パパの暴走と、おじさんの妨害工作
「……おい、もう一度言ってみろ。俺の聞き間違いだよな? 耳にマヨネーズでも詰まってたかな?」
清洲城の一室。俺――中身は30代無職童貞おじさん、外見は誰もが見惚れる絶世の美少女くのいち・百舌鳥は、目の前の「イチゴ」を凝視していた。正確には、イチゴの着ぐるみを着て、ご機嫌で幸若舞を舞っている織田信長である。
「だからよ、百舌鳥! 茶々丸も年頃だ。薩摩の島津から、若くて威勢のいいのが来ている。名は島津歳久。こいつがなかなかの『チェスト』でな、茶々丸の婿に相応しいと思って勝手に決めておいたぞ!」
信長がガハハと笑い、イチゴのヘタ部分を揺らす。
俺の脳内で、何かがブチ切れる音がした。
(ふざけんなよ、このクソ上司が……!)
茶々丸は俺が拾った娘だ。血は繋がっていないが、現代で絶望していた俺に「パパ」と呼びかけてくれた、このクソみたいな戦国ライフにおける唯一の癒やし、俺の聖域なんだ。それをなんだ、「チェスト」だの「筋肉ダルマ」だの、野蛮な薩摩隼人に差し出すだと?
「信長様……いえ、パパ。茶々丸はまだ幼い。それに島津って、あいつら挨拶代わりに首を獲りにくる戦闘民族じゃないですか。そんな家庭に嫁いだら、茶々丸が晩ご飯の献立に迷っただけで『誤チェストにごわす!』とか言って斬り捨てられますよ!」
「案ずるな。島津の若造には『茶々丸を泣かせたら貴様の領地にパイナップルを植える』と脅しておいた」
「脅しの質がピンポイントすぎるんだよ! CEOの呪いか!」
俺は深いため息をつき、装束の「不思議ポケット」に手を突っ込んだ。
ここには現代の便利グッズから、倫理的にアウトな代物まで何でも揃っている。
「いいだろう。パパがその気なら、俺にも考えがある。このお見合い、俺が全力で『破談』にしてやる。おじさんの執念、舐めんなよ……」
翌日。清洲城の庭園には、お見合い用の特設席が設けられていた。
そこに現れたのは、上半身裸に申し訳程度の具足を付け、首から「チェスト」と書かれた札を下げた巨大な筋肉の塊。島津家の若き猛将、島津歳久(の、この世界線における姿)である。
「おいは島津歳久! 趣味は素振りと首狩りにごわす! チェストォォォォ!」
挨拶と共に、歳久が庭の石灯籠を素手で粉砕した。破片が茶々丸の頬をかすめそうになる。茶々丸はスイカを被った柴犬・雷蔵の背中に乗り、困惑した表情で「えっと……ハロー?」と小首を傾げている。
「(……よし、ターゲット確認。まずは第一段階だ)」
俺は植え込みの陰で、不思議ポケットから『超強力・瞬間接着剤(工業用)』と『超高濃度・失神ローション』を取り出した。
「キウイ、準備はいいか?」
「了解だ、バナナ。元一等陸佐として、この不適切なマリアージュを阻止する。敵の筋肉密度は推定120%、通常の攪乱では効果が薄いと判断。化学兵器の使用を許可願いたい」
キウイ(元自衛官の転生者)が、キウイの着ぐるみを揺らしながらタクティカルな動きで歳久の背後に回る。
「作戦開始だ。行け!」
まず俺がポケットから取り出したのは、『現代製・超強力激辛ワサビエキス(抽出液)』。これを、歳久が豪快に飲み干そうとしている献上の酒に、音もなく投下する。
さらに、彼が座る座布団には『瞬間接着剤』をたっぷりと塗布しておいた。
「さあ、茶々丸殿! 薩摩の愛を受け止めるにごわす! 乾杯にごわ――っぶふぉぉぉぉぉぉぉ!!?」
酒を煽った瞬間、歳久の顔が完熟したトマトのように真っ赤に染まった。鼻から火が出るような激痛。しかし、彼は島津の男だ。
