武田信玄の車懸り vs 現代の地雷原 〜虎を罠にハメるバナナ〜
「……おい、パパ。笑い事じゃないぞ。あいつらは朝倉や浅井とは年季が違うんだ。武田の騎馬隊ってのはな、現代で言えば『フルカスタマイズされた大型バイク集団』が、時速40キロでこっちのメンタルを物理的に轢き殺しに来るようなもんなんだよ。……正直、おじさん、怖くてバナナの中で震えてるんだ」
三方ヶ原を望む高台。俺、百舌鳥は、バナナの着ぐるみのモニターに映し出される「武田軍」の熱源反応を見つめていた。
地平線を埋め尽くす「風林火山」の旗指物。その中心には、巨大な諏訪法性の兜を戴き、悠然と床几に腰を下ろす甲斐の虎・武田信玄がいる。CEOが残した「極端な軍事効率主義」を取り入れた武田軍は、今や全騎馬が現代の『蹄鉄(ハイグリップ仕様)』を装備し、悪路でも速度を落とさない化物集団と化していた。
「百舌鳥、何を震えておる。貴様のポケットには、あの天下無敵の『じらい』とやらがあるのだろう? 虎など一網打尽にしてしまえ!」
信長はイチゴの着ぐるみを揺らし、リボルバーを弄んでいる。彼にとっては、最強の敵が現れることこそが最高のエンターテインメントらしい。
「パパ……地雷ったって、俺が使うのは爆発して足を飛ばすような非人道的なもんじゃない。……おじさんが用意したのは、現代の化学の結晶、超強力・瞬間硬化・多目的粘着トラップ――通称『ゴキブリホイホイ・戦国版』だ」
俺は不思議ポケットから、噴霧式の『現代製・特殊粘着剤』と、リモコン起動式の『非致死性・音響地雷』を取り出した。
「武田軍、動きました! 魚鱗の陣を形成、こちらへ突撃してきます!」
小次郎の報告と同時に、大地が震えた。
「突撃ィィィィ! 織田の着ぐるみ共を、馬の蹄で踏み潰せ!」
山県昌景率いる赤備えの騎馬隊が、真っ赤な奔流となってこちらへ肉薄してくる。戦国最強の突進力。まともに受ければ、いくら防弾仕様の着ぐるみでも衝撃で中の「おじさん」がミンチになる。
「キウイ、今だ! 第一ライン、噴射!」
「了解だ、バナナ。……トラップ、アクティベート」
キウイが無線機で指示を飛ばすと、最前線の地面に埋め込まれていた数百のスプリンクラーが一斉に起動した。
噴射されたのは、現代の工業用接着剤をベースに、おじさんが「不思議ポケット」でさらに粘度を高めた『超高粘度ポリマー』だ。
「……ぬ!? 馬の足が……動かぬ!?」
突進の勢いそのままに、武田の先鋒隊が次々と「地面に張り付いて」転倒していく。時速40キロから急激にゼロになる物理現象。武田の精鋭たちが、まるでスローモーションのように空中を舞い、泥濘の接着剤へとダイブしていく。
「第二ライン、音響弾投下! 馬をパニックに陥れろ!」
さらに俺は、不思議ポケットから取り出した『現代製・大音量拡声器』を最大出力で起動させた。
流れるのは、幸若舞ではない。おじさんがニート時代に耳にこびりついた、現代の『不快な高周波ノイズ』と『工事現場の騒音』をミックスした地獄のBGMだ。
「ヒヒィィィィン!!」
耳の良い名馬たちほど、その異常な音響に狂い、制御不能となる。最強の兵種であるはずの騎馬隊が、接着剤で身動きが取れず、不快な音に耳を塞いでのたうち回る地獄絵図。
「……おのれ、織田! 卑怯な真似を! 正々堂々と槍で語り合え!」
「悪いな、信玄公。俺は美少女だけど中身は30代無職のおじさんなんだ。正々堂々なんて言葉、ハローワークの求人票と同じくらい信じてねぇんだよ!」
俺はバナナの着ぐるみのブースターを点火し、動けなくなった武田の本陣へと滑り込んだ。
そこには、愛用の軍配を震わせ、苦虫を噛み潰したような顔の武田信玄がいた。
「武田信玄公。……貴殿の『風林火山』、現代の『化学と音響学』の前には、ただの古いファイル形式ですよ」
「……百舌鳥、と言ったか。……貴様、なぜこれほどの力を持ちながら、我らを殺さぬ? 今の我らなど、首を刈るのは容易かろう」
「パパ……信長様は、貴方の『首』には興味がないんです。興味があるのは、貴方の『経営手腕』と、その頑丈な体だ」
俺はポケットから、一通の『現代式・健康診断報告書』と、一振りの『現代製・特殊鍼灸セット』を取り出した。
「信玄公。貴方の肺、もうボロボロでしょう? CEOの薬で無理やり持たせてるみたいだけど、それじゃああと数年で『物理的に』隠居することになる。……どうです? 織田の傘下に入って、現代の『呼吸器科』の治療を受けながら、余生を『山梨・信州広域開発のアドバイザー』として過ごしませんか?」
信玄の鋭い眼光が、俺の持つ『最新型ネブライザー(吸入器)』と、タブレットに映し出された彼の肺のCTスキャン画像(ポケットの透視スキャナーで撮影)に注がれる。
「……治療、だと? 私を、生かすというのか」
「死んだ英雄より、生きて働く熟練経営者の方が、会社(日ノ本)のためには有益ですから。……あ、これが退職金代わりの『現代製・高級マッサージチェア』と、武田の家紋を刺繍した『酸素カプセル』の目録です」
信玄は、接着剤で固まった愛馬を見つめ、やがて長く、深い溜息をついた。
「……風は止まり、林は固まり、火は消え、山は動けずか。……完敗だ。着ぐるみの小娘に、ここまで『命の価値』を説かれるとはな」
戦国最強、武田信玄。
現代のトラップと医療チートの前に、その牙は抜かれ、彼もまた「隠居(伊豆の療養所行き)」という名のホワイトな結末を受け入れた。
「……パパ。最大の壁だった武田を、これで『合併』完了だ」
俺は、接着剤まみれの戦場を掃除する「技術者集団」を見ながら、バナナの頭部を外して呟いた。
「がっはっは! 百舌鳥、貴様の戦い、もはや芸術だな! 虎をマッサージチェアで飼い慣らすとは、誰が想像したか!」
信長が満足げに俺の肩を叩く。
だが、俺の心は晴れない。武田が降ったということは、次はいよいよ――軍神・上杉謙信。そして、その背後で糸を引く、CEOとの最終決戦が近づいているということだ。
「……キウイ。接着剤の在庫を補充しておけ。次はもっと『信心深い』奴が来る。……毘沙門天の化身に、現代の『メンタルヘルス』を叩き込んでやるぞ」
「了解だ、バナナ。……次は、アルコール消毒(酒攻め)が必要になるかもしれないな」
おじさんの天下M&A。
戦国最強を次々と「隠居」へ追い込むその歩みは、もはや誰にも止められない領域へと突入していた。




