島津のチェスト・バーサーカー vs 現代のスポーツ医学 〜鬼の解毒と、健全な引退〜
「……おい、ふざけんなよパパ。あいつら、馬より速いぞ。CEOの野郎、あんなえげつない『エナジードリンク』を戦国時代の奴らに飲ませたのか? 現代のカフェインとアドレナリンを100倍濃縮して、さらに痛覚を遮断する成分を混ぜやがったな。あんなの、ホワイト企業の経営者が一番やっちゃいけない『社畜の限界突破(過労死コース)』だぞ」
肥後・人吉。俺、百舌鳥は、バナナの着ぐるみのメインモニターに映し出される、信じがたい光景に戦慄していた。
前方から迫りくるのは、島津家久率いる精鋭部隊。だが、その姿は異常だった。全員が白目を剥き、口からは泡を吹き、全身の筋肉がはち切れんばかりに肥大化している。彼らは「チェストォォォ!」という絶叫と共に、重い甲冑を着たまま、現代の100メートル走選手並みの速度で、不眠不休で走り続けているのだ。
「百舌鳥、あれはもはや人間ではない。イチゴの甘い言葉も、あの狂気には届かぬぞ」
信長も、イチゴの被り物を深く被り直し、リボルバーのシリンダーを重く回した。
「パパ。あれは『義』でも『忠誠』でもない、ただの『薬物依存』です。放置すれば、彼らは戦いが終わる前に心不全で全滅する。……キウイ、用意はいいな。今回は『軍事攻撃』じゃない。……史上最大の『強制デトックス(薬物抜きの加療)』を開始する!」
「島津の皆さん、止まりなさい! 貴方たちの心臓はもう限界です! そのドリンクは『勇気の水』ではなく、ただの『命の前借り』だ!」
俺は不思議ポケットから取り出した、現代の『超指向性・広報スピーカー』から、心臓の鼓動音を増幅したBGMと、俺の声を叩きつけた。
だが、ドーピング兵たちは止まらない。CEOが施した「ブラックな洗脳」と、脳内麻薬の過剰分泌により、彼らには恐怖という概念が消えていた。
「無駄だ、バナナ! 拙者たちは島津の鬼! 死ぬまでチェストし続けるのみにごわす!」
先頭を走る島津家久が、一跳びで五メートル以上の距離を詰め、俺のバナナの頭部に木刀(という名の鈍器)を叩きつけてきた。
凄まじい衝撃。防弾仕様の着ぐるみでなければ、俺の首は今頃「誤チェスト」されていただろう。
「……っ、痛ぇな! キウイ、第一段階、散布しろ!」
「了解だ。……非致死性・強力鎮静ガス(霧状)および、中和剤入り着色弾、発射」
キウイが指揮する技術部隊から、無数のガス弾が放たれた。それは敵を殺すための煙ではなく、現代の『全身麻酔薬』を霧状にしたものだ。さらに、不思議ポケットから出した『特製・中和剤(エナジードリンクの成分を分解する)』を、着色弾に込めて島津兵の皮膚に叩き込む。
「ぬ……!? 身体が……身体が、急に……眠い……。……チェ、チェスト……が、続か……」
次々と膝を突く島津の精鋭たち。だが、家久だけは異常な精神力で、ガスの中でも目を血走らせて立ち上がっていた。
「……まだ……まだにごわす……。拙者は、立ち止まるわけには……」
「家久さん。……もういい。もう、頑張らなくていいんだよ」
俺はバナナのハッチを開け、美少女の姿で家久の前に降り立った。手には、不思議ポケットから出した『現代製・自動注射器』を握っている。
「……お主……くのいち……。拙者を……殺しに……」
「殺さない。……貴方を、普通の『人間』に戻しに来たんだ」
俺は家久の腕に、一気に鎮静剤と心臓保護薬を注入した。
数秒後、彼の全身を覆っていた異様な血管の浮き出しが収まり、焦点の合っていなかった瞳に、本来の知性が戻ってきた。
「……はぁ、はぁ……。……拙者は、何を……。……身体が、泥のように……重い……」
「それが正常な『疲れ』だよ。……家久殿。貴方はCEOに騙されて、命を削る『超ブラックな働き方』をさせられていたんだ。……もう、走り続けなくていい。……これからは、ゆっくりと『身体のメンテナンス』をして、引退した後の生活を考えよう」
俺はポケットから、一通の『長期療養・隠居勧告書』と、一箱の『現代の高級プロテイン(リカバリー用)』、そして『現代製・全自動マッサージベッド』の目録を取り出した。
「島津の兄弟たちよ。貴方たちは戦国最強だ。だからこそ、その力を正しく使う場所が必要だ。……これからは織田グループの『スポーツ振興・特別顧問』として、若手への指導と、自身の健康管理に専念していただきます。……あ、引退後の島流し……もとい『保養地』は、南の種子島を用意しました。あそこなら、好きなだけ海を眺めて、たまに鉄砲の整備をして過ごせますよ」
家久は、俺が差し出した『温かいスポーツドリンク』を一口飲み、涙を流した。
「……温かい……。……拙者、ただ……休みたかったのかも、しれぬ……」
最強のチェスト集団、島津四兄弟。
彼らもまた、現代の『スポーツ医学』による強制的な休養(有給休暇)の前に、その狂気を脱ぎ捨て、円満な引退を受け入れた。
「……パパ。これで九州も、ホワイトな風が吹いたな」
俺は、眠りについた島津兵たちをケアする「医療班」を見送り、タブレットで版図を確認した。
日ノ本のほぼ全土が、織田の「ホワイト(白)」で塗りつぶされた。
「百舌鳥。……ついに、ここまで来たか。……あとは、あの男だけだな」
信長がイチゴの被り物を脱ぎ、西の空を睨んだ。
そこは、海外逃亡していたCEOが、最後に残した「巨大なブラック企業要塞」が構える場所。
「ああ。……CEO。あんたのやり方は、もうこの国じゃ通用しない。……おじさんの『現代のコンプライアンス』で、あんたの全システムを、完膚なきまでにデリートしてやるよ」
俺は不思議ポケットから、最終決戦に備えた『現代の退職届(全組織一括用)』と、茶々丸が書いてくれた「ぱぱ、がんばれ」の絵を取り出した。
天下統一まで、あと一歩。
だが、その背後では、1582年という「本能寺」のカウントダウンが、静かに、そして確実におじさんの首筋に迫っていた。




