつけた。
――カッ!!
「ぎゃあぁっ!? 目が、目がああぁ!!」
「雷蔵、掃除開始!」
「ワンッ!」
視力を奪われた男たちの急所を、雷蔵が正確に無力化していく。その間に、残った奴らの喉元にコルトマムシの銃口を突きつけ、「銃身打ち」で気絶させた。
「……ふぅ。平和主義なんだけどなぁ」
血振るいをして刀を収めようとした、その時。
路地のゴミ溜めの影で、何かが動いた。
「…………」
ボロボロの着物を纏い、汚れだらけの顔をした小さな少女が、怯えた瞳でこちらを見つめていた。
手には、さっき落とした「試作のマヨネーズの瓶」を大事そうに抱えている。
「あー……ごめん。驚かせたね。それ、美味しいけどそのまま食べるとお腹壊すよ」
「……おねえちゃん、つよい。……おなかすいた」
少女の声は蚊の鳴くようだった。
弱っている子供に滅法弱い。「前世で姪っ子に甘々だった記憶」が疼く。
「……よし、決めた。雷蔵、今日の晩飯は三人分だ」
少女を抱き上げると、宿に戻って「不思議ポケット」から出した秘蔵の「フリーズドライ風の乾燥米」と、今井屋で手に入れたばかりの食材で雑炊を作ってやった。
「うまっ……うまい! おねえちゃん、これ、なに!?」
「それはね、現代の……じゃなくて、私の魔法さ。あんた、名前は?」
「……ない。みんな『ガキ』って呼ぶ」
その言葉に、胸の奥がチクリと痛んだ。
戦国時代の孤児。歴史の教科書には載らない、ありふれた悲劇。
「……今日からあんたは『茶々丸』だ。私の弟子、兼……そうだな、仲間みたいなもんだ。いいか、私の下で働くなら、美味しい飯は保証してやる。その代わり、修行は厳しいよ?」
茶々丸は、雑炊の器を離さないまま、力強く頷いた。
こうして、堺の路地裏で、後に右腕となる最強の次世代くのいちを拾うことになった。
「さて、信長様に報告だな。『面白い種と、もっと面白い拾い物がありました』ってね」
雷蔵が茶々丸の顔をペロリと舐める。
三十路無職おじさん。転生して十二年。
ついに「親代わり」としての人生も、なし崩し的にスタートしてしまった。




