再就職の面接は「マヨ」の味
「おい信長様、いきなり肩組むのは勘弁してくれよ。こっちは風呂上がりなんだ」
私は信長の腕を器用にすり抜けると、隣で警戒を解かない雷蔵の頭を撫でた。
信長は驚いたように目を見開いたが、すぐに愉快そうに喉を鳴らした。
「はははっ! 俺を名で呼び、さらにその腕を払うか。尾張広しといえど、そんな不届き者は貴様か、あるいは死を恐れぬ馬鹿だけだ」
「馬鹿じゃないよ。ただ、私は『自由』と『美味い飯』が好きなだけの、しがない旅の忍びさ。……で、殿様。さっきの言葉、嘘じゃないだろうね? 最高の飯、食わせてくれるんだろ?」
私は「不思議ポケット」をポンと叩いて見せた。
信長は不敵に笑い、「ついてこい」と一言残して歩き出した。
連れてこられたのは、後の清洲城下。まだどこか泥臭さが残るが、活気に満ちた織田の屋敷だった。
通された広間には、驚くほど豪華な膳が並んでいる。
焼き魚、煮物、そして白い米。
「……おお。これだよ、これ」
私はおじさん特有の「いただきます」を小声で呟き、箸を動かした。
しかし、一口食べて首を傾げる。
(……素材はいい。でも、パンチが足りないんだよな。この時代の調味料は塩か味噌、あとは酒くらい
か……)
私は「不思議ポケット」の奥底をまさぐり、小瓶を取り出した。
里での修行の合間に、鶏の卵と酢、油、そして秘密の香辛料を乳化させて作った、現代知識の結晶。
「戦国特製・手作りマヨネーズ」だ。
私はそれを焼き魚の横にトロリと乗せ、一口パクり。
「……っ! これだ、この暴力的な旨味! 脳が震える!」
「おい、何を不気味な白い泥を舐めている。毒か?」
信長が怪訝そうに覗き込んでくる。
私は無言で、箸の先にマヨを少し付け、信長の膳にある魚に塗りたくった。
「毒じゃないよ。……食べてみな、殿様。世界が変わるから」
信長は疑い深げにその魚を口に運んだ。
一瞬、時が止まる。
信長の目が、かつてないほど見開かれた。
「…………なんだこれは。この濃厚なコク、そして爽やかな酸味……! 米が止まらぬではないか!」
「だろ? それが私の内閣総理大臣……じゃなかった、『内政チート』の第一歩だよ」
信長はガツガツと飯を掻き込み、満足げに腹を叩いた。
「百舌鳥! お前、気に入ったぞ。その知恵、その筒、そしてその白い泥! すべて俺のために使え!」
「いいよ。その代わり、私の自由は保証してもらう。あと、雷蔵のドッグフード……美味しいエサもね」
「ワン!」
こうして、三十路無職のおじさんは、マヨネーズ一本で戦国最強のベンチャー企業・織田家への入社(強制)を果たした。
だが、その夜。
私は信長に「風呂に入れ」と命じられ、戦国時代の『衛生環境』という名の第二の敵と対峙することになる。
【第5話予告】
石鹸を作って信長を磨き上げる百舌鳥。
しかし、湯気の中から現れたのは、美しき毒蛇・帰蝶(濃姫)!
「殿の背中を流す不届きな小鳥は、お前かしら?」
女の戦い(中身はおじさん)が、今始まる!