「……ッ!! ぬ、ぬおおお! この酒、魂が燃えるような熱さにごわす! これぞ真の漢の酒! チェストォォォォ!」
「(……嘘だろ、あいつ耐えやがった!?)」
さらに歳久が立ち上がろうとするが、座布団が尻に密着して離れない。
「ぬ? 尻が……尻が大地と一体化している!? これも島津の修行にごわすか!」
バリバリと音を立て、歳久は座布団を引きちぎり、そのまま尻に布をつけた状態で演武を始めた。
「ダメだ、脳筋すぎて嫌がらせが効いてねえ……! こうなったら、物理的に『お見合いどころじゃない状況』にするしかない」
俺はポケットの奥底から、最終兵器を取り出した。
それは、『超音波発生装置(犬猫撃退用・改)』と『強力電動マッサージ機』、そして『現代製・超強力下剤』のトリプルセットだ。
「おい小次郎! それを歳久の褌の中に放り込め!」
「えっ、あ、はい! 師匠、でもそれは流石に卑怯では……」
「うるせえ! 茶々丸の将来がかかってんだよ! 早くしろ!」
茶々丸に片想い中の小次郎が、複雑な表情を浮かべながらも忍びの技で接近。歳久の褌の隙間に、フルパワーで振動する「それ」と、即効性の下剤を仕込んだ。
「チェ、チェストォォ!? 何か……拙者の『聖域』が猛烈に震えているにごわす! かつてない高揚感……そして、腸内が大洪水にごわす!!」
歳久の顔から余裕が消える。
股間がギュンギュンと振動し、腹の中では現代の化学兵器が猛威を振るっている。
「ま、待つにごわす……これは、これは『チェスト』では解決できない事態にごわ――」
「今だ、雷蔵! 追い打ちをかけろ!」
「ワン!(承知!)」
スイカを被った柴犬・雷蔵が、歳久の足元に滑り込み、彼の「聖域」に頭突きを食らわせた。
振動・便意・衝撃。
三位一体の攻撃を受けた島津の猛将は、白目を剥いて清洲城の庭園に崩れ落ちた。
「……勝った。茶々丸、パパ(俺)が守ってやったぞ」
俺は美少女の姿で、中身はおじさんのドス黒い笑みを浮かべた。
だが、事態は思わぬ方向に転がる。
「ほう……これほどまでに歳久を翻弄するとは。百舌鳥、貴様の茶々丸への愛、感じ入ったぞ」
いつの間にか、信長が背後に立っていた。その隣には、帰蝶(濃姫)が妖艶な笑みを浮かべて控えている。
「パパ……いや、信長様。これはあくまで茶々丸の教育の一環で――」
「良い。ならば次は、島津の家長・義久本人を呼ぼう。あやつなら今の攻撃にも耐えるはずだ。茶々丸、次はもっと強い『パパ』を連れてきてやるからな!」
「嫌だよ!! もうお見合いなんてさせないからな!!」
俺の絶叫が清洲城に響き渡る。
茶々丸はと言えば、気絶して痙攣している歳久を指差して、「パパ、あの人踊ってるの? おもしろーい!」と無邪気に笑っていた。
その夜。
「……百舌鳥、今日は随分と荒ぶっていたわね。少し、落ち着かせあげましょうか?」
自室に戻った俺を待っていたのは、艶やかな薄衣を纏った帰蝶だった。彼女の指先が、俺の(というか百舌鳥の)白いうなじを這う。
「帰蝶さん……俺、もう疲れましたよ。中身はおじさんなのに、なんでこんなに育児と妨害工作に追われなきゃいけないんだ……」
「いいのよ。おじさんの貴方も、美少女の貴方も、私が全て愛してあげるから。……さあ、不思議ポケットから『いつもの』を出して?」
「……。……はい」
戦国の世は、今日もカオスで、そして少しだけエロティックに更けていく。
パイナップル(CEO)が残したブラックな日本を立て直す道は、まだまだ遠い。




